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SAVERS ―絶望の怪物と戦って助ける少年少女たち―  作者: 春坂 雪翔


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第三十話【お菓子を片手にネバーランドへ】(二)

 気が付くとそこは、最初に辿り着いたお菓子で出来た幻影の空間だった。

 美琴と奏は互いに口を閉ざしたまま、目の前にいる少年と少女を見る。たった今脳内に流れ込んできた映像に出て来た子ども達と、目の前にいる子ども達の容姿は全く同じだった。

 

 無言のまま黙って少年と少女を見つめていると、二人がむくりと起き上がる。顔を擦りながらゆっくりと目を開けて周りをキョロキョロして、二人の視線が美琴と交わった。


「おねえちゃん、どうしたの?」

「どこかいたいの?」


 不思議そうな目を向け話しかけられ、美琴がハッとして少したじろぐ。しかし目の前の二人の子どもは不思議そうに首を傾げるだけで、さっきまで命の取り合いをしてたのが嘘みたいだった。


 美琴がぐっと唇をかみながらも、少年と少女にゆっくりと近付いてしゃがみ、二人と改めて目線を合わせる。


「大丈夫、どこも痛くないよ」

「そっかあ。あのね、いたいときはおかしをたべるとげんきになるんだよ」

「おねえちゃんはなんのおかしがすき? あたしはチョコレート!」


 少女が屈託のない笑みを美琴に見せる。

 無邪気に笑う二人を見て、美琴は思わず抱きしめるように二人の肩を抱いた。ぽやぽやと淡い光が放たれるその身体は透き通ってて、美琴の手は少年と少女の肩に触れることは出来なかった。


「おねえちゃん……?」

「大丈夫……もうすぐ沢山お菓子が食べれるから……」


 ふるふると震える美琴を二人は不思議そうな目で見る。

 その目を真っ直ぐ直視することが、美琴には出来なかった。

 しかし美琴はぐっと力を込めて顔を上げ、努めて二人に笑顔を見せた。


「今度会ったら……一緒にお菓子を食べようね……」

「うん! わかった! やくそくだよ!」


 少年と少女が笑って小指を出した時、その身体は更に薄くなっていく。美琴も子ども達から手を離し、小指を出そうとしたその時──


 少年と少女の姿が、空気に溶け込むように消えていった。

 

 行き場を失った美琴の手がパタリと力無く地面に落ちる。奏が美琴のそばに静かに駆け寄り、下を向いたまま動かない彼女の肩を後ろからそっと抱いた。


「美琴、もういい。我慢するな」


 淡々とした口調だが、それは暖かかった。

 それを皮切りに、美琴がせきを切ったように泣き出す。

 それは幼子が泣きじゃくるような大きな声だった。


 やり場のない思いが美琴の中でうごめき、少年と少女を思いやる涙が止まることなく流れ続ける。

 いつの間にか幻影は解けていて、二人がいたそこは無機質な室内だった。

 

 勢いよくドアが開き、バタバタとDSIの現地探索班が入ってきて、その中に血相を変えた修一がいた。


「……何が見えた」


 シェイドを倒すとそのシェイドの記憶が流れ込む。

 ここに来る前に誠司から聞いていた情報と目の前の美琴を照らし合わせれば、何が起きたかは明白だった。

 

 泣きじゃくる美琴を抱きしめながら、奏が振り返らずに口を開く。


「俺達が戦ったシェイド、無理心中の被害者だった」

「……!?」

「どっかの森の中にある車の中で、多分睡眠薬飲まされて、中に煙が充満して……おそらく練炭自殺による、一酸化炭素中毒だ」


 美琴と一緒に見た映像を、話せない美琴の代わりに顔色を変えず淡々と話す奏に、修一は顔を歪ませる。何の心構えもなくショッキングな事実を見せられた二人の心境を想像するだけで心が痛かった。


「そうか……辛かったな」

「ああ、美琴は優しいからな。引っ張られても無理はない」

「そうじゃねえよ」


 いつもと同じように振る舞う奏の姿も彼の素かもしれないが、修一は見るに耐えなかった。

 修一が二人の前で膝をつき、美琴ごと奏を抱きしめる。


「こんな時ぐらい強がるなよ。ガキはガキらしく素直になれ」


 奏は振り払わず、修一の抱擁を素直に受け入れる。それはおそらく、美琴と同じくらい彼も傷付いてるということだ。


 修一はギリッと奥歯を噛み、二人を抱く手に力がこもる。

 この二人が何をしたと言うんだ。

 本来なら大人が助けケアをしなければならない事を、心がまだ成長しきっていない子どもにさせてしまったやるせなさに、修一は腹が立っていた。


 修一の腕の中で泣き続けていた美琴だが、突然その泣き声が止まる。修一が訝しんで美琴の様子を伺うと、美琴ががばりと顔をあげ修一の胸ポケットを漁り始めた。


「お、おい何して」

「木戸さんごめんちょっと静かにして、何かが聞こえるの」


 美琴がそう言いながらガサゴソと修一の胸ポケットを探り、無線機を取り出すとスピーカーに耳を当てた。


『明日香! 何をしてるんだ明日香!? 返事しなさい!!』


 余裕の無い章吾の切羽詰まった叫び声がスピーカーから聞こえてくる。

 普段は穏やかな口調の章吾が感情的に叫んでるのを聞くのは初めてだった。


 内容からして、明日香達に何かが起きたのは明らかだった。ここで立ち止まってる訳にはいかない。美琴が手の甲で目の当たりを強くこすって立ち上がった。


「明日香ちゃん達が危ない。行かなきゃ!」

 

 奏の手を引いて美琴が部屋を飛び出そうとして、しかし奏は美琴に従わずその場から動かなかった。


「奏、何してるのよ早く」

「お前、自分の無線機はどうした?」


 その言葉に美琴はハッとして、自分の耳に手を伸ばす。

 修一がドローンから風船ガムの粘着物質を放つことは、修一と奏が無線を通じて交わした内容を聞いてれば知ってたはずなのに美琴は知らなかった。最初は戦闘に集中してたから二人の会話を聞いてなかったんだろうと思っていたが、どこかで無線機無くして元々聞く手段が無かった様である。

 

「あと中の服も着替えた方が良いな。ステルス機能搭載のジャケットはまだそれしか無いが、そっちはいくらでも替えがある」


 ぽたぽたと水が滴る二人の戦闘服に目を向け、修一が少し言いにくそうに指摘する。速乾性の素材で出来てはいても、あれだけ水を被れば乾くのにも時間がかかる。


「焦っても何も変わらねえから、準備を整えてから行った方が良いだろ」


 奏に促され、美琴は焦る気持ちを抑えながら静かに首を縦に振った。

この子達が何したって言うんだよ。

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