第三十話【お菓子を片手にネバーランドへ】(一)
具体的な表現は避けたつもりですが、無理心中の描写があります。
苦手な方はご注意下さい。
今エピソードはSAVERSの中でも上位に入る胸糞悪い話となってます。
そこは狭い一室の部屋だった。
夕暮れで空が徐々に群青色に染まっていくのを窓越しに眺めながら、少年と少女がままごとをして遊んでいた。
「おにいちゃん、おなかすいたね」
「うん、パパたちはやくかえってこないかな」
「このホットケーキがほんものだったらよかったのに」
「このケーキもおいしそう。ママがおたんじょうびにつくってくれたケーキ、おいしかったなあ」
プラスチックにマジックテープが付いたスイーツの形を成した玩具を恨めしそうに眺め、二人はぐるぐると鳴る腹を抱えながら両親の帰りを待っていた。
しばらくすると玄関からガチャガチャと鍵を回す音が聞こえ、ドアが開く。よれよれの服に身を包んだ若い男性が入ってきて、後から目のクマが病的に濃い女性がくたびれた顔をして入ってきた。
「パパ! ママ! おかえり!」
「ママ、おなかすいた!」
両親の顔を見た二人は顔を綻ばせながら抱きつく。疲れた顔をした両親だったが子ども達を安心させようと笑みを作った。
「……ただいま、遅くなってごめんね、はいこれ。このパンしか無いんだけど」
「やったー! ぼくこのパンだいすき!」
「あたしも! おかしみたいにあまくておいしいの!」
チョコチップの埋め込まれた細いパンをビニール袋から出して嬉しそうにかじりつく子ども達を見て、男性が口を開く。
「二人とも、お菓子が好きかい?」
「すき!」
「まいにちたべたいくらいだいすき!」
にこにこと屈託のない笑みを浮かべながら美味しそうにパンを頬張る少年と少女を見て、男性がくすりと笑う。その笑みは作り笑いではなく本心から出た微笑みだった。
「そうか、それじゃあ明日は皆でお菓子を持ってお出かけしようか」
「やったー!」
「おでかけだいすき! たのしみだなあ」
無邪気に笑う二人を見て、今度は女性も一緒に微笑む。
だがふと何か思い出したように、女性がふらふらとおぼつかない足取りで台所へ向かうと、ガスコンロに手を伸ばして回そうとした。
何回かカチカチと回し、しかし何も付かないそれを見て女性はため息をつく。
「やっぱり止まったか……」
女性が落胆しながら、後ろめたい諦めたような目で書類が散乱したテーブルに目を向ける。
公共料金の振込用紙の入った封筒の山の中に、黄色や赤の封筒が混ざっていた。
* * *
翌朝、両親が用意してくれた沢山のお菓子を車に乗せて、少年と少女は車に乗り込んだ。
父の運転で山の中を進んでいき、他の車が沢山停まっている駐車場と看板を通り過ぎて辿り着いた場所は、緑いっぱいの森の中だった。
蝉の声が大合唱してるかのように響き渡り、近くに川も流れているのか水音も聞こえる。
「夕飯まで遊んでおいで。川の流れる先に楽しいものがあるから探してきてごらん」
「わかった! あそんでくるね!」
二人は手を繋いで川に行った。
そこで泳いでる魚や生き物を追いかけ、暑くなってきたら水をかけあって涼を得て。気が付くと日が傾いて薄暗くなってきた。
「おにいちゃんこわいよ、パパとママのところにかえりたい」
「うん、ぼくもかえりたい、どうしよう」
「あたしたち、どこからきたんだっけ?」
「わからない。パパとママのばしょわからなくなっちゃった」
心細くなって泣きそうな顔をする少女を宥めながら、少年は辺りを見回す。
すっかり日が落ちて辺りが真っ暗になった時、月の光に照らされて川の水がキラキラと輝いた。
「そうだ! このかわのみずがながれてくるほうにいけばパパとママのところにもどれるかも! ぼくたち、みずのながれをみてきたから」
「そうだ! おにいちゃんあたまいい! ヘンゼルとグレーテルみたい!」
