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SAVERS ―絶望の怪物と戦って助ける少年少女たち―  作者: 春坂 雪翔


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第三十四話【守り合いの連鎖】(一)

 自身を取り囲んだガラスが割れた瞬間足元が消え、明日香は暗い穴に吸い込まれるように落下していく。しかし上下左右がままならない状況の中、明日香は目をつぶり五感を研ぎ澄ました。


 やがて閉じた瞼から僅かな光を捉え、明日香は目を開く。近付いてくる地面を確認するとコアである水晶を取り出し弓に変え、地面に向かって弦を引き矢を放った。


 矢が当たった衝撃で風を生み出し、明日香は足元に気を付けながら着地する。よろめく身体をどうにか立て直し、その場に真っ直ぐ立った。


「あんな高い所からよく転ばなかったわね。さっきみたいに無様に転げ落ちるかと思ったんだけど」


 神経を逆撫でるような声が聞こえる方に目を向けると、アリダが太い茨のつるの上に腰掛けていた。


「そう何回も同じ目には遭わない」

「強がっちゃって。どうやったらその心へし折れるのかしらねえ?」


 明日香の態度が気に食わないのか、アリダは呆れたようにため息を着く。この場にいるのは自分とアリダの二人だけで、誠司達は居ない。

 仲間がそばに居ないのはアリダも同じだったが、ここは彼女のテリトリーであることに変わりない。


 しかし今は手足が自由だからなのか、明日香の心は少しだけ落ち着いていた。そして最初は見えなかった、余裕そうに見えるアリダの違和感に気付いた。


「どうして、身体を乗っ取ろうとしないの?」


 明日香の問いに、アリダは答えない。

 答えなかったのをいい事に平常心を保ちつつ、明日香は言葉を続けた。


「思えば最初に出会った時からそうだった。あの時私以外を拘束したんだからそのまま私だけを連れてくことが出来たはずなのに、貴女は私にニードルを刺して放り出した。今日ここに連れてきた時だってそう。私は気を失ってたんだから簡単に乗っ取れたはずなのに貴女はそれをしなかった」


 ニードルを刺せばロストという制御不能な怪物になる。それで絶望に叩き落として身体を乗っ取るにしても元に戻るにはセイバーのギアが必要であり、元に戻った後はDSIの監視下に置かれることもアリダは分かっていたはずだ。


 敵であるはずなのにアリダの行動は自分にとってマイナスになる行動しかしていない。それが明日香から見たアリダの謎の違和感だった。


「すぐに乗っ取らなかった理由……そんなの決まってるじゃない」


 アリダの口角が上がり、くつくつと怪しげな笑い声を出す。今までアリダが笑う度に明日香の背筋に悪寒が走っていたが、慣れなのか今回は耐えることが出来た。


「貴女の心を徹底的に壊して、身体も心も支配しやすくする為よ!」


 アリダが叫びながら腕を前に伸ばすと、複数の茨のつるが触手のようにうごめき明日香に襲いかかってきた。

 勢いよく伸びてくるそれらを避けながら、明日香は素早く弦を引き矢を放つ。

 真っ直ぐ放たれた矢は光の線を描きつるを壁に縫いつける。その光の線が消えずに残り続けるのを見たアリダが、へぇ、と物珍しそうな目をした。


「面白いわねそれ。まるで貴女が薔薇の怪物になった時の触手みたいじゃない」


 その言葉が明日香の中の、深い所で眠っていた記憶を呼び戻す。空美を、奏を、誠司を襲った時の記憶が断片的に脳裏に映り、明日香は眉間に皺を寄せた。


 こんな技、明日香は知らない。

 矢の軌跡がひこうき雲の様に、しかしそれよりもくっきりと残り続ける現象に明日香は少し戸惑っていた。


 もしかしたら、戦いの最中に何かがきっかけで目覚めた新しい技なのかもしれない。だとしたら使いこなせるようにものにする必要がある。


 そんな明日香の心境を他所に、その後も別の茨のつるが休むことなく明日香目掛けて伸びてくる。それらを同じように矢で縫い付けていき複数の光の線が空間全体に引かれた所で、アリダが腕を下ろした。


