第三十六話【戦場の天使】(一)
細かい土煙が舞う中、和真と杏がグラサイト目掛けて走っていく。ロストファクターを抱えて上空に逃げたグラサイトが不敵な笑みを見せた時、二人の足場が高く盛り上がった。
「これで終わりだ」
天に伸びていく足場の上で膝を立てながら杏がバズーカを構えグラサイトに焦点を合わせる。彼の肩に乗っている黒いトカゲが杏の足元目掛けて唾を放つと、杏の足場はがらがらと音を立てて崩れ始めた。
「油断したな。こういう使い方もあるんだよ」
地に落ちていく杏を見下ろしながらグラサイトが高らかに笑う。和真が杏の名前を叫んだが、その直後杏の身体を支えるように光の線が走る。
ほのかに光をまとうそれは太かったがよく見ると無数の線で出来ており、まるで空中に浮かび上がる一本の道のようになっていた。
光の道を辿ると下の地上付近に明日香がいた。弓を構えて放った矢が複数の光の線となり、再び同じような道が出来上がった。
「くそっ余計なことを! こうなったら……」
グラサイトが片手で懐中時計を開けようとしたその時、明日香が作った光の道を駆け上がった和真がグラサイトの懐中時計目掛けて槍を突き刺した。
パリンと懐中時計が音を立てて粉々に砕ける。反動でロストファクターがグラサイトの手から離れ落下するが、それを下にいた杏が受け止めた。
「ありがとな明日香! 助かったぜ!」
和真が下にいる明日香に礼を述べると、明日香はこくりと強く頷き別の場所へ走っていく。それを追いかけるべくグラサイトが地上に降りようとした時だった。
降りようとした先に杏がバズーカを構え、それに習って和真も槍の切っ先を突き立てグラサイトの行く手を阻む。
「お前の相手は私達だ」
「年長者同士、仲良くやろうぜ、おっさん!」
和真が余裕の笑みで中指を立てて挑発したのを見て、グラサイトが顔をひきつらせた。
上空から飛んでくる細く鋭利な針を、奏が軽い身のこなしで避けていく。沙夜の癒しの光によってリリカから受けた攻撃は全て消え去った他、その前に受けた戦闘の傷や疲労も全て癒され万全の状態に戻っていた。
「この程度で私達に勝ったつもりですか……!」
頬の一部が焼きただれてるのを気にすることなく、リリカが杖を構え鏡のように光る林檎を作り出す。
それが奏目掛けて放たれ、迎え撃とうと奏が刀を構えた時だった。
突然奏の腕が変な強ばり方をする。
まるでその林檎を斬るのをためらっている様だった。
先程これを壊したから自分と美琴はリリカの攻撃をモロに受けた。読心術は防がれてて未来視もまともに出来ない。
精神的な物が影響してるのか奏の身体は思うように動かなかった。
『それは斬って大丈夫よ!』
美琴のテレパシーの声が奏の頭に響いた時だった。
突然上空から何かが降ってくる音がする。
それに奏が気付いた直後、それは勢いよく地に降り立ち、目の前にあった林檎が真っ二つになった。
「これでさっきの借りは返したな」
誠司がガンブレードを肩に担ぎながら奏に余裕の笑みを見せる。誠司が降ってきた上空には、金色の光で出来た道のような物が浮かんでいた。
直後、誠司の背後で何かが爆発する音が響く。
それに誠司が目を向けると水で出来た玉が弾け、若干の水しぶきが彼にかかった。
いつの間に刀を振るったのだろう。誠司が視線を戻すと奏がすました顔で刀を下に振り、切っ先に付いた余分な水滴を振り払っていた。
「返せてねえよ。調子にのんな腰抜けが」
「んだと!?」
相変わらずの奏の悪態に誠司が言い返そうとした時、二人の周りに風がうずを巻くように突風が起きる。
ガラスが細かい破片となってバラバラと崩れる中、美琴が叫んだ。
「こら二人とも! こんな時まで喧嘩しない!」
美琴の鶴の一声により、二人は驚きつつも口を閉ざした。しかし一瞬だけ目を離したのが災いし、リリカが無数の鋭利な針を空美のいる雨の檻に向けて飛ばし始めた。
「空美ちゃん!?」
咄嗟に美琴が扇を振るが僅かに届かない。
あれが檻を突き抜けたら空美と沙夜が危ない。そう思った次の瞬間、無数の光の線が一本の太い線となってそれを阻んだ。
カンカンと硬い物にぶつかる乾いた音が響く。
「空美! 大丈夫か!?」
続けて飛んできた針をガンブレードで防ぎ誠司が薙ぎ払いながら叫ぶと、滝のように雨が降り注ぐ水の檻の奥からいつもと変わらない空美の声が返ってきた。
「沙夜ちゃんも無事や! こっちはうちに任しといて!」
「良かった。私達も二人のことは守るからね!」
美琴が扇を振り風を生み出し飛んでくる針を弾き返しながらほっとため息をこぼす。そして改めて光の線に目を向けた。
「これ、もしかして明日香ちゃんが?」
「ああ、明日香の策だ。今この空間全体に張り巡らしてる」
美琴が遠くに目を凝らすと、明日香が矢を放ちながら走り回ってるのが見えた。地上から上に向けて放つだけではなく、その上を走って上空から更に上や、下に向けて放っている。
まるで蜘蛛の巣を作るように線が複雑に合わさっていくそれは、光をまとっているからなのか神々しさがあった。
「あれを使ってアリダの攻撃が届かないようにしてる。篠宮さん達はあいつの注意を引いてアリダから遠ざけてくれ」
死角から伸びてきた茨のつるをガンブレードで斬り落としながら誠司がリリカの方を見る。和真と杏も上手いことグラサイトの注意を引き付け、アリダに意識が行かないようにしてるようだ。
「分かった。奏と一緒なら出来ると思う」
「ああ、あと明日香が今張り巡らしてるこれ、結構頑丈だから乗ることが出来るんだ。自由に使って」
手短に誠司が美琴にそれだけ言うと、明日香の元へ戻っていく。確かにこの光の道を使えば、リリカとの距離を詰めることも容易に出来そうだ。
美琴は扇を構え奏に目配せを送ると、奏と共に光の道を駆け上がった。
一本だと折れるけど三本にすれば折れないという。
文字数の関係上分割したので続きを21時にあげます。




