第二十四話【僧の威を借る行者】(二)
「そんな条件飲むわけがねえ。明日香は俺の相棒だ」
リリカの理不尽な要望を跳ね除け誠司が反論すると、リリカの白いケープと白くて長いスカートがふわりと舞った。
「そうですか、それでは……力ずくで奪わせてもらいます」
冷たい声に緊張の糸が走る。
そしてロストファクター達が明日香達の前に出たその時だった。
「マスター、お時間です」
「マスター、お願いします」
「「やっちゃってマスター!」」
「マスター、やっちゃいなさい」
各場所に散らばっているシェイドたちがほぼ同時に声を揃える。直後、ロストファクターの手のひらが黒いモヤで覆われる。モヤが晴れた時、それぞれの手のひらには黒い棘が握られていた。
杏がバズーカを放ったが遅かった。ロストファクターは無表情で自身の胸にそれを刺し、黒い煙に姿を隠す。杏の放った炎はそれにより阻まれた。
視界が晴れた時、明日香たちの前には歪な怪物が、ロストが殺意のこもった目で睨みつけていた。
「くそっ……」
「そんな……」
杏が苦虫を噛み潰したような表情でロストを睨み、明日香は言葉を失う。
「人の心無いのはどっちだよ……」
誰かの言葉を真似したような誠司の呟きが、吐き捨てるように消えていった。
* * *
「ロストファクターをロストにするなんて……」
「……いつもと同じだ。逆に手間が省けた」
美琴も言葉を失うが、奏の通常運転とも言える淡々とした言葉に若干眉を寄せる。何か言いたげな表情の美琴を横目で一瞥し、刀を構え直した。
「子どもを庇ってあいつらと戦うなんて俺らには無理だ。ロストになった方が戦いやすい」
「……奏はあの子がロストになって良かったと思ってるの?」
「他人をロストに出来るぐらい心がすり減ってたんだ。遅かれ早かれああなってた可能性は高い」
正論すぎる奏の指摘に美琴は口を閉ざす。ロストになった方が良いとは思わないが、自分達のこの武器はロストを人間に戻すための物だ。ロストファクターを助ける方法は分からないが、ロストを助ける方法なら分かる。
「さっさと助けて、あいつらを倒すぞ」
奏の言葉に美琴が首を縦に振り、短く切り揃えた毛先がふわりと舞った。
もう一度自身の扇を構え直し、目の前のロストと、その後ろで嘲笑いを浮かべるルークとリゼットを睨みつけた。
* * *
『ロストのエネルギー反応を確認。数値は……なんだこれ、こんなの見た事ないです』
『すまない。こちらから観測不可能だ。出来るだけサポートするが状況を見て判断してくれ』
無線機から聞こえてきた才蔵の苦悩の声を黙って聞いた後、和真は口を開く。
「……くう、気を付けろ。このロスト、今まで見てきたロストよりも遥かに強いぞ」
「分かっとるで和真。これは武者震いや……」
和真の隣に立つ空美の、如意棒を持つ手が小刻みに震え出す。それを見たスカーレットが馬鹿にしたような高笑いをあげた。
「強がっちゃって可愛いわねえ。怖いなら怖いって素直にそう言えば」
「うっさいわおばはん!」
スカーレットの言葉を空美の怒号が遮った。
おばはんと言う単語が聞き捨てならなかったスカーレットの、そばかすが広がる潰れた鼻先がヒクヒク動く。こめかみもピクピク動き、次第に青筋が入っていった。
瓶底眼鏡から覗く細い目の目尻が吊り上がる。
「だあれがおばさんですってえ……!? あたしにはアリダ様から貰ったスカーレットって素敵な名前が」
「おばはんはおばはんや! あんたみたいなんを年増って言うんやろ……っで!?」
スカーレットを指さして空美が更に怒号を重ねた時、和真が呆れた顔で槍の持ち手部分を動かし空美の後頭部を後ろから軽く叩いた。
空美が後頭部に手を当て和真を睨みつけるが、和真は表情を崩さない。
「なにすんねん和真!?」
「お前またテレビで変な言葉覚えたな。いくら本当のことでも言っていいことと悪いことがある」
「あんたも一言多いのよ!?」
和真の冷静なツッコミにスカーレットが反論する。空美が一度深呼吸をしてロストとスカーレットをしっかりと見つめた。
「……確かにうちは、あの時も怖うて震えとって、あんたらの前で何もできへんかった。……けど今は違う。うちと和真が組めば、鬼に金棒なんや!」
くるくると如意棒を回して構え直し、先端をスカーレットに向けながら空美が叫ぶ。和真がそばに居るという安心感が、空美の気持ちを強くしていた。
「うちと和真でその子を助けて、あんたを倒したる!」
シェイドの展開した結界の各場所で、戦いの火蓋が切って落とされた。
創作初心者は群像劇をやるなって意見がありますけど、この展開って群像劇なんですかね?
群像劇が書きたくて書いた訳じゃなくて必要だからこの展開になっただけですが……




