⑤ナイナイ尽くしの心当たり
「小公爵様との付き合いは順調なようだな」
「まあそうですね。 手紙だけですが」
「いやいや、毎日とは恐れ入った。 もしかしたら本当に番なのかも、という気もしてきたよ」
父はそう言って笑うが、まだ精々『よくわからない放言』だったものが『半信半疑』になった程度だろう。
皆、彼の発言の真偽を疑っている。
だからどうということでもないだけで。
私も勿論、それなりに疑ってはいるのだが──
「ところでマージ、閣下はご令息が『どこぞでご令嬢を見初めたのでは』と仰っていたのだが……心当たりはあるか?」
「あるわけないでしょう」
「だよなぁ」
問題は何故『番』が私なのか、だ。
なにぶん出会いに心当たりもなければ、見初められるような美貌も持ち合わせていない。
曾祖母が物凄い美女だったらしいし母も可愛らしい系の美人だが、クームズ子爵家は代々直系の血が強いらしくおよそ8割が朴訥な顔立ち……私を含め5人も頑張った母は奇跡的に長兄を美しく産んだが、あいにく私は例に漏れず地味な顔立ちと色味である。
また、地味顔ではあるが『化粧をすれば、それなりに魅力的にはなる』と嫁いだ姉達で証明はされているものの、私には当てはまらない。
化粧をする習慣が全くないので。
心当たりに話を戻すと、そもそもウチには他貴族との伝手や交流があまりない。
なので、積極的に外に出たがった姉達と違い領から出なかった私には、当然出会いの機会などあるワケはないのだ。
師匠もいるし、貴族の通う王立学園には4人の兄姉が通ったのでテキストもあるため、遠慮からではなく『別に行かなくていいや』と思った私は学園にも行っていないし、同じ理由でデビュタントの夜会にも出る予定はない。
正にナイナイ尽くし。
心当たりどころか思い当たる節すら、欠片もナッシングである。
それだけに、小公爵様の発言が事実の可能性を否定できずにいる。
しかも蓋を開けてみれば、毎日の手紙のやり取りという、改めて考えたら異常な頻度の交流……
なにが楽しくてこんなことしてんのか、と思うと、これを『番の執着』と取れないこともない。
その一方。
日々送られてくる手紙には、業務日誌から卒業してある程度気安いものになってはいても、やはり『婚約とか番の話って(以下略)』としか思えない内容しか書かれていない。
(番云々が事実なら、それはまあそれとするんだけど……)
やっぱり疑わしい。
そのことで私が感じるようになったのは、発言の真偽を含めた『アーチボルド・バンフィールド』という人への興味だった。
なにしろ、今朝届いた手紙はこれだ。
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マージョリー・クームズ様
(業務日誌的内容のため中略)
君に会ってからはいずれ本能に打ち勝つ日が来るはず、と更に厳しく鍛錬と勉学に勤しんでいる。
おかげで以前より剣が上達し、例のカウンター技で滅多に褒めない剣の師匠にお褒めの言葉を賜った。
先祖返りたる者、やはり必殺技のひとつも身につけてこそと予てから不甲斐なく思っていたが、これならば必殺技を修得する日もそう遠くない筈だ。
修得したら、まず番の君に披露したい。
アーチボルド・バンフィールド
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……番とは一体。
なんか小説で履修したのとは大分違う。
いやまあ最近では手紙を読むのが面白いので、別にいいんだけども。
相変わらず書くことがない私の手紙も
大概だし。
ちなみに昼に書いた返事はコレ。
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バンフィールド小公爵様
(テンプレ的時候の挨拶のため中略)
必殺技とはなんとも素晴らしいですね。
小公爵様が技を無事修得し、披露なさる日を私も楽しみにしています。
昨日、家の裏手で久しぶりに蟻地獄を見つけました。
なにか入れたかったものの蟻を入れるのはなんとなく気が引けたので、とりあえずそのへんに落ちていた葉っぱを入れておきました。
マージ・クームズ
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我ながらどうでもいい内容である。
そんな折、とうとうお誘いが掛かった。
目的があった方が緊張しないと思ったのか、観劇の誘いだ。
行ってみたい気持ちはあるが、アーチボルド様は小公爵様……その『番』とは言われたけれど私はただの田舎子爵の娘で、まだ婚約もしていない。
立場が不明。
強いて言うならペンフレンドだ。
劇場には彼の知り合いが来る可能性はそれなりにあり、注目を浴びると面倒臭いことになりそう。
なのでお断りし、代わりに遠乗りを提案することにした。




