第二十九話【心の音を響かせて】(二)
巨大な鳥の形をした黒い塊が、頭を抱えてうずくまっていたルークとリゼット、後方にいたロストに勢いよくぶつかる。鳥の形を模したそれが大粒の水滴に変わっており、気が付いたら彼らは全身びしょ濡れになっていた。
ぶつかった水の塊が大きかったからなのか、今度はロストの内部から粘着性のある液体は出てこなかった。
「うわああなにこれえ!?」
「つめた……かおになんかぶつぶつでてきたあ!」
「へんなおともうるさいしあたまいたいしさいあく!!」
混乱してるルークとリゼットに奏が呆気にとられていると、美琴が鳥かごを一蹴りして飛び出し奏の隣に戻る。
一瞬だけぐらりと美琴がよろめいたが、すぐに立て直した。
「おい、大丈夫か?」
「……ええ、大丈夫よ」
片手で頭を抑えながら美琴が深呼吸をして息を整える。頭が痛いのかと奏は思ったが、それにしては美琴の顔色は悪くなかった。
「この鈴の音……奏がやったの?」
「……ああ」
「そう……とっても綺麗。まるで内側から浄化されていくみたい」
今も尚響き渡る無数の鈴の音を聴きながら美琴は微笑む。ニードルの成分が関係しているのか定かではないが、どうやらこの音を害だと認識してるのはシェイドの二人とロストだけのようである。
「多分だけどさっき……リボルバーの銃弾が止まって見えた」
「っ!?」
「それだけじゃない。戦い始めた時よりも視界がクリアに見えるし、音も澄んで良く聞こえる。甘い匂いが強くなったけど……そのおかげでロストとあの子達の場所もさっきより分かる」
美琴が鼻を少し抑えようと手を動かしたその時、奏は美琴の破れたジャケットの袖から何かが見えた。ただのかすり傷かと思ったがそれは複雑な模様をしてて、円を描いている。じわりと赤黒く浮かび上がったそれは、奏の脇腹にある痣と同じ形をしていた。
「これが……龍神様の力……」
美琴はその痣に気付いてないようだが、自身に新たな力が目覚めた事には気付いていた。
恐らく未来視とかまた違う、何か別の能力が備わっている。奏の心境に反応して腕を確かめない辺り、読心術は無いようだ。
美琴の腕の痣に複雑な目で見つめていた奏だが、一呼吸吐くと正面を見据える。
「まずはあのロストをやるぞ。俺に考えがある。美琴に頼みたい」
そう言ってから、奏が口早に要件を美琴に伝える。一瞬ためらいながらも美琴は首を横に振らなかった。
「出来るか?」
「……やってみる」
「分かった。合図を出すまで俺の援護を頼む」
「了解」
美琴が答えたちょうどその時、ルークが頭を振りながらこちらを睨みつけてきた。
「もうおこったぞー……やれ! マスター!」
ニット帽を脱ぎ捨て、青い髪から水を滴らせながらルークが後ろ手でロストに向かってリボルバーを放つ。
そしてロストの手の中で氷が作られ、奏に向かって吹雪を放った。
それを奏が避け、美琴が鉄扇を振り燕返しをロストに向かって放つ。
「そんなこうげききかないんだからあ!」
それに対抗すべく、今度はリゼットがロストに赤いポテトチップスを大量に投入すると、ロストが炎を吐き出した。
すかさず奏は刀を振り、ロストの頭上に向かって追時雨を放つ。それが上空の雲にぶつかり、ロストの頭上から雨が降ってくる。
「もうぬれたくないんだってばー!」
またルークがロストにリボルバーを向け、ロストが吹雪を頭上に向ける。すると雨が凍り、雲の下に氷柱が出来た。
(……かかったな)
大きな氷柱を見た奏は、にやりと口角を上げながら叫んだ。
「美琴! 今だ!」
奏の掛け声と共に、美琴が氷柱に向けて燕返しを放つ。
氷柱が根元から破壊され落下し、ロストの頭上に落ちていく。
「あ、あぶないマスター!」
寸前の所でリゼットのポテトチップスの投入が間に合ったのか、ロストが頭上に腕をかかげて炎を放とうとしたその時だった。
「見えた! これで最後よ!」
ロストが腕をあげたことによりローブが少しめくれ、胸の位置に刺さったニードルの場所を美琴の目が捉える。一瞬の隙を逃さず、美琴がそこに目掛けてもう一度燕返しを放った。
ロストの断末魔が響き、黒いモヤに覆われていく。それが晴れた時、ロストがいた中央にはロストファクターである桐原理人が倒れていた。
「やった……ってきゃあっ!?」
ロストが人間に戻って安堵した美琴に、リゼットがロリポップで思い切り殴り掛かる。咄嗟に鉄扇で受け流したが、それはかなり重い一撃だった。
「よくもマスターを! ゆるさないんだからあ!」
怒りの感情が乗ったリゼットの攻撃はかなり重く、美琴は防御に徹するしか方法がなかった。リゼットの攻撃を避ける美琴が、奏からどんどん離れていく。
「美琴……っ!?」
加勢しようとした奏にもタブレットラムネで出来た弾丸が打ち込まれた。
「おにいちゃんのあいてはぼくだよ。おねえちゃんのとこにはいかせない」
口角が上がりつつも目が笑っていないルークを前に、奏は舌打ちをする。しかしその直後、頭の中に声が響いた。
『奏、聞こえる? 私の声が聞こえたら鈴の音を鳴らして!』
それは無線機からの声ではない。頭に直接語りかけているようだった。
襲いかかってきたルークを奏は刀で迎え打つ。そして刀とリボルバーがぶつかり合い、鈴の音が響き渡った。
『良かった。今奏の脳内に直接語りかけてるの。奏だったらこの声が聞こえると思って』
恐らく美琴が声には出さず、心の中で奏に向かって話している。だからこの声は奏にしか聞こえない。そして美琴に読心術の能力は無いから奏から心の声を発することは出来ない。つまりこれで意思疎通は出来ず、一方通行だ。
美琴自身も声が届くか確証は無かったに違いない。あったとしてもこんな突拍子もないことを実行するには少なからず覚悟が必要だったはずだ。奏を信じているからこそ出来たのだろう。
戦いながら喋れば舌を噛むからなのか、或いはそもそも話す余裕が無いからなのか、真相は美琴のみぞ知るだが彼女は構わず奏に語りかける。
『私に考えがある。このまま聞いて。出来そうならもう一度鈴の音を鳴らして』
ルークの攻撃を避けながら美琴の考えを聞いた奏は、飛んできたタブレットラムネの弾丸を刀で切る。再び鈴の音が高く鳴り響く中、奏は無線機に向かって話し出した。
「……おっさん聞こえるか? 頼みたいことがある」
集合体恐怖症なのでムクドリの大群が大の苦手です。
空一面に飛んでる姿を見ると顔に鳥肌がザーッと立つ感触があります。
……そういえば、ヒヨドリもムクドリに似てるそうですね。
(共感してくれる方はリアクション、感想お待ちしております)




