第358話 洗濯!脱水!乾燥!(ホメラレ)
たまに船や陸路から他国の令嬢や護衛の方々が遭難したかのようにここに来るので王都に送る。
エルフであるルルニエを見ると明らかに動揺が見て取れる。この領地もスーリの被害を受けて色々あって彼女を奴隷として渡されたと話すと何故か尊敬の目で見てもらえた。
ここのところ大人モードが抜けないので子供モードになれば貴族や来訪者に顔を出す。顔を見せなくても救助活動しているとでも思われてるのか許される。
まぁそれはそれとして路地裏暮らしで見つけた問題を解決したい。
廃棄された樽や箱、布に破損した貨物なんかを定期的に清掃する手順を考えてもらう。一定期間置きっぱなしであれば注意文を貼り付け、一定期間保管、その後破棄するなり売るなりする。
こちらは問題なく進むだろう。
だがもう一つの問題がある。
そう、それは――――……体臭の問題だ。
船でここに来るとなれば飲み物は貴重であり、水や酒はとても重量があるものだ。もしも水の魔法使いがいたり、なにかしらの道具を所持していたとしてもやはり迂闊には使えない。
そのため……お風呂に入らない人がたくさんいる。
流石に普段であれば領主の私のもとに来る前には身綺麗にもするけど、体臭を気にしない人が多くいた。
人生で一度も身体を洗ったことがないような人もいるのは恐怖でしかない。水が貴重な国があったり、そもそもそういう習慣がないのかもしれないけど……鼻の良い亜人が気絶するなどの被害も出ていたそうだ。
定期的に風呂または行水などすること、それに衣類を交換または洗濯する法を制定して必要な設備も一緒に作ることに決めた。
前世だとお風呂ぐらい「入って当たり前」という常識があったけど、他国から来る人はそういう風習がないこともあるのだろう。伝染病とか確認されてないけど、何かしらあるかもしれないし衛生の改善は必要なはず。
お風呂に入ると健康上の問題がある種族を除き、全員一定期間ごとに銭湯に入ってもらう。服も洗うか買うようにしてもらいたい。
銭湯と洗濯施設を増築するのに当たって……建物はボルッソファミリー、水は私がいる間は私がやって、そうじゃなくても常に運用できるように水の流れを作る必要がある。
もうちょっとテコ入れがしたいな。
王都の洗濯事業を経て考えていた道具を今なら作れるかもしれない。
そもそも生地の分厚い服も珍しくなく、洗濯すると天日干しでも乾かないことがある。かと言って絞れば生地が傷む。
しかも革だ。革の補強の入った服もあって乾燥がとにかくしにくい。
とりあえず洗剤と水、そしてマンパワーがあれば手間でも洗濯はできる。
問題は脱水と乾燥の工程だ。
そこでまず考えたのが洗濯機のような「遠心力による脱水」だった。
だけど王都でも実験したが上手くいかなかった。水を吸った衣類って重いし、遠心力を使うとなればそれなりの強度が必要なのに上手く出来なかった。……でも今ならボルッソファミリーは作った石を動かせることから脱水槽の強度さえ確保できれば出来るかもしれない。
しかし衣類にそもそもの強度がないことから脱水中にぼろぼろになることもある。
そこで考えたのが二槽式洗濯機に大昔に使われていた脱水ローラーだ。
昔、自宅の洗濯機が不調となり、次の洗濯機をどうするかでよく調べた。
全自動洗濯機か、流行りのドラム型か、業務用のガス接続タイプかなどなど……。
しかしガスは即座に却下された。そもそも業務用の品を家庭で使うなと母さんに言われた。節水能力のみならずスペックや耐久性や使い勝手も徹底的にリサーチした。
うちの環境に合う品を作る必要があって……調べていくうちに、ポータブルタイプや災害時用の手動タイプ、そして…………二層式洗濯機の存在を知った。
家庭環境にもよるだろうけど、三種類の洗濯機が主流だと思われた。
全自動洗濯機にドラム式洗濯機、そして二槽式洗濯機だ。
全自動洗濯機なら洗濯物を入れて、洗剤を入れてボタンを押せば干す前までが完了する。ドラム式ならさらに乾燥もできる。
二層式洗濯機は洗濯する洗濯槽と脱水する脱水槽がその名の通り二つある洗濯機である。洗濯にすすぎに脱水、そして「洗濯と脱水の工程で衣類を手動で移し替える」工程がある。そのため三種の中では最も人の手が入る。
洗濯・脱水・乾燥の工程……「人の手間」という点においてはドラム式が全部やってくれることもあって一番楽で、全自動式はその中間、二層式は三種の中では最も手間がかかることがわかった。
