第三十五話【八人目の選ばれた戦士】(二)
眩い光が明日香を、誠司を、全てを包み込む。
強すぎる光に目を開けることが出来ず明日香は腕で顔を覆う。
アリダ達の叫び声が聞こえたが、何が起きたか明日香には確認出来なかった。
その代わり暖かな光が明日香が負った傷を内側と外側両方から癒していき、全ての痛みが身体から消えていくようだった。
胴体と足の締め付けも緩み、自由を奪っていた茨のつるががらがらと音を立てて崩れていく。ようやく目が開けられた明日香の目が最初に捉えたのは、柔らかな光をまとった誠司の姿だった。
その光が倒れた誠司の身体に、特に背中を中心に集まっていて、徐々に頬の斑点模様や腕の切り傷が消えていく。
やがて背中の光も消え、明日香は恐る恐る誠司の背中に手を当てると、そこにあった大きな傷は消えており、同時に新たな血も流れることなく止まっていた。
「誠司……!」
明日香が思わず誠司の身体を揺すると、誠司の目がゆっくりと開く。そしてすぐに身体を起こすと明日香と自身の身体を交互に見て、明日香と共に顔を見合せた。
そして、沙夜から発せられていた光が急速に弱まっていく。完全に光が消えた直後沙夜の手の中からステッキが消え、力が抜けたのかばたりと音を立てて沙夜が倒れた。
一瞬だけ明日香の左手の中が光ったが、明日香がそれに気付くことはなかった。
「くっ……この小娘……アリダ様によくも……っ!」
片手で顔を抑えながらグラサイトが叫ぶ。
焼けただれた皮膚が抑えた手から見え隠れする中、目を閉じたままのグラサイトが反対側の腕を上げ、とかげの黒い唾を沙夜に向かって飛ばした。
「沙夜!!」
咄嗟に動けなかった明日香が叫んだ時だった。
どこからともなく突風が吹き、沙夜に降りかかろうとした黒い唾をはじき飛ばす。長い棒がくるくるとその場で回り続け、それが丸い盾の様な形状になって沙夜を守っていた。
「沙夜ちゃんはうちにまかしときい!!」
突然現れた空美が叫びながら沙夜の身体を抱き起こす。
小さな身体で身を挺して沙夜を抱え込む空美の前に、大きな岩の壁が突如出現した。
「誠司! くうと沙夜を守れ!」
槍の柄を地に叩きつけた和真が叫ぶと、反射的に誠司が空美と沙夜に向けて銃を放つ。二人の姿が消えた直後岩の壁に大穴が空き、瓦礫となってがらがらと崩れ落ちた。
「アリダ様に仇なす者……許さない!!」
少し離れた所に移動した空美と沙夜に向かって、リリカが焼きただれた手でどうにか杖を握りながら毒々しい赤色の林檎を作り出す。
それが空美と沙夜に向かって放たれ二人に当たる寸前の所で、突然雨が檻の様に二人の周りを囲い降り始めた。
《天泣》
刀を地に突き立てながら、奏が呟く。
雨が林檎を洗い流したのを確認して空美が如意棒をくるくると回し始めた。
「おおきに、奏さん!」
空美の如意棒が地面に叩きつけられた時、バチバチと雨の檻に稲妻が走る。雨と雷のコンビネーションの様な屈強な檻が出来上がり、空美を、沙夜を守っていた。
「沙夜ちゃんには指一本触れさせへん!」
空美が雨の檻の中からリリカを睨みつけると、リリカがターゲットを変えて奏に向かって林檎を放つ。しかしそれが到達する直前につむじ風が現れ、それは遠くに飛ばされた。
「同じ手は二度も喰らわないわよ!」
二丁の扇を両手に持って構えた美琴が叫ぶ。
彼女の足から見え隠れしていた赤い毒々しい斑点は消え、血色の良い顔色になっていた。
それにリリカが眉間に皺を寄せた時、無数の茨のつるが明日香と誠司に襲いかかる。
咄嗟に誠司が明日香に覆い被さるが、二人の後ろから放たれた炎によってそれは焼け焦げ、今度は誠司の背中を貫くこと無く消え去った。
「お前の妹に礼を言う。もう少しで滝本にどやされるところだった」
バズーカを構えた杏が淡々と明日香に礼を言う。
杏の服は血で真っ赤に染まっていたが、目に見える傷は全く無かった。
杏のすぐ近くに和真も降り立ち、明日香の頭に手を置く。
「俺も、沙夜のおかげで助かった。ありがとな!」
ぽんぽんと軽く励ますように叩き、和真と杏が二人揃ってグラサイトへ向かっていく。ほぼ同時に美琴と奏も一緒にリリカの方へ向かって行った。
再び戦いの火蓋が切って落とされ、大きな爆発が空間全体に響き始める。
「誠司……」
その爆発があちこちで起き始める中、明日香はゆっくりと顔を上げながら誠司の名を呼んだ。
「……なんだ?」
静かな声で名を呼ばれ、誠司が明日香の顔を伺う。
杏達の戦いを見ていた明日香が左手を自身の胸に掲げると、明日香のコアである水晶が光り、弓に形を変えた。
「……頼みがある」
決意を帯びたその声には、揺るがない覚悟があった。
書いてて楽しかったですねえ。
誠司が明日香に覆い被さるのは彼が自発的にやった事です。君ねえ、それやって致命傷負ったのに、杏が助けてくれなかったらどうするつもりだったんだい?(他人事)




