第二十七話【斉天の少女は日陰を照らす】(三)
突如脳内に流れた映像を全て見た和真は、その場に手を着き膝から崩れ落ちる。青ざめた表情でもう片方の手で口を抑え、吐き気を必死で抑える。そんな和真にしらけた目を向け見下ろす女性がそこにはいた。
「へー、男でもそんな反応するんだ」
どこか突き放したような、冷めた口調で話す女性からは、スカーレットが見せた妖艶な声や雰囲気は感じられない。心から笑えば通行人が何人か振り返りそうな美貌の女性が、蔑んだ目を和真に向けていた。
「……辛かったなとか、怖かったなとか、そんなこと口が裂けても言えないな。そんな言葉で片付けていい事じゃない」
胸を押さえ顔を歪ませながら和真がそう口にすると、女性がちょっとだけ目を見開く。
「ふーん、そういう男もいるんだ。男って皆獰猛で、自分の事しか考えてないクソみたいな生き物だと思ってたけど、あんたは違うんだね」
珍しい物を見たような女性の目には、諦めの他に少しだけ驚きが見て取れる。そして徐々に薄くなる女性に和真は向き合い、静かに見つめ返した。
「世の中の男が皆、あんな獣みたいな奴ばかりな訳ないって言いたい所だが……男の俺が今のあんたに言っても、説得力無いよな」
「そうね。そんな綺麗事並べられたら反吐が出るわ。でも……」
和真も強くは言わずどこか諦めたような口調になるが、女性がそこまで気分を害した様子はない。淡い小さな光を放ちながら、女性の身体は徐々に光に包まれ薄くなっていく。
「あんたみたいな男が一人でもいたら、あたしも、少しは違ったのかもしれないわね……」
それはどこか、女性が少しだけ持っていた希望のような物だった。しかしその希望が女性に生前微笑むことはついぞ来なかった。悪いのは女性か、周りの人間か、環境なのか。その答えを知るものは誰一人としていない。
女性の姿が消えると辺りが黒いモヤに包まれ、森の幻影が消える。気が付くとそこはとある一室の無機質な部屋だった。
複数の足音が向かって来るのが聞こえてきて、勢いよくドアが開かれる。電気の付いてない薄暗い部屋に、懐中電灯の光が射し込んだ。
「和真、空美、無事か! 急に消えてたお前達の発信機の反応が出たと思ったら俺達も入れて……」
慌てふためいた声で血相を変えて入ってきたのは才蔵だった。他の職員もわらわらと入ってくるが、和真は振り向こうとしなかった。
「和真、大丈夫か……?」
力無く項垂れる和真に駆け寄り彼の肩に手を置くと、和真は心ここに在らずのような表情で振り向いた。
「ああ、俺は大丈夫……その子、連れてって貰えるかな。空美は……ごめん。俺が連れてく」
少し離れた所で気を失って横たわっているロストファクターの少年を指差し才蔵達に連れてくように言うと、和真は立ち上がりその近くで眠ったように気を失ってる空美を抱き上げる。
才蔵がまだ空美を戦わせるのかと和真の腕を掴むが、和真は振り払いまではしないものの空美を手放そうとはしなかった。
「もしかしたらまた起きるかもしれないから……その時戦えなかったら、空美絶対後悔するから……」
「っ……分かった。お前も無理はするなよ」
「分かってる……」
和真の揺るがない覚悟が伝わったのか、才蔵は和真から手を離す。
そのまま和真は部屋を出て廊下を歩き始めた。しかし力無く歩を進めるその背中を見て、才蔵は苦悩の表情を見せる。
「和真!」
才蔵の呼び止めに反応して、和真の足が止まる。彼の背中に才蔵が一瞬悩むように声を詰まらせながらも言葉をかけた。
「空美を頼む……俺の大事な後輩の、大切な忘れ形見なんだ……」
和真は振り返り、才蔵に向けて口角を上げる。言葉には出さないが、任せとけと言っている様だった。
才蔵達と別れ、和真は空美を連れて明日香達の気配を探して歩き出す。
「……くうが気を失ってたのは不幸中の幸いだったな。俺だけで良かった。あんなの、見ない方が良いに決まってるからな…………」
和真はぎりっと歯をかみ締め、空美を抱える手に力が入った。
和真と空美パートはここで一度終了です。
次からは別チームに視点が移ります。
……こういうの、群像劇って言うんですかね?




