第三十六話【戦場の天使】(二)
空間全体が、明日香の作り出した光の線によって明るくなっていく。アリダが放つ茨のつるの出処もそれによって照らし出され、避けるのも容易くなってきた。
明日香は和真と杏、美琴と奏がそれぞれ戦いやすいように上空に複数の光の矢を放ち足場を作りながら、同時にアリダの周りにもそれを放っていく。最初より勢いが落ちている茨のつるだが攻撃は変わらず止まることなく続いていた。
明日香の正面から茨のつるが迫ってくる。先端が明日香を突き刺す前に横から飛び出した誠司がガンブレードでそれを斬った。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
短くお礼を言い、明日香はアリダがいる方を見つめる。光の線がアリダの周囲を囲うように張り巡らされ、まるで繭のように彼女を包み込んでいた。
慎重に範囲を広くとって徐々に狭めていったのが幸を制したのか、思ったよりも簡単にアリダを取り囲むことが出来た。リリカ達と同じようにアリダも負傷しており、明日香の作った光の繭から逃げようにも逃げられなかったからかもしれない。
「あの中に私を飛ばすこと、出来る?」
「ああ、なるべく近くまで行けば確実だ」
「分かった」
明日香が弓を構え矢を放つと、無数の光の線が一直線にアリダを閉じ込めた光の繭まで伸びる。そこに飛び乗り誠司の方を振り返ると、明日香は静かに微笑んだ。
「じゃああそこまで走るから、誠司のタイミングで私を飛ばして。あとは自分で何とかするから」
「……本当に一人でやるのか?」
誠司が何か言いたげな表情で明日香をじっと見つめる。明日香はその誠司の目を受け止め、少しだけ微笑んだ。
「うん、もう決めた事だから。これは自分でけじめをつけたいの」
有無を言わせぬように言い切る明日香の言葉に、誠司は押し黙る。
明日香は一人でアリダと向き合うことを使命や義務だと思っている。けじめをつけたいでは無く、つけるべきだと思っていることも誠司には分かっていた。
そこまで背負う必要はない。そう言いたかったが言ったところで今の明日香には届かない。そして明日香自身がやりたいと言ってる以上、何も言うことは出来なかった。
「……分かった」
誠司の返答を聞いてすぐ、明日香が走り出す。
光の道を駆け上がる彼女の背中に向かって、誠司は明日香の無事を祈りながらガンブレードを構え、銃を放った。
明日香の背中にそれが当たった直後、明日香の姿が消える。
当たった衝撃で、天使のような翼が明日香の背中に一瞬だけ浮かび上がった。
光の中で、アリダが眩しそうに目を細め、眉間に皺を寄せながら顔を覆っている。
腕から見え隠れする皮膚はグラサイトやリリカと同じように焼けただれていて、今も尚そこからじゅうじゅうと何かが焼けるような音を立てていた。
ふらつきながら顔を歪ませるアリダの目の前に明日香がなんの前触れも無く忽然と現れる。
「……なによ、こんなので私を追い詰めたと思ってるの!?」
突然現れた明日香に驚きつつも、プライドが許さないのか毅然として嘲笑するアリダに、明日香は弓を構え弦を引く。そのままゆっくりと歩を進め、アリダとの距離を縮めて行った。
「そうよ」
淡々と返す言葉にアリダは苛立ちを覚え、ギリッと奥歯を噛み、先端が鋭利に尖った茨のつるを明日香の胸に向ける。
しかし明日香はそれに怯むことなく、弦を引いたことによって生み出された光の矢をアリダの胸に向ける。しかしそれがアリダに向けてすぐに放たれなかった。
「けど、私はそれを壊しに来た訳じゃない」
明日香はアリダの胸の辺り、シェイド達と同じ核がある場所を見つめながらそう言った。
次の瞬間、光が弾けて明日香の弓が消える。
弓が握られていたその手には、代わりに明日香のコアである水晶が握られていた。
何が起こったか理解出来ないアリダを他所に、水晶を握ったまま明日香は光を放つ足場を蹴り、一気に距離を詰めてアリダの胸に勢いよく手を突き付ける。
「それを、取り戻しに来たの」
明日香の水晶とアリダの核が触れたその時、一際眩い光が放たれた。
* * *
「どうして私のギアは弓で、誠司は銃なんだろう」
それは明日香がセイバーになって少し経った頃に抱いた疑問だった。
「そんなの俺に言われても分かんねえよ」
明日香の疑問に誠司が戸惑いつつもそう返すと、そばに居た章吾が口を開いた。
「コアが所有者である君達に適したギアになったって事じゃないかな?」
「それって、私は弓で、誠司は銃が適してるって事ですか?」
「そうそう」
明日香の疑問に答えつつ、章吾が更に続ける。
「おそらくコアはそのままだと上手く力が使えないから、明日香達が上手く力を引き出せるようにそれぞれに適したギアに変わるんだと僕は思うよ」
「……ギアにしないでコアのまま力を引き出すことって、出来るのかな?」
何となく口にした誠司の疑問に、章吾はうーんと顎に手を当てて思案した後、少しだけ苦笑いした。
「これは僕の憶測だけど……コアそのものの強い力が出せるとは思うけど、多分強すぎる力の反動で、持ち主の身体に負担がかかるんじゃないかな?」
「それってどういうこと?」
「要するに一時的に強い力を得たとしても、その後身体にどんな影響があるか分からないってこと。だから二人はロストと戦う時に無理はせず、ギアでニードルを壊すことだけ考えるんだよ」
そう言って章吾は、二人の頭を優しく撫でた。
ほんと、誠司のこの必殺技最後まで重宝したなあ。
必殺技とか考えたらというアドバイスをくださった読み配信の方に感謝です。




