第三十三話【死角に潜む一手】(一)
和真、奏、美琴が駆けつけたことにより、明日香達は満身創痍であったが気の持ちは若干上がっていた。
三人とも他のシェイドと戦いを終えた後にも関わらずこうやってすぐに来てくれた事に明日香は感謝したが、同時に疲労が溜まってないか不安になった。
そういえば空美は何処にいるのだろう。
和真と一緒にいたはずの空美の姿だけ見えず、明日香は目だけを動かした。
「空美ちゃんは……」
おもむろに出た問いを聞いた美琴が明日香の言葉を制す。不思議そうに顔をあげる明日香を見て少し微笑んだ後、自身が着てるジャケットを掴んで明日香に見せた。
『これ研究開発のおっちゃんらの試作なんやって! フード被ってたら敵さんら、うちらのこと全然気付かへんねんもん』
『激しい行動起こしたらすぐにバレるって言ってたからもうただの上着だけどな』
美琴のジャケットを見た明日香は、自身が助けられた直後の空美と奏の会話を思い出した。同じジャケットを着てる美琴達は既に明日香達は勿論、シェイドであるリリカとグラサイトにも認識されている。
恐らく空美もここに居るのだろうが、何か事情があって今は動けないから明日香達も認識出来ないということのようだ。
「……なあ、そろそろこれ外して降ろしてくれねえか?」
少しだけ緊張感の抜けた誠司の声が聞こえる。
声のする方へ目を向けると、誠司が水の刃によって柱に縫い付けられていた。
奏が誠司の方を軽く一瞥すると、刀を前方に勢いよく振り下ろす。同時に水の刃が弾けて消え、誠司はそのまま下に落下した。
「っで!? おい、やるならやるって一言ぐらい言えっての!」
「はいはいこんな時まで喧嘩するなお前ら。とりあえず、誠司もそんだけ叫べるなら大丈夫そうだな」
和真が呆れた声で誠司を宥める。尻もちを付いた場所をさすりながら誠司も納得はしてなかったが、状況を省みて渋々溜飲を下げた。
「さて、こっちはそこの子ども達を保護したいんだが……そう簡単にはいかないようだな」
和真がすうっと目を細めてまっすぐ前を見る。
その視線の先には、先程までロストになっていたロストファクターである二人の子どもが横たわっており、それぞれのすぐ近くにリリカ、グラサイトが立っていた。
そしてリリカは杖を、グラサイトはとかげをそれぞれの子どもに突きつけている。
一歩でも動いたら子ども達を攻撃する。二人の鋭い視線がそう言っている様だった。
* * *
閉鎖病院の外、日が傾いてきたとはいえ、日中の太陽の光で上がり続けた気温はそう簡単には下がらない。
簡易的に建てられたプレハブ小屋の中にも熱がこもっており、扇風機が休むことなく稼働していた。
「やっぱり無い。確かにここに置いたはずなのに……」
扇風機の風を受けながら癒月は首を傾げていた。首にかけたタオルで汗を拭いながら箱の中身を漁ったり近くの棚に置いてある物に手を伸ばしたりしていたが、その手も止まってしまっていた。
「癒月ちゃん、こんな所にいたの?」
がちゃりと扉が音を立て、夏歩が顔を出す。癒月を見つけた安堵なのか夏歩がふうっと息を吐きながら中に入り、癒月に話しかけた。
「ちょっとこっちの手が足りないのよ。備品の整理は後回しで良いからこっちを手伝ってもらえると」
「あの、ここにあったジャケット、知りませんか?」
夏歩の言葉を遮りつつも、癒月は夏歩に疑問をぶつけた。
「ジャケットって……誠司達が着てったステルス機能搭載の試作品のあれ?」
「それです。確か一着余っててここにあったはずなんですけど……」
癒月は首を傾げながら棚に目を向ける。
ステルス機能付きのジャケットはDSIの研究開発班が作った、最近出来たばかりの発明品だ。
まだテスト段階で実戦投入する段階では無かったが、ちょうどセイバーの人数分は用意出来たのと状況が状況だったのもあって今回誠司達は着て行ったのだ。
「明日香用に持ってったんじゃないかしら? ほら明日香はここに居なくて持ってなかったから」
「でも、あのジャケットは認識された後だとステルス効果が無いから、やっぱり持ってかないって話になったと思うんです」
ジャケットは着た瞬間透明人間のように認識出来なくなる物では無い。一度対象者から認識されてない場所でジャケットを着る必要がある。
今回明日香はシェイドによって連れ去られた後だったので、既に敵であるシェイドに認識されている可能性が高かった。つまり誠司達と合流してからジャケットを着た所で何も効果は得られないので、明日香の分は不要という結論になったのだ。
「直前になってやっぱり持っていこうってなったんじゃないかしら? ほら隠れた時に着るとかで」
「それは無いと思います。どんな状況になるか分からない時に余計な荷物は増やしたくないって杏さんも言ってたし、それで私もここに置いたはずなので……」
「そしたら後で探せばいいわ。それよりこっちに来て手伝って欲しいの。結界が少しずつ解けて病院の中に入れるようになったんだけど、中の空気で気分を悪くした人が何人か出てるのよ」
夏歩が癒月に着いてくるようにと言いながら扉を開け外に出る。
(ジャケットもだけど……備品もいくつか足りない気がするんだよなあ。現地対策班の人達が持ってっただけかな?)
癒月はジャケットがどこに消えたのか訝しみながらも、夏歩の後を着いて行った。




