第356話 海からやってきた貴人達(ダイタイスーリガワルイ)
ライアームの子である二人。シャルルに似せた替え玉かと思ったがやはり5歳児らしい。二人とも大人の体つきである。珍しいと思ったけど、そう言えば私もなれるな。
「とにかくお会いできて光栄です。他の方の対応もありますのであちらでお菓子でも食べていてくださいませ。私は所用がありますので対応は元王族であるディア様に引き継ぎますね」
「「わーい!」」
私が言い終わる前よりも先に二人ともお菓子に向かって全力疾走である。見た目だけは二人とも大学生か新社会人ぐらいにも見えるけど……中身はおこちゃまだな。
本来であればこの二人にもお付きの人が居るはずだけど、まだスーリの魔法に収納されたままなのかな。
スーリは順番とか関係なく彼らを収納した。ちなみにこの技能を私に使えばよかったのではと思ったけど、数年に一度、半月の夜の間にしか使えないそうだ。
彼らにとってはさぞ恐ろしかったのだろう。
闇夜の中、抗えないほどの力を持つ謎の上位存在に襲われる。……トラウマになってもおかしくないほどの恐怖を体験した人もいるのが見て取れる。ちなみに数人の姫や護衛や従者は逃げ出していてここにはいない。既に国際問題レベルである。
途中出てきたっぽい他国の姫様や護衛の偉い人と少し挨拶して、歓迎の宴をセッティングだけして……神殿に帰って寝た。
私はこの領地の領主であり、彼女らをお迎えする筆頭婚約者の一人。
つまりはホストの立場だし、ゲストをおもてなししたいところだけど……もう体が限界だ。何もしなくても大人モードになりそうだった。彼らをぞんざいに扱いたかったわけではないけど……もう疲れたし、最低限の仕事はしたはずだ。
料理は豪盛にしてもらったし……後はディア様と他の筆頭婚約者に対応全部丸投げである。ミィアとリュビリーナはこちらに来たがったけど他国の人間をもてなしてもらいたい。
リュビリーナは洗脳されていて全く気がついていなかった。だからか汚名返上とばかりに働いてくれている。彼女ならシャルルの筆頭婚約者集団の中でも私の配下になった経緯もあって、この地でのもてなし役には適任のはず。私といる時はなんか「好き好き大好きおねぇ様」なポンコツ感があるけどお客さんの対応は出来ている。いつもそうで居てくれ……。
エール先生は裏で風の魔法で彼らの言葉を集めて情報収集している。超魔力水に漬けて傷を治したとはいっても出血もあったし無理をしないでもらいたい。
途中姫君のうちの一人、顔を隠したどこかの国の令嬢が妙にこちらを見てきた気もする。以前行った花嫁作戦と同じく、彼女の顔を見て良いのはシャルルだけらしい。……なにか怪しい行動をしないか不安なのでしっかり見張ってもらう。
そして懸念していたスーリだけど、奴は帰った。
可能な限りこちらに有利な条件をつけたため、今後エルフがここに来て交易と言う名の貢物が渡されることになる。スーリには食事も衣服も寝床すらも必要ないため、金銭や食品に価値を見出だせないのかもしれない。
帰還門という移動手段がある以上、ここに居てもらった方がエルフの国とのやり取りはうまくいくかもだけど、まだ他にもエルフの国を狙う上位存在がいるかもしれないと言いくるめ…………説得して帰ってもらった。
思った以上に数のいる姫君……その中でも三人、気になる人がいた。そして内二人がとても可哀想なことになっている。
一人は頭を四角い箱で覆った姫であるヌールー。神聖国からきた聖女だ。
四角い紙袋のようなものを頭に被っていて目の部分に穴がある。彼女はやけに存在感があって目に付く。そして神殿に連れて行くとその場でずっと祈って動かなくなってしまった。
もう一人、緑のドレスのミンテー・ト・ラシュコマ。
背は中学生ぐらいか明るい赤毛系の茶髪で騎士の国の姫君。手芸をずっとやっている。彼女は頑なにこちらを見ようともしないので気になった。報告によると香辛料やスパイスそして生地や糸、染料に反応を示しているらしい。
彼女は残念なことに……彼女が捕まった段階で彼女の護衛やお付きの人は混乱に乗じて何処かに逃げてしまったらしい。すごい哀れみの目を向けられている。
そして、姫だけが残ったケースは彼女だけだが、護衛対象がいない従者や騎士が居た。
彼らは他国の人間であり、この国は「精霊」とかいう他国にとって訳のわからない上位存在が猛威を振るう国である。他国の騎士が自由行動するなんてスパイ行為に当たりかねないし下手すれば何年も牢獄ぐらしとなる。そのため……何故か彼らはミンテーさんに忠誠を誓って彼女についている。
そして彼らは目立つ場所を陣取って微動だにしない。なにかあれば牢獄行きということを理解しているのだろう。
ミンテーさんも身の回りの世話をしてくれる人も居て安心だろうけど、いきなり生まれた大勢力の長であり、とても居心地が悪そうに刺繍を続けている。
