06 生活スキルでDIY①
「よーし、それじゃあ朝のルーティン始めっか!」
翌朝。眩しい太陽の光が、ボロ小屋の隙間から差し込む中、俺はパチンと両手を叩いた。
お腹いっぱい食べてぐっすり眠ったガルは、犬の耳をピンと立てて俺を見上げている。
「るーてぃん? 何するんだよ、ジン」
「まずは環境整備。ばあちゃんが気持ちよく起きられるようにね」
俺はベッドに近づき、ゆっくり目を覚ましたばあちゃんに声をかけた。
おはよう、と微笑むばあちゃんの顔色は、昨日とは見違えるほど良い。
「アクティブ──【対象洗浄:絶対浄化】」
毎朝のルーティン、一瞬でお着替え&シーツ交換完了チートだ。
シュワァッと光が弾け、ばあちゃんの服がフカフカの清潔な状態にリセットされる。
「ふふ、毎日お洗濯してもらえるなんて、贅沢だねぇ」
「これくらい朝飯前っしょ。……で、ガル」
俺はガルを手招きした。
「この救護院さ、トイレってどうなってんの?」
「トイレ? 裏のほうに穴掘って、囲いを作ってあるけど……」
ガルの言葉に、俺は「うわ……」と顔をしかめた。
荒野の外にあるボタントイレ(あるいはただの肥溜め)。元気な若者ならともかく、足腰の弱ったばあちゃんを毎度そこまで連れて行くのは無理がある。
「それじゃダメだ。ばあちゃんが転んだら大ケガする。ベッドのすぐ横で、安全に用を足せる場所を作らないと」
「えっ? 部屋の中で用を足すのか? そんなの、臭くてたまらなくなるぞ!」
ガルが耳をペタンと寝かせて抗議する。
「そこは俺のスキルを信じなさいって。ガル、余ってる木材とか、手頃な椅子ってない?」
「物置きに、座面が割れた古い椅子ならあるけど……」
「最高。それ持ってきて」
ガルが不思議そうに運んできた壊れた木製の椅子。
俺は、スキルを使ってピカピカにしたノコギリを使って、椅子の座面の真ん中に、綺麗な丸い穴を開けた。
「おい、椅子を台無しにして何考えてるんだよ!?」
「まあ見てなって。……よし、ここに木箱をセットして、と」
椅子の穴の下に、取り外しができる引き出し状の木箱を仕込む。
仕上げに、内側に少しだけ細工をして、俺のスキルを意識する。
「アクティブ――【環境整備:ポータブル・サニテーション】」
椅子全体が、一瞬だけ淡い緑色の光に包まれた。
「よし、特製『ポータブルトイレ』の完成〜!」
「ぽーたぶる……といれ?」
ガルが怪訝そうに、穴の開いた椅子をのぞき込む。
「これならベッドのすぐ横に置けるし、ばあちゃんが少し腰をずらすだけで使える。しかも、俺のスキルで『中に落ちたものは一瞬で消臭・滅菌されて消える』ようになってるから、匂いも汚れも一切残らない。すごっしょ?」
「はあぁぁ!? 匂いが消える!? それ、教会の聖水でも無理な奴だぞ!?」
ガルがまたアゴが外れそうな顔をしている。リアクション芸人か、お前は。
「──それと、これは必須」
物置きから持ってきた、古びた木の支柱に、絶対浄化で真っ白に洗った大きな麻の布を取り付ける。ばあちゃんのベッドとポータブルトイレの周りをぐるりと囲う『アコーディオンカーテン状の仕切り』を器用に作り上げた。
「ジン、これは?」
「目隠し用のカーテン。いくら家族でもさ、用を足してるところを見られるのは嫌っしょ? ばあちゃんが使うときは、俺もガルも外に出るか、後ろを向く。誰にも見られないプライベートスペースは絶対に必要だからね」
ばあちゃんは、驚いたように目を見張ったあと、本当に嬉しそうに目を細めた。
「便利だねぇ、ジン。これならガルに無理して支えてもらわなくても、私一人でできそうだよ」
ばあちゃんが、嬉しそうに微笑む。
寝たきりや要介護の人にとって、「誰の目も気にせず、自尊心を保って排泄できる」というのは、生きる気力に直結する。俺なりに、そこは絶対に妥協できないラインだった。
「よしガル、次は『お風呂』の代わりになるもんを作るぞ。荒野の粘土を集めてきてくれ!」
「お、お風呂!? おい待てジン、あんた本当に何者なんだよ!?」
救護院の魔改造計画は、まだ始まったばかりだ。




