④交流(文通)が始まりました
『先祖返り』や『番』などと些かファンタジックなことを宣っていた割に、驚きの現実味から始まった手紙。
綴られているのは概ね反省の弁と謝罪であり、自分の不甲斐なさを責める内容だった。
それだけでなく、なんと差出人のところには
『家の権力を振り翳す卑劣漢、アーチボルド』──
最後には卑屈になっている。
書いてるうちに居た堪れなくなったのだろうか。
『本当は楽しみにしていた』と書かれているだけに、こちらも居た堪れない。
なんだか繊細。
手紙の返事、早く出したほうがよさげ。
(仕方ない……書くか)
頂いた便箋と封筒は売る程あるワケだし、インクも色とりどり。
切り替えた私は、綺麗なインクの色に合わせて便箋を見繕い、早速ペンを取る。
高級ガラスペンはインク乗りが良く書き心地は最高。
発色の良いインクの色味に心弾ませながら書き上げたのは、諸々の礼とケーキが美味しかったことという実に無難な内容の手紙。
初回だしこんなモンだろ、と気にせず出すことにする。
とりあえず書くことがあって助かったが、次回が困るなーなどと思いつつ。
手紙をセバスに託した私はひと仕事終えた気分で、数日ぶりに師匠である賢者様の元に行くことにした。
師匠には普段、魔術や薬学などを教わっているのだが、今回の目的は保有する豊富な蔵書。
勿論『先祖返り』や『番』について調べるためである。
森の中の師匠の屋敷は滅茶苦茶魔力が使われているらしく、許可なくは入れない……というか辿り着けない。
弟子の私や子爵の父は、屋敷の出入りは勿論『図書室にある本は勝手に読んでいい』と許可を得ている。
「こんにちはー」
「やあマージ」
屋敷に着くと、中から出てきたのは麗しき美少年。
師匠である。
師匠は自称『200歳くらい』の大変な爺様なのだが、その見た目は10歳程度。
曰く『大きくもなれるが、この程度がなにかと効率がいい』そう。
噂によるとエルフの末裔であるらしい師匠は博識で、ふらりと来ては気まぐれに子爵領のピンチを救う知識を授けるなどし、皆に『賢者様』と呼ばれている。
実年齢は謎だが、父が物心ついた頃にはもう賢者様として助けて貰っていたという。その話を聞く限りでも、少なくとも60以上なのは間違いない。
「本を借りに来たんだろう? 用意してあるよ、生憎『番』のものだけしかないけれど」
「予測済ですか」
「まあ子爵から聞いているからね。 見合いはどうだった?」
直接関係ない相手なのでいっか、と言語化し纏めた通りに語ると、師匠は見た目通りに大人げなくゲラゲラ笑っていた。
「師匠はバンフィールド小公爵様のこと、ご存知で?」
「うん、まあね。 こう見えて僕は意外と顔が広いから」
そう言ってえっへん、と胸を張る師匠。
爺様のくせに、とてもあざとい仕草である。
あざといのが悪いとは言わないが、自らの意思で少年姿になっているのに『こう見えて』もへったくれもないのでは……と思いつつ、思考を戻す。
「ところで本が『番』のしかないと仰いましたが、『先祖返り』って実際にはないんですか?」
「いいや、あるよ。 ただなにぶん定義が胡乱でね、詳しい記述があるものはどうにも胡散臭いのだよ」
『先祖返り』自体はあるが書物として残っている前例は僅かで、一部学術書や伝記に数行残されているだけだそう。
しかも見た目や性質に一部形質が現れる、なども『先祖返り』と記述されている場合もあるので定義が胡乱……あとはそれこそフィクションのみなので、これといったモノは師匠の蔵書にはないらしかった。
「小公爵様の『先祖返り』発言を、師匠はどう思われます?」
「その質問こそ定義が問題になるね。 お前は自分に関係する『番を感知する機能』に限定して、彼の先祖返りがありそうなのかを聞いているの?」
一瞬答えに詰まる私を見逃してはくれず、師匠はふ、と小さく溜息を吐くように微笑む。
「マージ、誰かになにかを尋ねるときは『なにが知りたいことか』をきちんと把握した上でせねばならんよ」
「……はい」
「余計な情報は自身の感情の理解と思考の発展を阻むノイズになる。 それはよくない」
そう静かに諌めると「まずは自分で考え、調べてみることだね」と、予め用意してくれた番に纏わる文献を渡してくれた。
小公爵様からの手紙は予想通り頻度が高く、毎日届いた。
しかしどうやら彼の方も別に手紙が得意なワケでもない様子で、私の中での文通の概念が覆される程の内容だった。
それは『この人なにがしたいんだ』と困惑してもおかしくない、業務日誌のような日常報告──仮に『普段の自分を知って欲しい』という意図だったにせよ、もうちょっとどうにかならなかったのか、と手紙が苦手なこの私ですら思う、些か特殊な酷さである。
恋文には程遠いのはまあいいとしても、私は小公爵様の上司や上官ではない。
よもや交流のための文に、『婚約とか番の話ってなんだったんだろう』という疑問を感じさせられるとは流石に思わなんだ。
だが彼の真面目さが伝わる──
……と、思えなくもない。
だって毎日だし。
わざわざ手紙なんてよく出すよな、という。
むしろ日記帳に記して手元に残した方がいいのではなかろうか。
実際私の方は、3日目には既に書くことがなくなっていた。
それこそ業務日誌的なモノしか。
だが相手が小公爵様だと思うと、業務日誌は躊躇せざるを得ない。たとえ相手が寄越すのが業務日誌でも。
そして、すぐ来る以上はすぐ返すのをやめたくない……最早、意地である。
元々負けず嫌いなのだ。
そんなやり取りが続くも、流石に1週間もすると小公爵様の業務日誌は次第に柔かい文面に変化していった。
2週間もすると軽い冗談も交えるようになってきて、そうするとこちらも彼に対する親しみが湧いてくる。
手紙の内容は互いに気安く気軽なモノになり、最終的に私は空白を変な落書きで埋める程になっていた。
手紙は苦手なままのマージ




