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SAVERS ―絶望の怪物と戦って助ける少年少女たち―  作者: 春坂 雪翔


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第二十八話【お菓子の森の双子と魔道士】(三)

 その日、奏は一人で山の中にいた。

 水音を辿るように歩を進めていくと湖のほとりに着き、その中央に龍神がいた。


 美琴が龍神と出会った場所だということはすぐに分かった。力の有る無しに関わらず、少しでも龍神と繋がりのある者だけが入れる場所なのだろう。


「内なる音ってなんのことだよ」


 奏が湖の真ん中に鎮座している龍神の言葉を聞き返したが、龍神は透かした顔をしてあさっての方向を向いていた。


「我がそれを教えたら意味が無かろう。お主自身で考えるからこそ価値がある」


 そう言いながら龍神が横目で奏を見ると、するすると尾を伸ばし彼の手の中にある酒瓶を取り上げる。目の高さまで持ち上げたそれを見ると満足そうにうっそりと微笑んだ。


「流石、上等な酒じゃ。お主目利きの才があるのう」

「俺が選んだ物じゃない。そんなに良い物ならそれと引き換えに教えてくれても良いんじゃねえか?」

「お主も中々の強欲だのう。あいにくだがお主の力の暴走を鎮めたのとこの酒は同等の価値だ。先程の助言は我からのおまけに過ぎん」


 飄々と言ってのける龍神に奏は苛立ち舌打ちする。

 夢に出てきたので仕方なくお礼参りに来たのだから褒めて欲しいぐらいなのだが、そうもいかないらしい。やはり美琴の家に代々伝わる厄介な力の根源なのもあり、言いくるめることは不可能の様だ。


「時にお主は、我の力を持ってる事をあまり好んでおらぬようじゃな」

「当たり前だろ。こんな面倒な物、無い方がいいに決まってる」

「しかしその力のおかげで、あの娘との関係が知れたんじゃろう? 知らない方が良かったとお主は思うか?」


 痛い所を付かれて奏は苦虫を噛み潰したような顔をする。確かにこの力が無かったら彼女への想いを制御出来なかったかもしれないことを考えると、無い方がいいとは一概には言えなかった。


「あの娘は力を欲しておったからのう。お主の力を少し分けられればお主も負担が減ってお互いに良かったのじゃが」

「あいつに分けるぐらいなら、俺が全部持っていく」


 龍神の言葉を奏はぴしゃりとはねのけた。

 その言葉には一切の迷いは見えなかった。


「……世の中には、知らなくていいことの方が多いんだよ」


 吐き捨てるように続けた奏に龍神は目を細め、奏を見定めながら含み笑いを見せる。

 

「……ほう。やはりお主もあの娘同様自分の芯を持っておるようじゃな。流石きょうだいといったところか」

「うるせえ。俺は俺だ」

「なら尚更、お主の内なる音が何なのか、よーく考えるんじゃな。さすればあの娘の助けになるであろう」


 龍神の下の水が円を描くように渦をまく。

 それが沸き上がり龍神の身体を包み込むと、あっという間に姿を消した。

 ここからどうやって帰ればと奏が言おうとした時、奏の身体を旋風が取り囲んだ。



* * *



 龍神と出会った時の事を思い出した奏が、頭の中をどうにか動かしながら思考を巡らせる。

 しかし内なる音というのが何なのか、奏には未だ検討も付かない。


(……そういえば昔、似たようなことを言われたような…………)


 奏の脳裏に更に昔の記憶が呼び起こされた。



─────


 

『……を奏でる、か。良い名じゃねえか』


 遠い昔、奏と初めて会った修一が奏の名前を聞いた時、そう言っていた。

 

『かなでるってなに?』


 小学校に行き始めたばかりの幼い奏には、修一の言葉の意味が分からなかった。

 

『楽器を演奏……つまり音を鳴らすって意味だ』

『なんのがっき?』


 奏はじっと修一の顔を見る。

 しかしそれ以上のことは今の奏には読み取れなかった。


『いや……ただのひとりごとだ。何でもない』

『なんだよそれ、おじさんのいってることわかんない』


 口を尖らせながらそう言っても修一は何も答えず、少し微笑みながら彼の頭をくしゃりと撫でるだけだった。



─────

 


 ……なんだ、あの時何を奏でるって言っていた?