「ちょっと多過ぎるわね。これならどうかしら?」


 アリダが顎に手を当て思案してすぐ、左手の指をパチンと鳴らす。

 刹那、無数の木の葉が舞い、それが一斉に明日香に向かって飛んで行った。


「……やっぱりその光、壁の機能は果たさないみたいね」


 光の線が木の葉に切り刻まれるように消える。

 明日香も何枚か矢で撃ち落とした様だが全部を避けることは出来ず、頬に、袖に、足に赤い線が浮かび上がっていた。


 はあはあと荒い息を吐きながら頬を手の甲で強く擦る明日香を見て、アリダは妖艶な笑みを浮かべる。


「そろそろ疲れてきたんじゃないかしら? 出来ればそろそろ降参して欲しいのよね。疲労の溜まった身体より元気な身体の方が良いから」

「……そうやって追い詰めて、今度こそ私の身体を乗っ取るつもりなの?」

「そうよ。でも気を失う前にやりたいわね。貴女の絶望に染まる顔を見ながら乗っ取りたいから」


 アリダの言葉に明日香は、ははっと軽く笑い声をあげる。疲労の中に隠れる余裕が見えたのか、アリダは眉をひそめた。


「何がおかしいの?」

「……残念だけど、それなら貴女の望み通りにはならないよ。私は、もう絶望に落ちたりはしない」


 相変わらず肩で息をして苦しそうな明日香だったが、その目は生気に満ちていた。その曇りなき眼がアリダには気に食わなかったのか、今まで余裕の表情をしてたアリダのこめかみに青筋が走った。


「この期に及んでまだそんな強がりを言ってるの!? 貴女の仲間はもう居ない。貴女はもう独りなのよ!」


 苛立ちながらアリダが再び指を鳴らし、木の葉が舞う。

 しかしそれらが飛んでくる前に明日香は矢を放ち、光芒散華(プリズム・カスケード)で全ての葉を地に落とした。

 パラパラと粉々になった葉が空気の流れに乗るのを眺めながら、明日香は口を開く。


「仲間なら居るよ。例えそばに居なくても……仲間がいる限り、私は負けない」


 自分に言い聞かせる様に静かに、だが力強く言い切る明日香に、アリダは不快感を覚える。しかし一瞬だけ目を伏せた後すぐに顔を上げ、再び癇に障る声で話し出した。


「そう……じゃあその仲間の所に、連れて行ってあげるわよ」


 言い終わらないうちに空間が黒い闇に飲まれ、生暖かい風が突風のように明日香にまとわりつく。

 明日香は咄嗟に腕で顔を覆い風が止んだのを確認してから恐る恐る腕を下ろすと、そこはリリカとグラサイトと戦った場所だった。


 目に入った光景を見て、明日香は頭が真っ白になる。

 冷たい床の上に、誠司達が全員気を失って倒れていた。



* * *



 機械が積み重なって起動しているプレハブ小屋の中は熱気がこもっていた。汗が流れるのもお構い無しに章吾はパソコンのキーボードを叩きながら卓上マイクに向かって叫んでいた。


「誠司! 明日香! 聞こえるか!? 返事してくれ!」

「うるせーぞ飛渡! そんな叫んでも繋がってないなら意味ねーんだよ!」

「ドローンが故障して映像が途絶えたから状況が分からないんですよ! 木戸さんのドローンの映像まだ映らないんですか!?」

「こっちのドローンだって無傷じゃねえんだぞ! 辛うじて動いてたのに結界くぐり抜けようとしたらこのザマだ! 分かったら無線が早く繋がるように電波障害を直しやがれ!!」


 同じくキーボードを叩きつけながら修一が更に怒鳴った時、ぶんと音がして四つ窓に分かれたモニターの画面の砂嵐が一部波打った。


「やっとか、頼むから映れ……!」


 修一が祈るようにキーボードに指を走らせると、砂嵐の映像がクリアになり、多少のノイズを残しながらも画面が映し出された。


「よし!」

「映ったんですか!? ドローン動かせますか?」

「だーもうそんな近付くな操作出来ねえだろ!」

「待って下さい今試運転で地面を移動します」


 研究開発班の職員がコントローラーを持ち、手に汗握りながら慎重に動かす。人影のような物が映り章吾と修一が目を見張ったその時、二人の背筋に冷たいものが流れた。


「おい……これ、美琴の足じゃねえか?」

「てことはこの下にいるのって、もしかして雨宮君ですか?」


 ドローンが後退し、捉えた人影の全体像を映し出す。

 倒れた奏と庇うように重なった美琴の姿を見て、修一が叫んだ。


「奏!! 美琴!! 何があった!? おい電波障害まだ直ってねえのかよ!!」

「誠司!! お願いだから返事してくれ!!」


 章吾と修一の怒鳴り声は、プレハブ小屋の外まで響いていた。

よくよく考えてみたら、アリダがまともに出たのってここが初めてだったりしますかね?

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