第二十八話【お菓子の森の双子と魔道士】(二)
「マスターおなかすいた? そしたらこれたべていいよ!」
リゼットが隣のロストに目を配りながら近くの木に手を伸ばす。その木になってるきのみを手に取り一口齧ると、手から赤いパッケージに入った袋状のお菓子を生み出した。
袋を開けて飛び出したそれをロストが体内に取り込むと、ロストが口のある部分から赤い炎を吐き出した。
危ないと二人は避ける。奏が刀を天に振ると雨が降り、雨粒がロスト目掛けて落ちていく。
「こっちもおいしいからたくさんたべていいよ!」
続いてルークがリボルバーをロストに向かって撃つと中からラムネのようなタブレット菓子が弾となり発射されてロストに吸収される。
奏が降らせた雨がロストに当たる直前に凍り、雨粒が鋭利な氷へ変化した。そしてそれがロストの放った吹雪に乗って軌道を変え、二人に襲いかかった。
咄嗟に美琴が鉄扇を仰ぎ風で方向を変えると、それは少し逸れてぐさりと地面に突き刺さった。
「あの子達がロストに与えた物で、ロストの攻撃が変わるってことかしら?」
「ああ、こっちの攻撃が当たる直前にああも簡単に属性を変えられたら厄介だな」
おそらく美琴が風を放てば威力が増す炎の攻撃をしてくるだろう。それを水で相殺しようとすれば凍らせて攻撃が届かないようにしてくるらしい。
どうやって攻撃を当てるかが今の二人の課題だった。
その後もルークとリゼットは交互にロストに与え続ける。ルークがラムネ菓子のような物を与えれば氷属性の攻撃が、リゼットが赤いポテトチップスのような物を与えれば炎属性の攻撃が二人に襲いかかってきた。
「ねえ……なんかあのロスト、さっきより大きくなってない?」
何回目かの炎の玉を避け汗だくになった美琴が、荒い呼吸をしながら口を開く。
よくよくロストを見てみると、その姿は最初に見た時より大きく、そしてボールのように丸みを帯び始めていた。
風船のように膨らんだロストがぽてぽてと前に出て懐から杖を取り出すと、先端から炎でも氷でもない丸い球体が生み出される。
それを二人に目掛けて放つが、美琴が反射で鉄扇を振り生み出した燕で壊す。弾けて中身が飛散するが、燕は形状を崩さずそのまま一直線にロストに向かい、燕がその胴体に刺さった。
次の瞬間、ロストの胴体が弾け得体の知れない中身が飛び散る。その威力は凄まじく離れた二人にも降り掛かり、咄嗟に二人は己の武器で庇って当たらないように後退して避けた。
粘り気のある液体が刀と鉄扇に付着する。それを払おうと奏が刀を振るが、その液体が刀身から離れることは無かった。奏は苛立ちながら今度はロストに追時雨を放とうと刀を振るが、刀身からは何も発せられることは無く沈黙したままだった。
「くそっ、なんだこれ!?」
「やだ私のも、ギアが手にくっ付いて離れない!」
『ガッ……ガガ……木戸さん駄目です! ドローンの一部が機能しません!』
『くそっ! 避けられなかったか。至急これの成分分析しろ! お前ら、すまねえが解析終わるまで切り抜けてくれ!』
修一の切羽詰まった声に美琴は心がざわつき、ざらりとした感触が蝕んでいく。ここまで余裕の無い修一の声を聞いたのは、美琴と奏が初めてロストに襲われた時以来かもしれない。
「やったー! ラッキーチャンス!」
リゼットがここぞとばかりに動揺した美琴にロリポップで殴り掛かる。
身動きが取れなかった美琴の前に奏が飛び出し、彼女の代わりにリゼットの攻撃を受ける。リゼットの細い腕からは想像がつかない重量が刀を通じて奏に重くのしかかった。
「奏!?」
体勢が整ってなかったのもあり、奏はリゼットに押し負け石畳のそばにあった生垣に叩きつけられる。生垣も木と同様抹茶で出来ていたのか粉が舞い、それが口に入りむせ込む。咳き込みながらも奏が起き上がろうとするが、背中が何かにへばりついたように彼の身体は動かなかった。
「な……んだよこれ……!?」
奏の後頭部、腕、足の一部が粘着質のような物がくっ付いて石畳から離れない。まるで粘り気のある風船ガムがくっ付いて離れない様だった。
「すごいリゼット! ぼくもまけてらんない!」
「ちょっと奏どうしたの!? 何があったの!?」
奏に気を取られた美琴に、ルークのリボルバーから放たれたタブレットラムネの弾丸が襲いかかる。先程よりも大きな弾が銃口から発せられ、鉄球のようなラムネ菓子が美琴目掛けて飛んでくる。
避けることが出来ず真正面からそれを受けた美琴が、木の幹にかすりながら吹き飛ばされた。
勢いよく飛ばされた美琴は、鉄の格子で囲われた場所に叩きつけられる。鳥かごのようなそれに美琴が入った瞬間格子戸が落ち、美琴はその中に閉じ込められた。
「っ……!?」
よろよろと美琴が身体を起こそうとして、左腕に激痛が走る。肩に目を向けると破れた袖から血が滲み出ていた。
木の幹に当たった際に引っ掛けたのだろうか。丈夫が売りのDSI特製のジャケットの袖が歪な形で裂けていた。
「よーし! やっちゃえマスター!」
間髪を入れずリゼットが赤いポテトチップスをロストに振りかけてすぐ、ロストが火を放つ。美琴の下にある木にそれが当たり、みるみるうちに木が炎に包み込まれていった。
(熱い……息が、出来な……っ!)
黒い煙が美琴を包み、周りの酸素を奪いながら燃えていく。げほげほと美琴は咳き込むが、段々意識が遠く離れていった。
「みこっ……げほ、ごほ……おき、ろ、目を覚ま……っ!」
奏が叫ぼうとするが喉に張り付いた抹茶の粉が邪魔をしてそれは叶わず、その間にも炎は激しく燃え、か細い声はかき消されていった。
(くそっ……どうにかして美琴を起こさねえと……!)
意識があればまだ助かる道はある。美琴の意識を取り戻すことで奏の頭が埋め尽くされたその時だった。
『内なる音を響かせろ。さすればお主は強くなる』
奏の脳内で、偉そうな声が響く。
それは奏の力の源である、龍神の声だった。
魔法バトルは無から攻撃出来るのが利点ですが、その中にあるリアリティを潰さずに説明するのが難しいですね。
推敲した時書いた内容忘れててこんな話だったかと他人事みたいな気持ちになりました。