濡れた衣類をわざわざ移し替えて脱水する必要のある「手間のかかる洗濯機」というイメージがついた。
しかし、現代においても二層式洗濯機は作られている。
作られているということは需要があり、何かの理由があるはずだと調べてみた。単純に革新的な製品が普及し切るまでの移行しているだけではない。なぜならドラム式洗濯機が登場するまでの間、全自動洗濯機が普及していた。不便なだけなら二槽式洗濯機はなくなっていてもおかしくはない。なのに市場に存在している。……この根強い人気を調べてみると、二槽式洗濯機は洗浄能力や節水能力、そしてとてつもなく「頑丈」ということがわかった。
とても興味深く、洗濯機械の歴史と経済効果を調べてみた。
毎日使う洗濯機だ。もしかしたら昔の物でも愛用者がいるぐらいなので何かのメリットがあるのかもしれないと考えた。
節水能力も脱水能力も洗浄能力も高い。
水というのは日本の一般人にとって蛇口をひねって気軽に使えるものだが、国によっては気軽に使っていい価格では無い。人が使う水の量を減らすことができるのなら、それは経済的に大きな意味を持つ。
人が一日に使う水の量、日本であれば一日に200リットルを超えていたはず。
飲水だけではなく、トイレにお風呂、洗濯に炊事などなど……恐るべき数字だった。国によってはその数倍の国もあったり、10分の1だったりもする。何十億人もいる人類ならその水のうち、生命活動に必ずしも必要ではない部分で1%減らせれば、それは環境にも大きく作用することになる。
ちょっと楽しくなってこれを家族に発表すると、「で?我が家の洗濯機候補は?」と突っ込まれてハッとしてしまったのは恥ずかしい思い出だ。
確かあの時は……それぞれのメリットを紹介したはず。
ドラム式なら乾燥をする手間は省けるし、その時間を省略できる。全自動なら干す前までを全部やってくれる。
そして二層式なら手間はかかるものの節水効果はある。
そして、家族との話し合いの結果、ドラム式と二層式の小型洗濯機を買うことが決まった。
洗濯機はライフスタイルに合った買い方をするのがベストだと思った。
ドラム式は乾燥の工程のにおいて生地の繊維や衣類についた汚れが機械内に蓄積されやすく、定期的なメンテナンスが無ければ致命的に壊れるそうな……これはカタログスペックには無い部分だろう。
便利といえば便利。メンテナンスさえすればドラム式こそが最も良い選択肢に思えた。
そしてレビューや評価を見るに、小型洗濯機の有用性も高い。
大きな洗濯機で事足りると父さんはいっていたが、あまりにも汚れた洗濯物は先に泥を落としたり、ちゃんと洗濯する前に予洗いする必要がある。しつこい汚れのついた服と白い服を洗えば汚れが移ることもあるし他の衣類はダメージを受ける。
スポーツをしていれば汗はかくし、足の臭いがきつい靴下に、赤ちゃんの汚したものまで……二槽式洗濯機があれば別で洗えるし衛生的かつ水道代にも衣服にもよい!!……とプレゼンし、結果近隣では母さんが喜んで吹聴し二槽式洗濯機ユーザーが増えた気がする。なお私は変な子だと認知された。
まぁ、赤ちゃんがいたり、油汚れの多い仕事をしているご主人さんがいる家庭なんかだと「できるだけ肌に優しい洗剤」を使いたかったり、逆に「強い洗剤を分けて使いたい」ってケースもあるから二層式というか予洗いのためのサブ洗濯機には需要があるよね。
うちにはドロだらけで帰ってくる妹と弟もいたし、しかもお風呂や洗面器で使えるサイズの小型なタイプもあった。
そして古い二槽式洗濯機に使われていた衣類の絞り道具、服を挟んでローラーで脱水する道具を知ったのだが……これはアリだ。
衣類の強度がそこまで良くないから全ての衣類が遠心力による脱水に向いているわけではない。脱水ローラーならローラー同士を押しつけ、布を挟んで水を絞るからまだ衣類へのダメージも少ない。
しかしすぐに作ってもらったローラーはすべての服に使えるわけではない。なにせ服に大きめのボタンや、装飾の宝石を縫い付けてたりもあるんだから当然かもしれない。
ローラー部分は柔らかめのゴムを使い、歯車の部分は金属を錆びにくいものにしたほうがいいなどの改善ポイントはあるな。
