第二十二話【夢を叶えたその先は】(一)
事後ですが自殺描写があります。
苦手な方はご注意下さい。
「はい、お誕生日おめでとう」
華やかな飾り付けがされた室内のテーブルには、色とりどりの料理と鮮やかな赤い苺が乗ったホールケーキが並んでいる。
その中でにこにことあどけない顔で笑っている少年の前に、優しそうな男性が差し出したのはギターだった。
少年は音楽家系の家で生まれ育った。音楽が日常にあるのが当たり前の生活で、少年はギターを手に入れたことで家族の一員になれた気がした。
父親からギターを教わり、飲み込みの早かった少年は上達が早かった。流行りの曲もあっという間に弾けるようになった。
両親がほんの出来心でその様子を動画に撮りネットにあげてみた所、瞬く間に再生回数が増え、少年は一気に世間の注目の的になった。
天才のギター少年。世間はそう言って少年を持て囃した。
誰もが彼のギターの才能に目を向けた。
両親も、学校の友人や教師も、皆彼のギターの“才能”を褒めた。
しかしそんな生活も長くは続かなかった。
成長するにつれて、少年から青年になった彼のギターを弾いてる動画の再生数は少なくなっていった。
高校生にもなると、同年代の他の青年がギターを弾いてる動画もそれなりに増えてくる。彼のギターを弾いてる動画は、その増えてきた動画の中に埋もれて行った。
成長するにつれて彼のギターの才能は天才ではなく、普通になっていったのだ。
天才から凡人になった彼は過去の栄光に縋り、両親のコネで音楽関係の仕事についたが結果は普通だった。彼のギターの才能はありふれた物だったので、世間が目を見張って注目する物では無かった。
ある時彼の新作動画にタグが付いたと通知が入った。
確認してみると、『賞味期限の切れた元天才』というタグが付いていた。
関連動画に別の人がギターを弾いてる動画があった。思わずクリックして再生してみると、彼よりも上手なギターを弾いてる中学生の男子の姿があった。
その動画のタグに付いてるのは『ギターの魔術師』という物だった。彼の動画に付いたタグとは天と地ほどの差があった。
まるで世間に自分は必要ないと言われている様だった。
成長して、歳をとって、才能が無くなったから、自分は世間に捨てられたのだ。
そう思った彼は絶望し、深夜の生配信で初めて動画を上げた時の、当時の流行りの曲を生演奏した。
深夜ということもあって聞いてる人はほんのひと握りだった。それでも彼は配信をやめなかった。
そして弾き終わった時そのまま別れの挨拶をし、配信が終わった。
翌朝とある音楽家の家で男性の遺体が見つかった。
彼のそばには、大量の風邪薬が散らばっていたという。
「……あら、貴方こんな所で何をしているの?」
ふわふわと彷徨っていた彼の前に現れたのは、ゴシック調の黒いワンピースに身を包んだ一人の少女だった。
「貴方に必要なのは……この心かしら?」
少女が手のひらを彼の前に出すと、仄暗い丸い光が現れ彼の胸に吸い込まれて行った。
『お父さんが好き。お母さんも好き。でもお母さんはお父さんのことがきらいになっちゃった』
『お父さんに会えないのは悲しい。でもお母さんにきらわれたくない』
『それなら、お父さんのことが好きじゃなくなれば良いんだ』
『お父さんが好きって気持ちがあるから、こんなに苦しいんだ』
『それなら、こんな心はいらない!』
どこかの誰かが、何かを好きでいる心だった。
彼にはその心が、何故か心地良く感じていた。
「これで貴方も私とお揃いね。私はアリダ。貴方の名前は?」
中折れハットを被った彼は、自分の名を唱えた。
ネットでギターを弾いている動画をあげていた、かつて少年だった頃から名乗っていた名前だった。




