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SAVERS ―絶望の怪物と戦って助ける少年少女たち―  作者: 春坂 雪翔


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第三十七話【一縷の薔薇が散り行く時】(三)

 映像が切れて景色が元に戻った時、美琴が呆然と前を見ていた。カランカランと奏の刀が床に落ちる音が響くが、その音に見向きもしなかった。

 そしてリリカの身体を黒いモヤが覆い、少しずつ晴れていく。

 それを美琴がぼうっと見ていることに気付いた奏は、咄嗟に彼女の目と耳を塞いだ。


 何も見なくていいように。何も聞かなくていいように。

 龍神の力によって研ぎ澄まされた五感が彼女を傷付けないようにと、奏は美琴を守るように覆いかぶさった。


 奏にされるがままの美琴を横目に、誠司が重い足取りで立ち上がる。リリカの核の欠片が僅かに降りかかり二人と同じ物を見た誠司は、ふらふらとしながらも真っ直ぐリリカの方へ向かった。


「俺が行く。お前は、篠宮さんのそばにいろ……」


 真っ直ぐ進む歩を止めずに誠司が奏に向かって言いながら、誠司はリリカの正面に立った。


「……同情でもするつもりですか」


 少女が高く、暗い声で呟く。

 その顔には歪な赤いまだら模様の斑点が浮かび上がっていて、目の周りの皮膚が薄い部分は更に酷く腫れ上がっていた。誠司がリリカの毒林檎を食らった時と同じ症状の顔である。


 腫れの引いた顔で何も言わずにただ真っ直ぐ見つめる誠司を、少女が睨みつけた。

 

「同情するなら、その身体をよこしなさい」


 強い言葉をかけられても尚沈黙する誠司に、少女は苛立ち声を張り上げた。


「私は、生きたかっただけだった! 生きたかっただけなのに……!」


 少女の悲痛な叫びが響く。

 生きる為に取り入れた食べ物が彼女に牙をむけた。

 たった一つの食べ物が、彼女の運命を変えてしまった。

 それは少女が知りもしなかった見えない毒だった。


 アリダが明日香の身体を欲しがったように、リリカもロストファクター達の身体が欲しかったのだろう。

 しかしそれが誠司達によって奪われ、更に自身を現世に繋ぎ止めていた核が壊され消えかけている中、少女の理不尽な要求はただの八つ当たりに過ぎなかった。


「それは出来ねえよ。この身体は、俺のものだ。お前のものじゃない」


 誠司は自身の胸に手を当てながら、静かに、少女の言葉に反論する。

 それでも尚睨み続ける少女の目を、誠司は真っ直ぐ見つめ返した。

 

「生きたかったって気持ちは分かる。けど、それ以外のお前の気持ちを全て理解することは、多分出来ない」


 少し下を向いて目線を逸らして紡ぐ言葉を考えながら、誠司は再び顔を上げた。


「けど……俺も、お前と同じだったかもしれねえとは思った」


 誠司の言葉の意図が少女には理解出来なかった。

 それは少女が、誠司の生い立ちを知らないからだ。

 

 誠司も実の母親は遠い昔に居なくなり、章吾達、飛渡夫妻に引き取られた。

 血の繋がらない親子だが、それでも誠司は少女のような愛情の飢餓はなかった。


 状況的にはほぼ同じだったはずなのにそれはなぜか。

 

「俺がお前みたいにならなかったのは、運が良かったからだ。……お前は運が無かった。それだけの事なんだ」

「……なんですかそれ。じゃあどうすれば良かったんですか。運が無いから生きるのを諦めろと?」


 痛い所を冷たくつかれ、誠司はぐっと押し黙る。

 しかし少女の前から逃げずに向き合った。

 

「過ぎたことを変えることは出来ない。……だから、今度産まれてきたその時は、自分で運を掴み取れ!」


 自分で言ってて綺麗事だと、誠司は内心自虐で笑いが込み上げる。

 

「自分で掴んで、自分で運命を切り開くんだ!」


 そう言いながら、自分は今まで自力で運を掴み取ってきた事があっただろうかと誠司は自問自答する。現実味の無い事を言ってる自覚はあったが、それでも誠司は言葉を止めなかった。

 少女も夢物語のような戯言と思ったのか、思わず失笑する。

 

「……無責任な言葉ですね」


 誠司は反論しなかった。

 しかし少女もまた、それ以上言い返すことはしなかった。


「でも、そのぐらい図太くいるのが、生きる為に必要なのでしょうね」


 ただそれだけ呟いたのを最後に、少女の姿が薄れて消えていった。


「……ほんと、無責任だよな。自分でも出来るか分かんねえことをやれとか」


 誠司が自嘲気味に小さく呟いたその時、同時に頭上の眩い光が徐々に弱まっていき、少しずつ下に降りてくる。

 明日香とアリダが居た場所にあったその光に向かって、誠司はゆっくり歩き始めた。



* * *



 暗く、暖かく、そして懐かしく感じる場所だった。

 小さな光が仄かに照らしていた。


 その光の前に、明日香はいた。


「アリダ、あなたは……私(・)の(・)妹(・)だったんだね……」


 淡々と、静かに、事実だけを確認するような声だった。

毒林檎の毒の症状をアレルギー症状にしたのは某有名な中華ファンタジーっぽい異世界小説から着想を得ました。アレルギーがあると分かってて食べさせるのは毒を盛る事と一緒と聞いて、現代の毒はアレルギーだなと思いリリカの設定が一気に深まりました。

アナフィラキシーで気を失うまでは無いですが、自分も過去3回これで救急車に乗ってます。

なので誠司の毒を中和した解毒剤のモデルのエピペンも使った事があります。

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