第二十七話【斉天の少女は日陰を照らす】(二)
めちゃくちゃぼかしたつもりですが、性加害の描写が入ってます。
特に女性はご注意下さい。
これに伴い今回からセンシティブ設定を付け加えさせて頂きます。
彼女の容姿はそれなりに良かった。
一度だけだが都心の繁華街を歩いていた時、モデル事務所のスカウトマンに声をかけられたことがある。
顔の造形が整っていれば見る物も良い気分になるのかまでは分からないが、少なくともそのおかげで子どもの頃から彼女の周りには人が集まっていた。
しかし徐々に大人に近付くに連れて彼女の周りには男が集まっていき、反対に女は遠ざかり、ひがまれていった。
ある日男の教師に呼び出され、彼女は人気のない教室の一角に連れていかれた。その時のことはあまり鮮明に覚えてはいない。思い出そうとすると吐き気が込み上げてくる。
母にも言えなかった。母子家庭で経済的に余裕がなく、仕事ばかりしてた母は彼女に見向きもしなかったので、彼女の僅かな変化にも気付くことは無かった。
もっとも気付いた所で若い女に誑かされて姿を消した父親を思い出し、母は彼女をその若い女に重ねて嫌悪感を抱くかもしれない。それを考えたら母は知らない方が平和だろうと、彼女は伝えるのをやめた。
それから彼女は変わった。
身なりが少しずつ派手になっていき、異性との付き合い方が奔放になっていった。次第に彼女からは見た目の派手さとは別に女性特有の色気も出るようになっていき、交友関係も変わっていった。
彼女が変わった理由は定かではないが、男の教師に呼び出されたあの日に彼女の中の大切な何かが壊されてしまったのかもしれない。まるであの日に負った傷を目立たなく、見て見ぬふりをする様に、彼女は色んな男に関わって行った。
成長するにつれて無意識に父の影を探すようになった彼女は、夜な夜な繁華街の裏路地をたむろしては知らない歳上の男と出会うようになった。父親に対して嫌悪感を抱いていたはずなのに、それでも父性というものを無意識に求めていたのだと思う。
自身の大切な物と引き換えに彼女は、いっときの欲を満たす物と、虚しさを手に入れた。
その日も彼女はいつものように繁華街をウロウロしていた。そして支払いを弾ませるという甘い言葉に乗った彼女は、いつものように知らない男について行った。
薄暗い蛍光灯がチカチカ光る雑居ビルの一室に来た彼女を待っていたのは複数の人物だった。それまで麻痺していた恐怖心が湧き上がったが時すでに遅く、彼女は意識が遠のいて行った。
その後の事は曖昧で、狼のような獰猛な何かが見え恐怖と絶望に飲み込まれた彼女の記憶はそこで途切れた。
気が付くと、彼女は部屋の中心に立っていた。
足元を見ると女性の身体が横たわっている。
その身体はまるで、赤い服を身にまとった童話の主人公みたいに赤かった。
翌朝、見回りに来た警察官が雑居ビルに入り、一人の若い女性の遺体を見つけた。
ふわふわと浮遊していた彼女の前に、一人の少女が立ちはだかる。
「随分と色んなことがあったのね。貴女に必要なのは、この心かしら?」
ゴシック調の黒いドレスに身を包んだ少女の手から薄暗い光に包まれた何かが生まれ、彼女の胸の中に入っていく。
『お母さんが怒るのは僕の為だ』
『お母さんが叩くのは僕の為だ』
『だからお母さんのことを嫌いになったら駄目だ』
『お母さんが嫌いと思う心は僕の物じゃないからいらない!』
見知らぬ少年の他者を嫌う憎悪が、彼女の中に溶け込むように入ってくる。その心はほのかに温かく、とても居心地が良かった。
ああそうか。私は本当は、男が嫌いだったんだ。
女というだけで、顔が良いだけで群がってくる男が嫌いだったんだ。
もし私が男なら、顔が醜ければ、あの時あんな事にならなかったのかもしれない。
彼女の身体が黒い物で包まれる。次第にそれが晴れていき、彼女の顔にはそばかすと、彼女の造形に不似合いな眼鏡がかけられていた。
少女は彼女の姿を見て、にやりと笑った。
ここで終わらすのは後味が悪いので、続きを21時にあげます。