そして一番可哀想な姫がエルフの姫君であるルルニエ・パルルカン・タータニアス。
なんとスーリは自国民であり、ハイエルフの血を濃く受け継いだ王族である彼女をも収納して……「とりあえずの謝罪」と奴隷にして渡してきた。
豪華なドレスで、とても美女、そしてゴツい首輪付き……それでいてエルフ。
この領地、そしてお見合いに参加しようとやってきた各国の姫君達にはスーリへの恐怖と嫌悪、そして憎悪が色濃く残っている。そんな中現れたエルフの彼女……それだけで警戒して殺気立つ人がいる。
彼女も王族のはずなのに、国元の上位存在によって襲撃され、いきなりの奴隷である。意味がわからないだろう。
こちらは新たなエルフの出現に厳戒態勢になったがスーリより全然話は通じて……スーリの行動に対してそれはもう平謝りだった。彼女は忙しなく働いてくれている。ちなみに名前がスーリの偽名に近いこともあって事情聴取したら親族らしい。警戒レベルはグンと上がった。
姫君の情報を調べていくと……竜の国の姫君と山の国の姫君と空国の姫君は逃走に成功したそうだ。空中移動が可能な騎獣をたくさん連れていたらしい。
ただスーリに襲撃された船には何人か取り残されている可能性がある。見捨てられた人もいたりするかもしれないな。だいたいスーリが悪い。
撃沈している可能性もあるが漂流している可能性もある。うん、スーリが悪い。
しかし、思っていたよりも姫君の数が多い。一国の王様が花嫁を探しているとはいっても隣国数人ぐらいを想定していた。……ライアームの息子であるガリアスはどんなルートでここまで来たんだろうか?
もしかしたらスーリが襲撃した船には生き残りがいるかもしれないし、助けないもの問題になりそうだったので……その船に向かうことにした。
ライアームの息子や姫君たちの歓待しないといけない?むりむり、体も痛いし、人命救助のほうが先である。本来であれば筆頭婚約者の中でもシャルルに気に入られている私がどーんと出迎えるってのが役割だったけど、天災が来たのだから仕方ない。牽制したり、彼らの分析をするのはディア様に任せる。
出迎えも終わったしさっさと王都に帰ってもらおう。
オベイロスの血を引く双子がいたからスーリはそちらに向かっていけたけど、私にそんな技能はない。生き残った姫君や護衛から位置を聞き出してから出撃する。安全第一、結構な戦力を船に乗せての海上遠征、いや、救助だったか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
時間もかなり経っているし、船は沈没している可能性が高い。指定された地図の位置も怪しかったことから見つからないかと思ってのだけど…………いたわ。
それはもう船とかのレベルの大きさじゃなく、巨大なドーナツ島。木も生えている。
この船は空も飛べたらしい。ライアーム派閥の最終兵器になりえた魔導船、いや『空中機動要塞』であり、決戦になれば出された可能性がある。
ただライアームは決戦はやめてお見合いという「融和」方向に舵を切ったため、この最終兵器には最低限の戦力しか乗ってなかったし武装もほとんどなし。これを使って王都にたどり着けば「戦意はもうない」、そして「ライアーム派にはこれだけの力がある」と見せつける事もできるだろうからと出されたらしい。
風の魔法使いや精霊もいることから、戦力としては実はイマイチな面もあるそうな。
王子たちはライアームのいる王都の西から更に西に出発、世界を旅して各国の姫君を回収……海に出てリヴァイアスを目指していた。
ちなみに動力部はやはりゲスエルフによって破損。ライアームの息子たちを収納したスーリは他はどうでもいいとさっさと離脱。取り残されて漂流していた彼らは救助を待っていたらしい。
「あ、あの……我らの姫をさらったクソハイエルフは……?」
「あ、もう用事を済ませて帰ったそうです」
「そうか……」
「ちなみに私の家臣も洗脳されてこの間まで大変でした」
「同士、同士よ……」
この世界では海で遭難すれば助けが来ることなんてほぼ無いし、死が確定しているようなものだ。水は魔法で出せたが食料不足でギリギリの生活をしていたようだ。食料を生存者に渡すと猛烈な勢いで食べ尽くしてしまった。
とりあえず救助したいんで食料食べて寝ててください。
この巨大なドーナツホール型飛空魔導要塞は水に浮かぶみたいだし持って帰ろう。誰か修理できるかもしれないし、所有者であるライアーム息子一行は敗北、その後の所有者はここに残った存者かもしれないがその彼らを助けたのは私である。ならば所有権を求めても許されるはずだ。多分。
持ち帰ったとしても巨大な粗大ごみになるかもしれないけど、空飛ぶ船とか面白そうである。
作業が終わって新刊が出るまでのこの間、何やっててもモヤモヤしてしまいますねw
ただ楽しんでくれると嬉しいなといつも思っております。
5巻の表紙ちゃんと見えてるかな?







