第三十一話【灰色の童話に刺す彩】(二)
じわりと嫌な汗が吹き出る感覚に不快感を感じながらも、別の小人がシャベルを振り回しながら明日香目掛けて突進してくる。ワンテンポ遅れつつもその攻撃を避けたその時、突然足に鋭い物が刺さった痛みが走った。
知らない間に小人が自分の間合いに入っていたのだろうか。表情を歪ませながらも足元を見るが、そこに小人は居ないし足も傷は出来ていない。
その奇妙な感覚に明日香が戸惑ってると今度はノミを構えた小人が明日香に突撃してきた。
動揺がそのまま身体に反映されてしまい避けきれず、小人のノミが明日香の脇腹をかすった時だった。
「ぐあっ!?」
少し離れた所から誠司の叫び声が聞こえる。
その方向を見ると、明日香が攻撃を受けた脇腹と同じ場所に手を当てながら誠司が顔をしかめていた。
「もしかして、私がロストの攻撃を受けると、誠司も攻撃受けてなくてもダメージがリンクする……?」
「なんだよそれ、ってことはさっきロストの攻撃が足に当たった時、明日香も痛みがあったってことか!? いつの間に……くそっ!」
誠司が苛立ちを覚えたその時またロストが攻撃体制に入る。それを避けようとして死角から現れた別のロストのツルハシの刃が誠司の左腕にかすり、明日香の左腕にも痛みが走った。
「いっつ……!?」
「ごめん明日香! 次は気を付ける!」
「気にしないで、今は目の前のロストに集中して……っ!」
左腕を押さえながらロストの次の攻撃をどうにかして避けようと、明日香は身を翻した。
二人がロストの攻撃に戸惑いながらも戦う様子を横目で見ながら、杏が眉間に皺を寄せる。加勢しに行こうとした所でグラサイトから目を離してしまえば、何をされるか分からなかった。
「ほらほらよそ見をしていると、こちらの攻撃も当たりますよ」
グラサイトが懐中時計の蓋を片手で閉じながらパチンと指を鳴らしたその時、彼の肩に乗ったトカゲが上に向かって唾液を放つ。再び黒い雨が杏に降りかかろうとして、杏は芸がないと若干呆れながらバズーカから火の玉を放ち、それがかかる前に蒸発させる。
だが蒸発して黒い雨が霧になり上空に充満する中から、怪しく光る何かを捉える。警戒しながら杏が見上げたその先には、かぼちゃ型のロストの黒い目があった。
あれを直視してはまずい。本能的にそれを察知して杏は目をそらすが遅かった。ロストの目が案を捉えたその時、杏の脳内にとある映像が強制的に流れ込んできた。
『杏、お前しかいないんだ』
『お前が豊川グループの跡を継ぐんだ』
『それ以外に大事なことは無い。余計な物は全て捨てろ』
杏の脳内に、忌々しい過去の記憶が無理やり引き起こされる。それだけじゃない。黒い霧に杏の中に流れている映像が、リアルタイムで映し出されていた。
咄嗟に杏は上空に向かってバズーカを放ち、霧が霧散して映像は消える。しかし杏の脳内には変わらず過去の記憶が途切れることなく流れ込んできていた。
「あっははは! 消した所で無駄だ! マスターのナイトメアは、お前のその過去を延々と映し出す!」
杏は毅然として立っているが、それに反して胸の鼓動が早くなり動悸が収まらない。その感覚に苛立ちを覚え眉間に皺を寄せながらグラサイトを睨みつけた時、グラサイトが懐中時計を一目見てから指をパチンと鳴らして杖を一振り手に取る。そこから青白い物体を生み出すと、杏に目掛けて飛ばしてきた。
杏はそれを軽々と避けるが、その足取りは最初と違って軽快では無い。このままくらい続けていれば、いつか直撃してもおかしくなかった。
「これならどうでしょう」
グラサイトが高笑いしながら、無数の青白い物体を一気に杏に叩きつける。隕石のようにそれが杏に降りかかろうとしたその時、一筋の光がそれを弾き飛ばした。
それが一筋、また一筋と物体に当たり、杏に当たる前に四方八方に飛び散り砕けていく。
疲労で若干ふらついた杏が光の筋を辿ると、明日香が弓を構えてグラサイトを睨みつけていた。
「人の過去は、勝手に見ていい物じゃない!」
怒りに満ちた明日香の叫び声が響いたその時、杏の脳内にあの日の出来事が蘇った。




