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破戒聖女と処刑聖女のありがたい説法(ざまあ) 〜腹の底から「ごめんなさい」が聞こえませんが、まだ文句あんの?〜  作者: 水藤紗弥
第1章【古井戸の怨霊と豚男爵】 編

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異世界転移も解脱になるのかね

◇◆◇


 夜の帳が完全に村を呑み込み、馬小屋の隙間から差し込む青白い月光が、敷き詰められた乾草を照らし出していた。

 そこにはあのトモエとユラハが腰を下ろし、僅かなパンが木の皿にのせられていた。

 目の前には老いて痩せぎすな馬が、枯れ草を食んでいる。


 あの老人から『他の人はよそ者を嫌がるじゃろうから、ここくらいしか……聖女様だというのにすみません』と申し訳なさそうに案内された馬小屋の一角で、トモエは藁の山に背中を預け、腕を組んで天を仰いだ。

 ここは老人の持ち物らしいが、藁と馬糞の入り混じった独特の匂いが鼻をつく。天井の梁には埃っぽい蜘蛛の巣が張っている。


「あーあ。聖女とか言われて喚ばれた割には、逃げ出して、ベッドどころか敷布団すらナシ。不祥寺の野宿修行を思い出すわ」

「贅沢言ってられませんよ……屋根があるだけマシで。パンも恵んでもらえましたから、あのおじいさんには感謝するしかないです。っていうかお寺で野宿修行あるんですね」


 ユラハは膝を抱えて丸くなりながら、低い声で応じた。

 口調はいつものようなものだが、その三つ編みの先は夜風もないのに微かに揺れ、伏せられた瞳には冷たい光が宿ったままだ。

 村人から話を聞いて以来、彼女の処刑人モードは一向に解除される気配がない。


「それにしてもさっきのあんた、怖かったわよ。『百倍くらい痛い目に遭わす』とか、どこの裏稼業のセリフよ」

「は?? 当然でしょ……! だって将来を誓い合っておきながら、都合よく新しい女に乗り換えて、邪魔になったら婚約破棄でポイ捨てなんて……! 万死に値します……!」

「随分と感情移入してんじゃないの。なんか……本当に嫌なことでもあったわけ?」


 トモエがからかうように横目を向けると、ユラハはギリッと奥歯を鳴らし、ドスの利いた早口で捲し立て始めた。


「おとなしく清純そうに見える女のほうが怖いということを、男は知らなすぎるんですよ……! どんな女か知らないけど、浅ましい……!」

「あ、うん……?」


「そう。そうなのよ。あいつら……清純そうに見せる、って計算してんだから! 連日わたしのオゴリでいいから飲み会とかに連れて行って、さんざんたらふく飲み食いさせて、むちむちボンレス体型にしてやりたい……! でもあいつら男がいないと誘われてもスルーしてくるし『太っちゃう~』ってちょっとしか食べないし、たいして飲まないで『酔っちゃった~』って男に甘えて……っざけんな寄生型がよォ! 女に嫌われても勝ち組アピール! 人に仕事を押しつけて合コン! 化粧直しに離席ばっかしてねーで仕事しろや!」


 激しい身振りで虚空を睨みつけるユラハ。

 頼もしくも恐ろしいその発想力に、トモエは思わず一歩身を引いた。

(こいつ、前世でブラック企業勤務と並行して、相当エグい修羅場を経験してるのね……? 現世から離れられて良かったわね)


 トモエが内心で合掌していると、そのとき……村の入口側の方から生ぬるい風が厩に吹き込んできた。

 小屋の薄い板戸がガタガタと鳴り、遠くで犬が怯えたように吠え立てる。夜の冷気が一気に濃密になり、肌をチクチクと刺すような悪寒が走った。


「……おいでなすったかな」

「行きましょう、トモエちゃん」


 ユラハが音もなく立ち上がった。

 そこにはどこか使命感に満ちた、落ち着いたベテラン暗殺者みたいな風情があった。

お読みいただきありがとうございました!


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本作は毎日【18:10】に更新していきます。

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