 もしかしたら、内なる音というのと関係があるかもしれないと、奏は必死で修一の言葉を思い出そうとする。

 そこまで考えた奏の脳裏にふと、とある言葉が蘇る。


『皆の中にもおるよ。皆ん中の、大切な人なんやね』


 ここに初めて来た時、空美が言っていたことだ。

 コアには大切な人の魂が宿ってる。

 空美が言わなくても、奏はその事を既に知っていた。

 そして奏の身近で魂だけの存在になった人は、彼の母親だった。

 

(内なる音……コアの中……)


 耳元でじわっと何かが溶けるような音がする。

 目線だけ横に向けると、奏の身体に張り付いて自由を奪っていた風船ガムのような粘りのある液体が何かによって溶かされ、徐々に手足がが自由になっていくのが分かった。


『木戸さんいけました! これなら出来ます!』

『よしっ! いいか奏良く聞け。美琴の下にある炎は残念ながらこっちからは消せねえ。あれを消すには大量の水が必要になるからだ』


 無線機から再び修一の手応えを感じた声が聞こえ始める。

 美琴が飛ばされた方に目線を向けると、彼女の上からパラパラと霧雨のような水が覆って彼女を守っていたのが分かった。水の出処は見えないがおそらく修一達が操作してるドローンの分身からだろう。しかしそれは涼を得るためのスプリンクラーのような物で、申し訳程度の水しか出ないそれで火種を完全に消すことは不可能だった。

 

『俺らが出来るのは現状維持だけだ。やっこさんに気付かれたら元も子もねえからな。だからまずお前を助ける。美琴はその後、お前が助けろ。すぐにだ!』


 修一が言い終わるや否や、リゼットがロリポップを担いで奏目掛けて弾丸のように突進してきた。ハンマーのように振りかざし奏に殴り掛かろうとした時、ようやく奏はある事を思い出した。


(母親(あの人)の名前はリン……鈴(すず)だ!)


 奏は刀を握り直し、自由になって腕を思い切り振り上げる。

 ロリポップと刀が強くぶつかり合った時、高い鈴の音が空間全体に響き渡った。


 甲高く澄んだ音が淀んだものを全て水のように洗い流していき、奏の頭の中がクリアになっていく。

 反対にリゼットが頭を抑えてよろよろと奏から離れていった。


「なに、これ……あたまいたい……っ」


 顔を歪ませながら奏を睨みつけるリゼットの背後から何かが飛んでくる。その弾道を読み取り奏が刀で迎え打つ。

 鉄球のようなラムネ菓子が刀で真っ二つにされ、更に鈴の音が響く。真っ二つにされたそれが更に細かい粒子に分裂し、それが刀に触れる度に鈴の音が重なっていく。


 それに気付いた奏は刀を構え直し、粒子が舞う自身の目の前を横薙ぎに払った。


 更に細かい無数の鈴の音が鳴り響く。

 それはまるで蝉が一斉に鳴き出したように頭に響いた。


《鈴時雨(すずしぐれ)》


 山の中で一斉に鳴き始めた蝉のように、鈴の音が重なり合い音波を生み出す。リゼットだけでなくルークと、いつの間にか元の体型に戻ったロストも頭を抱えてその場から動けないようだった。

 

 この隙を奏は見逃さず、美琴が捕らわれている鳥かごの上空に向かって刀を振った。鳥かごの上から雨が降り注ぎ、美琴の下で今も尚燃えている炎を消していく。

 美琴の周囲の煙が彼女から遠ざかっていき、未だ鳴り止まない鈴の音が響く中、美琴の目がうっすらと開いた。

お久しぶりです龍神様。

もう一度出す事が出来て良かったです。

貴方様のモデルにさせて頂いた神様の所にも久しぶりにご挨拶に行きたいのですが、如何せん京都は遠いです。

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