第二十五話【魔女の猟犬】(二)
五体の狼にぐるりと囲まれた空美は周囲を確認する。思ったより激しく暴れた結果和真から離れてしまったようだ。いつもだったら怖くて震える所だが今回は違う。少し離れても同じ場所に居ることに変わりなかったからだ。
「雷撃が効かないんやったらこれならどうや!」
如意棒の先端を地面に刺し握る手に力を込める。
空美の上空に雲が集まり暗い森が更に薄暗くなった。
狼が一匹跳躍した刹那、周囲に稲妻が落ちる。それが周辺の木に当たり火花が散ったかと思うとそこから赤い炎が燃え上がった。
炎はあっという間に広がり狼達を飲み込んでいく。即座に空美は如意棒を伸ばし空中に逃げ、雷が落ちなかった木に飛び移り炎の海から逃げた。
「やっぱり所詮は紙やから火には弱いんやな。杏さんのギアやったらこんなのパパっと片付けられるんやろうけど……」
燃え広がる炎からパチパチと聞こえてくる火花の音を聴きながら空美が呟く。
炎を出すことが出来るバズーカを使いこなす杏が少しだけ恋しくなるが、今はそんな事を言ってる場合じゃない。自分達で何とかしなければならないのは空美も重々承知していた。
「……ここにいたら危ないな。早く和真に合流せな」
空美は木から木へ飛び移り、和真を探しに森の奥へ入っていった。
* * *
的確に和真の居場所を探ってくる狼から距離を取り、和真は苛立ちの声をあげた。
「こいつらを撒かないとくうを探しに行けねえ! くう! どこにいる!?」
和真が叫んだその時、狼が和真の頭上の明後日の方向に跳躍する。無線機から機械音の混ざった雑音が聞こえてきた。
『すまない和真、何故か知らんがロストがドローンに狙いを定めている。まるでこちらの場所が知られてるみたいだ』
「くそっ! これじゃ明日香と誠司の二の舞じゃねえか!?」
狼に気付かれるのを気にせずわざと大声で独り言を言ったのは、支部長達にドローンを使って空美の居場所を探してもらう為だった。しかしどうやらステルス機能があるにも関わらずドローンも気付かぬ間に和真と同じ状況になっていたようだ。
連絡が途絶えないだけ二人が初めてシェイドと戦った時よりマシだろうが、状況は刻一刻と悪くなっていくのに変わりなかった。
『気休めかもしれませんが、靴の側面のダイヤルを右に回せば足音が少し小さくなります。その分浮力が上がるので不安定になるかもしれないのですが……』
職員の妥協案に乗り、和真は踵にある小さなダイヤルをカチカチと慎重に回す。それぞれのセイバーに合わせて調節されてるので下手に動かせば動きにくくなるかもしれないが、背に腹はかえられないので仕方ない。
足元が不自然に浮き上がるのを自重で抑えながら和真が丁度いいダイヤルに調節していたその時だった。
「和真! そこにおったんか!」
和真が顔をあげると少し離れた所に空美がいた。どうやら襲ってきた狼は全て倒したらしい。声をかけようとしたその時、和真の脳内にスカーレットが話しかけてきた。
『そういえば、狼の口が大きいのはなんでだと思う?』
狼の目と耳が大きいのはよく見てよく聞く為。
では、口は──。
とある童話の一節を思い出したその時、和真の頭上から狼が飛び出して跳躍した。そのまま空美に襲いかかろうとする狼を見て和真は血相を変える。
「くうううううう!!!」
和真は全力で走り、戸惑って足がすくんでる空美の元へ駆け出した。走りながら和真の脳裏には、遠い昔の忘れられない記憶が蘇った。
スカーレットの能力はディオと被らせる予定は無かったのですが、彼女のモチーフとなった童話のフレーズを入れた結果こうなりました。
あっちは元々の能力、こっちは魔法ブーストでかかった能力で完全別物ということで押し切ります。
……良いですよね、趣味で書いてるんだし。