ボルッソファミリーによる「洗濯槽による洗濯」と「脱水槽による脱水」は実験として行い、「脱水ローラー」も作ってもらう。
洗った段階でボロボロに崩れる服があるとはいえ、一つの工程で損傷が減らせる可能性もある。脱水ローラーは全ての衣類には使えないだろうけどやる価値はあるはずだ。
それと乾燥にも気をつけよう。
陰干しや天日干し、部屋干し以外にドラム式洗濯機のような乾燥方法もある。
そして、以前父さんに調べてもらった結果。熱風で乾かす方法なんてのもあった。熱風が循環する部屋を作ればそりゃ乾燥も早く済むだろう。
そこまでやる必要があるかとも思ったが、厚目のウールのような生地は分厚くて天日干しでも乾きにくいし、脱水だけではなく乾燥も出来ればやってみたい。
そこで作ったのが「体の形に膨らむ乾燥機」だ。
洗濯機を調べた時についでに調べて感心したものだ。
スーツは毎日洗うものではないけど、洗わねば気持ち悪い。そのため定期的にクリーニングに出すわけだけど……お財布には優しくはない。
というわけで私のスーツは上下とも洗濯できる頑丈な生地かつ同じボタンを選んで複数仕立てた。ボタンと生地が同じなら、上と下が別のデザインでも違和感はない。さすがに年単位で使い続ければ劣化するが、中々わかるものではない。
とはいえ使ってわかったのは……スーツの洗濯は可能だとしてもアイロン作業はとても手間だった。
そこで「体の形に膨らむ乾燥機」を使った。
専用の機械で、袋が体の形に熱風を送る機械だ。しっかり乾燥するし、人型の袋がシワを伸ばしてくれる。細部はスチームアイロンでたまに伸ばすが、それでもクリーニングに出すよりはお財布に優しい乾燥方法だ。自分で洗濯できるから好きな柔軟剤も使えて気分も良くなった。
その発想で考えたのが「服に合わせた乾燥道具」だ。
これは三つ試すことにする。
一つは人の体の形に作った穴のたくさん空いた陶磁器。これに濡れた服を着せて、中に熱風を通せば乾燥しやすいだろう。
次は前世と同じく人型に膨らむ袋。陶磁器と同じく空気を送り込むけど、陶磁器よりも袋が膨れればムラ無く乾燥できるかもしれない。
最後に単に大きな袋だ。ライフハック動画で見たけどゴミ袋の角を切って、中に洗濯物を入れて、ドライヤーを差し込んで乾燥させる方法。
火事になりそうだなーとか、スーツ用の乾燥機を買ったし私はやらなくていいなーなんて思っていたけど「熱風を袋に閉じ込めて乾燥させる」というのは出来る気がする。
火の魔法使いや風の魔法使いがいるんだからこういう乾燥機器を作ってみるのはありだと思う。成功するかはわからないけど上手くいったら王都にも売りに出そう。
いやー楽しい!
ここにはスーリのような脅威はいない!
しかもお見合い参加者を王都に追い払い……じゃない海外からくる姫君及び護衛の方々がやってくる目的地の領主だからここでどっしり待機しておけばいいという大義名分がある!!
王都はどうなってるかはわからないけど、もしかしたらもっと生存者がいるかもしれないし、一定期間ぐらいパトロールして救助者を探したり、人が来る窓口としてここにいる必要があるのは確かだ。だからわたしはおうとにいかなくていいんだ!!
いやー、いいね。仕事も好きにやれるしやりたいことと仕事が同じ方向を向いている感じがする。
休みたい時に休んで、好きに仕事を選んでこなせばいい。
前世でも働いていて、経済を調べるのは楽しくても……やりたい仕事もあれば面倒でやりたくない仕事もあった。単純なデータ入力作業や興味の範囲外の仕事と、楽しんでやれる仕事は全く違っていたな。
悪役令嬢だとか、クソみたいなお見合いを申し込んでくるような貴族のいない今の状況は最高である。
いや、まぁ、目をそらしてはいるけど政務の量ははんぱなくたまっている。
リヴァイアスでの仕事はやりたくてやってるわけであって、王都のようなやらなきゃいけない仕事ではない。
「私はちゃんと仕事したんで寝ます」
「今日も頑張りましたね」
「はいっ」
しかも美人なエール先生に仕事ぶりを褒めてもらえる。やりがいもある上でこれとか最高すぎる。
たくさん更新楽しい!
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たまに3サイト巡回してニヨニヨしてます。スーリ編は胸糞だった?意味があったのかそれとも無かったのか(ニヨニヨ)。







