04 美味しいお粥の作り方
「食事、か……」
ガルはバツが悪そうに耳をペタンと寝かせ、救護院の片隅にある木箱を指差した。
中に入っていたのは、黒ずんだカチコチの干し肉と、泥のついたカブのような野菜が数個。それと、雑穀らしきボソボソした灰色の粉だけだった。
「これしかない。荒野じゃまともな作物は育たねえし、領主様からの配給もこれだけだ。俺たちはこれを煮て食ってるけど、マレッタばあちゃんはもう、固くて喉を通らないんだよ……」
なるほど。確かに、これは二十歳の俺でも顎が壊れそうなレベルの代物だ。
噛む力や飲み込む力が落ちた高齢者に、こんなものを食わせたら、喉に詰まらせて一発で窒息してしまう。
「オッケー、把握した。要は、ばあちゃんが簡単にモグモグできて、栄養満点なものを作ればいいんだろ?」
俺は腕まくりをして、汚れを『絶対浄化』したばかりのキッチンに立った。
「おい、どうする気だよ? そんな干し肉、何時間煮ても柔らかくなんてならねえぞ?」
「いいから、見てろって」
チャラくウィンクしてみせるが、頭の中のシステム画面はフル回転だ。
調理器具を触った瞬間、脳内に新しいスキルのコマンドがピピッと浮かび上がる。
(アクティブ──【食事形態調整:安全咀嚼化】、さらに【栄養高効率化】)
まずは泥のついたカブを刻み、干し肉を包丁の背で細かく叩く。
そこに雑穀の粉と水を加え、竈の火にかける。
普通なら、ただの味の薄い、ざらざらした灰色の泥水のようなお粥になるはずだった。
だが、俺が木べらで鍋をかき混ぜた瞬間、鍋の中から、ふわりと黄金の湯気が立ち上った。
「な、なんだ!? すげえいい匂いがしてきたぞ……!?」
ガルが、鼻をひくひくさせて鍋に食いつく。
カチコチだった干し肉は、スキルの効果で繊維が完全に崩壊し、まるでじっくり煮込んだ高級コンソメスープのようにトロトロに溶けていた。雑穀のえぐみやカブの苦味も完全に消え去り、驚くほどまろやかで、甘みのある香りに変化している。
「よし、できた。ばあちゃん、ちょっと体を起こすよ」
俺はばあちゃんの背中に優しく手を回し、ゆっくりと上体を起こしてクッションを挟んだ。
介護の世界じゃ、食べる時の『姿勢』も超重要だ。誤嚥を防ぐ角度、これテストに出るからな。
「ほら、ばあちゃん。あーんして」
木のスプーンですくい、息を吹きかけて冷ましてから、ばあちゃんの口元へ運ぶ。
ばあちゃんは、ゆっくりと口を開き、お粥を一口、はむっと食した。
ごくり、と、綺麗に喉が動く。
詰まる様子も、むせる様子も一切ない。完璧な嚥下だ。
「……まぁ。なんて甘くて、優しいお味なんだろうねぇ……」
ばあちゃんの顔に、ふわぁっと幸せそうな笑みが広がった。
前世で、病院のまずい流動食に「味気ないねぇ」と寂しそうに笑っていたばあちゃん。そのばあちゃんに、俺の手で作った温かいものを食べさせてやれている。
それだけで、胸の奥が痛いくらいに満たされていく。
「うま……っ! なんだこれ、うますぎる!!」
余ったお粥を味見したガルが、器に顔を突っ込んで叫んでいた。
「ただの干し肉と雑穀だぞ!? なんでこんな、口の中でとろけるんだよ! それに、なんだか急に体に力がみなぎってきて……」
「お、ガル、お前なんか耳ピンって立ってない?」
「えっ!? あ、本当だ……! いつもヘロヘロだったのに、疲れが全部吹き飛んでる!」
それもそのはず。俺のスキル【栄養高効率化】は、ただの雑穀粥を『超高級ビタミンドリンク』並みの即効性を持つ栄養食に変換しているのだ。
「まぁ、ばあちゃんが元気になれば何でもいいっしょ」
ガツガツ食べるガルと、それを見て嬉しそうに微笑むばあちゃん。
荒野のボロ小屋に、確かに温かい「家族の食卓」が戻ってきた。
しかし、この規格外のお粥の威力が、後に辺境の、いや、国中の常識をひっくり返すことになるなんて、この時の俺はまだ知る由もなかった──。