幼稚園で聞いた有名な童話を思い出した二人は、良い案を思い付いたと言わんばかりに安心した表情で川の水が流れる上流に向かった。
やがて赤い炎のような光が見え小走りで進んでいくと、焚き火を囲んでいる父親の所に無事に辿り着いた。
「パパ! ママ! ただいま!」
「おなかすいちゃった! おかしたべたい!」
二人の姿を見た父親は少し間を置いて驚きと、後悔と、哀れみと喜びの混ざった複雑な表情で二人を見る。
「あ、ああ……、おかえり。お菓子あるよ」
「やったー! あれママは?」
「ママは疲れて車で寝ているよ」
「そっか。じゃあママのおかしものこしとこうね」
二人は車の中に入り、山のように積まれたお菓子を食べれるだけ食べた。
「ラムネだー! ぼくラムネだいすき!」
「ねえパパ、このあかいのもポテチ? あたしたべたことないからたべてみたい」
「あ、ああいいよ。パパはもうおなかいっぱいだから」
「ん!? なにこれからい! パパジュース! ジュースちょうだい!」
「あ、ごめんこれハバネロってからい味のポテチだった。ごめんごめんはいこれ飲んで」
「……ふー。まだちょっとからいかも」
「わたあめあったよ。あまくておいしいよ」
「うん! あたしわたあめだいすき!」
「ねえパパこれは? ガムってなに?」
「これは風船ガムって言うんだよ。噛みながら口の中で膨らますんだ」
「へー。ぼくもそれたべる!」
銀色の小さな紙から取り出した四角いガムを口に入れ少年は口を動かす。
少女が父親に渡されたオレンジジュースを飲み終わった後、目を擦り始めた。
「ねむくなってきちゃった」
「ぼくもおなかいっぱい。これたべたらねよ。のこりはあしたたべる」
「そうだね。あしたのおたのしみだね」
「もーっとおかしをたくさんたべて、はやくおおきくなりたいな!」
「おおきくなったら、たっくさんおかしがたべれるね!」
二人は笑い合いながら肩を寄せ合い目をつぶり、深い眠りについた。
その時二人が見た夢は、お菓子で出来た家を一緒に食べる夢だった。二人はヘンゼルとグレーテルになった気分で、そのお菓子の家をおなかいっぱい食べたようだ。
やがて父親が、焚き火の中から黒い炭を取り出し鉄カゴに入れ、車の中に入ってくる。
ドアを閉めそれを足元に置き、彼はそのまま目を閉じる。
朝が来て辺りが明るくなったが、その車のドアが開くことは無かった。
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「……あらあら、可哀想な子達ね。私と一緒に来ない?」
ふわふわと浮遊している少年と少女の前に、ゴシック調の黒いドレスに身を包んだ少女が笑いかける。
「あなた達に必要なのは、この心かしら? どちらかというと必要なのはあっちかもしれないけど、まあ良いでしょ」
差し出された少女の手から光が現れる。それは仄暗く、悲しそうな光だった。
『良い学校に入らなきゃ。それがお母さんの願いだから』
『本当はゲームとか遊びに行きたいけど、良い学校に入るなら諦めなきゃ』
『遊びたいって気持ちが無ければ良いのにな』
光が二つに別れ、少年と少女の胸の中にそれぞれ吸い込まれていった。
「新しい名前を付けなくちゃ。グラサイト、何がいいかしら?」
「そうですねアリダ様。ちょうどいい名前がありますよ」
少女がにやりと笑みを浮かべ、見上げるように横に立つ青年を見た。
……この子達が何をしたって言うんだよ。
この子達の裏話はフリーメモに書いてあります。
こんな状態で読んでくれた方に華金を過ごして欲しくないので21時にもう一つ更新します。
お口直しになるか分かりませんが、宜しければまた読みに来て下さい。
(よく分からんが絶許と思った方、リアクション、コメントお待ちしております)




