2 図書室
『初恋探偵シリーズ』。
『初恋探偵、失恋に咲く』から始まる女子高生探偵:遠藤奏多を主人公とした長編作品である。推理の形式は謎解き型。
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【あらすじ】
遠藤奏多は一世一代の恋をしていた。
相手は兄の親友である星野一という好青年である。
彼とは探偵小説好きという共通があり、いつからか恋心を抱くように…。
そんなある日、星野一が殺された。
密室の夜の図書室にて。警察もお手上げの難事件である。
けれど奏多は解かなければならない。不安などなにもない、なぜなら奏多には彼と推理について語り合うことで磨かれた『探偵としての才能』があったから。
その事件の真相は初恋だけが知っている。
『初恋探偵、失恋に咲く』。
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恋愛要素を多く含むため探偵小説オタク達からしたら賛否両論ではあったけど女性読者を中心に絶大な人気を得ていた。コミック化、実写映画化、舞台化までされている。特に舞台化に関してはミュージカル要素に辛口コメントは多かったものの【はじまりの事件の被害者】役に若手イケメン俳優を起用したことが話題になった。「カメレオン俳優に死体役させるとか流石に草」「星野一にこの配役は勿体ない(褒め言葉)」など言われていた。
そのせいもあってか【探偵ものにおける最初の被害者=星野一】という不名誉な称号を得てしまった。
そんな星野一に転生するくらいなら断罪イベント前日の悪役令嬢に転生したほうがまだ救いがある気さえしてくる。
しかも原作の記憶が消えていて、誰に命を狙われているのか分からない。
よくよく思い返すと星野一としての記憶も所々怪しい。一昨日の夜なにを食べたのかだとかパソコンの暗証番号だとか……もしかすると、前世の記憶が蘇ったのが原因か?
確かに他人の一生分の記憶が急に思い出されたら記憶に不具合が起こっても仕方がない気がしてくる。
だからって【星野一が被害者になるはじまりの事件に関しての記憶】がピンポイントに消えるのは、異議あり。
もうお手上げである。原作小説の記憶がないのなら自分で情報収集するしかない。
手始めに、事件現場【高校の図書室】である。近寄らないのが一番なのだが、犯人がどうして図書室を事件の舞台にしたのか推理する必要がある。
それに予定日よりも早く現場に行ったからといって危険な目に合うことはないだろう(フラグを立てているつもりはない)。Xデーは1月6日、二週間以上猶予がある。
「あ、星野君。い、いらっしゃい」
「本多さん、こんにちは」
図書委員をしている丸眼鏡をかけた同級生が貸し出しカウンターから声をかけてくれた。
「いつもいるな。仕事押し付けられてない?」
「い、いつもはいないよ。ほ、星野君が来るときたまたま、いるだけで。へへ」
彼女の癖なのか前髪を引っ張って顔を隠そうとする。以前理由を聞いてみたら「そばかすを見られるのが恥ずかしいから」と言っていた。「良い個性だ」と伝えたけど未だに癖がなくなっていないところを見るにコンプレックスは根強いらしい。
それに俺が図書室に通う頻度を考えると、やはり他の図書委員に仕事を押し付けられているのではあるまいか。『図書室の人』で誰のことか全生徒に通じてしまうのだから。
「今日は、どんな本を探してるの?」
「なんだか『転生物』のライトノベルが急に読みたくなってさ」
生き残りのアイディアがもらえる気がするから。もらえなくても気休めにはなるだろう。強くなった気にもなるし。
「ら、ラノベはあまり詳しくないかな……あ、そういえば、これ。星野君に」
一冊の本を手渡された。
その本を眺めて、固まる。タイトルを二度見三度見。裏表、中身をパラパラと、目を輝かせながら確認する。
「マ?」
「あ、あげる。パパがくれた本なんだけど、私はもう、何度も読んだし」
『密室殺人の手ほどき~トリック図鑑~』。
この本は「実現可能なトリックが多すぎる」という理由で絶版書籍になってしまい、初版しか存在しないのと購入者が少数だったため古本屋でもネットでも見つけることが難しい探偵小説オタクなら誰ものが喉から手が出るほど欲しいプレミア本。前世の俺も例外ではない。
「いいやっ‼︎勿体ない。貸してくれるだけでいい!」
「あ、あげる」
「え、いいの?」
くあぁあ。貴重品だから流石にいただくわけには、と思っていたのに理性より欲望が優先されてしまった。
「ほ、星野君が持っててくれたら。私も嬉しい、から」
「ありがとう!この恩は必ず返す。ほんと嬉しい。ありがとう」
「────っ‼︎」
耳まで真っ赤にさせる本多さん。
二回も感謝したのが面白くて笑いをこらえているのかもしれない。確かに嬉しさのあまり子供っぽい反応をしてしまった。
「……な、なら再来週のど」
「本多。今、手空いてるか?暇だよな」
ひょこっと奥から出てきたのは図書室の先生。
「倉庫にラベル貼りしてない本があるから頼む、破れたのとかも一緒になってるから修理もな。先生これから本屋の外商の人に合って本選びに行くから」
「……はい」
頼み事だけしてさっさと出ていく図書室の先生。
本多さんに視線を向けるとやはり疲れた顔をしている。どう考えてもひとりに仕事を押し付けすぎだ。
「なにか手伝えることはあるか?」
「ううん、大丈夫。あ、ありがと。ごめん、仕事あるから行くね」
疲れた足取りでその場を離れていった。
学生の本分は勉強・部活・恋だろうに、どうして給料の出ない図書委員の仕事であそこまで苦労させられているのか。
図書室を見て回る。
目を引くのは探偵小説の棚。前世に読んだ本はほとんどある。
やはりと言うべきか『初恋探偵シリーズ』はない。
探偵小説の世界だからかかなりの品揃え。正直学校生活三年を費やしても飽きないかも。
しかし今日読もうとしているのは探偵小説ではない。
現在置かれている状況を忘れさせてくれるようなファンタジーで頭を空っぽに出来るような、
「『氷属性の親友の妹が俺にだけ熱烈な件について』?」
「そうそうこういう……げっ」
斜め後ろから聞こえた可愛らしい声。
いつもの俺であったなら毎朝鏡の前で練習している『一番かっこいい顔』を作って「やあ」と振り返っている場面ではあるけれど、手にしているラノベのタイトルが絶妙に気まずい。
「やあ、〝親友の妹〟さん」
「こんにちは、〝お兄ちゃんの親友〟なセンパイ」
おそらく世界一かっこ悪い「やあ」に眩しいくらいの微笑みも向けてくる親友の妹こと遠藤奏多。
今日が1月6日でも良いのかもしれない。




