第三十五話【八人目の選ばれた戦士】
沙夜が呆然としながら、自身の手の中にある今もほのかに光を発し続けるステッキ眺めている。
突然目の前に見知らぬ玉が現れて、それを握ったら魔法の杖の様なステッキの形に変わった。
物や細かい所は違えど今の沙夜の状況は、明日香達がセイバーとして力を得た時と全く同じだった。
強い光に当てられ、うっすらと意識が戻った美琴がゆるゆると目を開ける。細く目を開けながらステッキを持つ沙夜を見て、美琴はある事を思い出した。
* * *
それは、奏の龍神の力が暴走し、それを鎮める為に美琴が髪を切って二日程経った頃だった。
夕飯と入浴を済ませた美琴が机の上に一冊の本を広げながら、スマートフォンをスピーカーにして話していた。
『伝承の違和感?』
「うん、この間和真君と一緒に、うちの書庫で龍神様について調べたでしょ? その時、光の子と七つの石の伝承が書かれた本も見つけたの」
美琴が見つけたそれは、明日香が埼玉支部に連れてかれた後DSIの職員が話してくれた、自分達セイバーの状況ととてもよく似ている伝承が書かれた書物だった。
「職員さんが話してくれた時からちょっと引っかかってた所があって、改めて読んだ時にそれが分かったの」
『俺は特に気にならなかったが……どこなんだ?』
「ちょっと待って、今写真撮ってそっちに送る」
美琴は本の見開き全体が入るようにスマートフォンで写真を撮り、それを和真との個人チャットに流す。
美琴が見開きの本に達筆が並ぶそれを見て、和真が戸惑いの声を上げた。
『悪い、送ってもらってあれだけど、達筆過ぎて俺には読めねえ』
「ここの真ん中の、左から七行目の……『女は石を七つに分けると、自らと同じく石に選ばれた七人の戦士達を集め、石を分け与えた』って書いてある所」
美琴に読んでもらい、和真もあの時職員が話した内容を断片的に思い出す。しかし美琴が感じた違和感が、和真には分からない様だ。
『思い出した、けど……俺は特に違和感は感じなかったな』
「ここの、女は石を七つに分けた、七人の戦士達を集め石を分け与えたって書いてあるけど、ちょっとおかしくない?」
『なんでだ? 現に俺達セイバーは七人じゃないか』
「奏達の話も照らし合わせると、女が明日香ちゃんで、石に選ばれた七人の戦士ってのが私達でしょ? 人数が合わないと思わない?」
電話口の和真が美琴が言ってる意図に気付いたのか、僅かに息を飲む。
確かにセイバーは明日香も含めて七人だ。しかしこの伝承では、石を分けた女が七人の戦士を集めたと書いてある。石を分けた女、つまり明日香がこの戦士の中に入っていないのだ。
『どういうことだ? 俺達以外にもう一人、セイバーがいるっていうのか?』
「それは分からないけど、可能性は否定出来ない」
美琴も和真の考察に半分同意するが、あまり釈然としないようだった。
「でも、そんな都合よくセイバーになる条件が揃った人っているのかなって。だってセイバーになる為の条件で確実なのって……」
言いにくそうに美琴はそう言って言葉を切ると、和真が少し沈黙してから口を開いた。
『美琴も気付いたんだな。俺達が皆、過去に大切な人を失ってること』
「……うん、奏が教えてくれた。私のコアにはお姉ちゃんが、奏のコアにはお母さんの魂が宿ってるって。皆も、和真君もそうなんでしょ?」
『……ああ、そうだ』
「あ、誰とかは言わなくて良いからね。そこまで知りたい訳じゃないから」
慌てて美琴はそう付け加え、それを聞いた和真が少しだけくすりと笑う。美琴の気遣いに感謝しつつ、和真が再び口を開いた。
『この事、杏姉には?』
「まだ話してない。杏姉さんには明日香ちゃんの事を全面的に任せてるから、これ以上心配事を増やすのはと思って……」
『分かった。とりあえずこの件は俺達だけで留めておこう。支部長達にも言わない方がいい。……明日香の件が解決してない以上、不確かな新しいセイバー探しなんて現実的じゃないからな』
和真の結論に、美琴はこくりと頷いた。
* * *
沙夜の姿を見て、美琴は思った。
どうして今まで気付かなかったのだろうと。
明日香からアリダを生み出した話を聞いた時に、同時に明日香が父親を失ったことも聞いた。
つまりそれは明日香の妹である沙夜も、セイバーになる為の条件の一つである、大切な人を失ったという点は同じという事だ。
おそらくコア一つにつき魂は一つ。仮に二つコアがあったとしても、一人の魂を二つに分ける事が出来なかった。
だから沙夜は今までセイバーの力を得ることが出来なかったのではないだろうか。
「沙夜ちゃんが……」
意識がまだ朧気の中、重い頭を上げながら美琴は呟く。
ほぼ同時に和真の身体が少しだけ動いた。
「八人目の、セイバー……?」
同じく意識が少し戻った和真が顔を上げて呟く。
二人の言葉が聞こえたかは定かではないが、沙夜が戸惑いつつもステッキを握りしめ、両腕を上に掲げる。
何をすればいいかは沙夜自身あまり理解していない。だが、それでも沙夜の身体は自然と動いていた。
「お願い……お姉ちゃんを、皆を助けて!」
沙夜がそう叫んだ次の瞬間、ステッキの中心にある薄桃色の玉から眩い光が放たれ、その空間全体が光に包み込まれた。
実は14話の伝承の内容が間違っちゃだめな部分が間違ってたのでこっそり訂正しました。
日曜日なので21時にもう1エピソードあげます。




