⑦浪漫溢れるデートプラン
前途多難に見えるスタートだが、準備と段取りはバッチリだ。
「小公爵様、まずは馬を選びに行きましょう」
「……アーチボルドでいい」
(おお……)
「では私もマージョリーと。 マージでも構いませんよ」
適度に距離を取ってこちらが話し倒せば、沈黙も気にならないうちにそのうち馬上。
だから最初は別に話が盛り上がらなくてもいいつもりだったが、アーチボルド様もなんか前より頑張ってくれる様子。
師匠に捕縛してもらわなくても済みそうで安心した。
まあ師匠なら問題にはならないだろうが、やっぱりできれば力づくは避けたいところ。
「これは……!」
馬房に行くと、アーチボルド様は思った以上の好感触。
クームズは元々お隣のハーネス辺境伯家の忠臣で、その昔は馬を始めとする物資調達係だったそう。特に野生馬の捕獲と調教育成に長け、『伯楽』の称号と共に爵位を賜ったらしい……とかを説明するつもりでいたが、最早言葉など不必要。
馬達に目を輝かせている。
「見事な馬達だ。 大きさも毛艶も素晴らしい……!」
「ふふふ。 そうでしょう、軍馬ですからね。 特にこの房は大きさだけでなく、いずれも当家自慢の駿馬ばかりです」
「! 速いのか?!」
「ええ、折角駆けるのですからどうせなら、と」
上機嫌で馬を選んだ彼は、興奮気味に乗り込む。
(やはり……!)
私は確信を抱いていた。
このプランの成功と、アーチボルド様の本質、そして『先祖返り』と『番』の真実の一端に。
『速さ』──それは浪漫である。
『強さ』──これも浪漫である。
『必殺技』──言わずもがな浪漫である。
『先祖返り』──多分浪漫である。
『番』──浪漫かもしれない、もしかしたら。
これらを踏まえて立てたプランは特有の浪漫に溢れるものばかり。
師匠は私のアーチボルド様に対するイメージを肯定した上で、コレを『少年期によく罹患する病』と説明し『チュウニ病』と呼んでいた。
病名に使われている単語は謎だが、充分にそのニュアンスは伝わった。
尚、当初のプランは一部師匠から添削され、若干の変更を行っている。
本当は途中で、双子の兄達のいる自警団の鍛錬場に寄る予定だったのだが、『盛りすぎるな、次回に取っとけ』とのご指摘を受けたのだ。
騎士団ではなく自警団だが、ウチの自警団は滅茶苦茶強く、統率も取れている。
辺境伯家を主とする我が子爵領のお役目のひとつとして、傷痍除隊を含めた退役軍人とその家族の社会復帰と生活提供の場というのがあるため、デフォルトで領民が強いのである。
きっとアーチボルド様も満足するだろうが、それは次回に回し、代わりにくれたアドバイス通りに彼に勝負を持ち掛けることにした。
『勝負』もやはり浪漫であるが故。
勝負は盛り上がり、ゴールの丘には先回りした当家の家人により、ピクニック形式で昼食の場が用意されている。
馬を降り、互いに顔を合わせてちゃんと話す時には、それなりに緊張も解れていた。
計画通りである。
話すのはとりとめのないくだらない話ばかりの実のない会話。
手紙同様というか、手紙から話題を出しているのでそりゃそう。
「折角の必殺技、名前をつけたら如何でしょう」
「一緒に考えてくれるか?」
「そうですね……東方には『青天の霹靂』という言葉があるようですが、近い感じはどうでしょう。 晴れの日の雷のことなので、ニュアンスは合ってません? カウンターだしカッこよくないですか? (※厨二的に)」
「ふっ……なかなかわかっている。 しかし君はなかなか博識だな」
メインの話題は件の『必殺技』なので、やっぱり浪漫に溢れている。
『番』の情熱だとか執着はおろか、全くデートといった風情でもないが、普通に楽しい。
まあ、デートとかしたことないから比較は小説なんだけど。
「どうやら私の理性は、狂い昂る荒波のような本能を徐々に制圧しつつあるようだな?!(ドヤァ)」
「いや大分私のおかげですよね?」
屋敷に戻る少し前には、こうして軽口を叩けるくらいにまで打ち解けた。
多分手紙と同程度くらいには、打ち解けられたのではないだろうか。
「今日はありがとう。 実に楽しい時間だった」
「こちらこそ。 是非またいらしてください」
アーチボルド様は「ああ!」と来た時とは違う元気な返事と笑顔で、師匠の待つ馬車に乗り込む。
「──あっ」
「?」
しかしすぐ馬車に乗せた片脚を降ろし、くるりと振り向くと戻ってきた。
見送りに立つ私のところまでという、短い距離を小走りで。
「迂闊にも渡すのを忘れていたが……コレを君に」
「えっ、こ、コレは」
「ではな!」
そう言って彼が乗り込むとすぐ、馬車が走り出す。
渡されたのは、美しく包装された小さな長細い箱。
急に想定外のロマンス小説のような振る舞いをされた私は、そのことへの動揺から礼のひとつも言えないまま。
『高価な物だったら両親に相談せねば』などと情緒のないことを考えながら、盗んでしまったような謎の罪悪感に暫しそのまま立ち竦むよりなかったのである。
その夜。
「マージ、婚約ってことでいいのかな?」
改めて父に婚約を進めていいかを尋ねられた。
「そこは(仮)とかで良くないですか?」
「なにを言っている」
まあ構わないは構わない。
母の貸してくれた小説の影響もあって、当初は『本当は恋人とか好きな人がいる』とか、『折角学園に入学し青春を謳歌しようと思ってた矢先に、ウッカリ番って言っちゃったせいで周囲が気を利かせ今に至る』とか想像したりもしたのだが、多分そういうこともなさそう。
(どう考えても、恋愛や女の子より必殺技開発の方が興味がありそうだもんなぁ)
だからこそ今のところは(仮)とかにしといた方がいいのでは、と思ったりもしたのだが。
「公爵家に嫁ぐなら、王立学園には通っておいた方がいいだろう。 学園に編入書類を提出するより先に、婚約契約を締結しておきたい」
なんでも警備監督上の問題から、学園への提出書類には婚約者の有無を記入する欄があるらしい。
こうして正式にアーチボルド様との婚約と、私の後期からの王立学園への編入が決定した。
ちなみに。
ネックレスなどの宝飾品が入っていそうな、件の箱を開けたところ、中身はなんと
「うわぁぁぁぁぁ!!
やべぇ超カッケェェェェェェェェ!!」
「流石は公爵令息……マージ、お前の婚約者はなかなかのセンスだな!」
──黄金のドラゴンの巻きついた、短剣型のペーパーナイフ。
なんか兄達に大好評。
宝飾品だと思ってしまった私は『まだまだわかってないな』と反省した。
>黄金のドラゴンの巻きついた、短剣(型のペーパーナイフ)
こちらの作品の感想欄から流用させて頂きました!⬇⬇⬇
『婚約者の病弱な幼馴染みが、泣き叫びながら健康を訴えている。』
https://ncode.syosetu.com/n4130md/
ただのぎょーさんこと、なまこさん
ありがとうございました!!




