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SAVERS ―絶望の怪物と戦って助ける少年少女たち―  作者: 春坂 雪翔


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第二十二話【夢を叶えたその先は】(二)

 徐々に光が弱まっていく。

 明日香と誠司が呆然としていると、正面に身体の透けた青年が立っていた。


 ディオが被っていた中折れハットは被っておらず髪色もディオの時とは違い上部分が黒髪のプリンで、服装も上下同じグレーのスウェット姿のその青年は、二人が光の中で見たギターを弾いていた少年と同じ面影があった。

 

「はっ……なんだその目は。さっきと全然違うじゃねえか」


 ディオと同じ口調で話す青年が、自嘲気味に笑う。明日香がゆっくりと立ち上がり誠司から離れると、青年と向かい合うように立った。

 

「貴方は、音楽が好きだったんだね」


 先程まで命の取り合いをしてたとは思えないくらい、明日香の表情は柔らかく穏やかだった。


「絶望して死んで、ロストファクター(紅葉ちゃん)が手放した心と融合して実体を手に入れてもギターを弾いてるって事は、それだけ音楽の事が好きだったんだね」


 青年が眉を寄せて複雑な表情を浮かべる。

 分かったような口ぶりで話す明日香の言葉が居心地悪そうだった。

 

「でも、貴方の周りの人は、貴方の音楽の好きには気付いてくれなかった。それでいつの間にか貴方も、その気持ちを忘れてしまった。だからあの子の父親が好きって心と惹かれあったんだね」

「なんだよ……分かったような事言いやがって。同情でもしてんのか?」


 軽い口調で明日香を挑発するが、それに覇気は感じられない。明日香は青年の問いには答えず、真っ直ぐ青年を見つめた。

 

「今度は、貴方の好きに気付いてくれる人がいるといいね」


 青年の身体が次第に薄くなっていく。他意が感じられない明日香の真っ直ぐな言葉が、青年の心に引っかかっていたものを取り除いたかのようだった。

 

「……んだよ。調子狂うじゃねえか。これだからガキは……」


 少し驚いた顔をした青年の言葉が最後まで紡がれることはなく、青年が静かな空気の中消えて行った。残されたのは明日香と誠司、そして少し離れた所にいる紅葉だけだった。

 

「明日香……」


 明日香が振り返ると、複雑な表情をした誠司が地面に膝を着いたまま、明日香を見上げていた。


「なに?」

「俺やっぱり、お前のこと分かんねえや……あんなことしてきた相手に、普通そんな声掛け出来ないぜ?」


 怪訝な顔でそう言った誠司を見て、明日香は「だって……」とその問いに答える。

 

「紅葉ちゃんを人質にして、危害を加えたあいつは、私達二人で倒したでしょ。……あの人は、私達に攻撃してきたあいつじゃない」


 要するに罪を憎んで人を憎まずという事なのだろうか。

 明日香が青年のいた場所に目を向ける。

 ディオの胸の核の欠片には彼の生前の記憶が宿っていたのだろう。青年が生前苦しみながら生きてきたというのは理解出来たが、だからといって彼が明日香達に危害を加えた事実は消えない。


 何の恨みもなく敵だった者にあのような声掛けが出来るほど、誠司は大人では無い。もっともそこまで出来た人間もそういないだろう。明日香が大人過ぎるのだ。


 彼女の手放した心の一部がまだアリダの中にあるのが、彼女をここまで聖人の様な振る舞いをさせている原因なのだろうか。辻褄は合うが確証は無く、誠司は憶測でしか知る余地が無かった。


 ふと、耳に付けた無線から砂嵐のような音が聞こえてきた。


『……ザザッ、誠司! 明日香! どこにいるんだ!? 聞こえたら返事してくれ!』


 章吾の声だ。誠司が無線に向かって目印になりそうな物等を伝えると、遠くから複数人職員たちがこちらに向かってきているのが見え、何人かが少し離れた所にいる紅葉をタンカーに乗せていた。

 ディオが消滅した事により結界が消えたのだろう。ようやく戦いか終わったのだ。


 ふっと明日香の身体が糸の切れた操り人形の様に膝から崩れ落ちる。腕に力を入れて身体を支える明日香の額には脂汗が滲んでいた。


「おい、大丈夫か!?」

「……ごめん、ちょっと力が抜けちゃって……そういえばコア、落としたままだった……」


 誠司が勢いよく立ち上がり明日香に駆け寄ろうとして、しかし明日香が左手首のバンドにもう片方の手を添えながら不安そうに辺りを見回す。視界の隅で何かが光り誠司はそちらに目を向けると、少し離れた所でキラリと光る透明な玉があった。


 誠司が足早にそれを拾いあげて渡すと、明日香が静かにありがとうとお礼を言いバンドに自身のコアである水晶をはめる。それを確認した誠司は、彼女の腕を半ば強引に引いて彼女の華奢な身体を自身の背中に滑り込ませた。


「え、ちょっと」

「こういう時ぐらい頼れ」

「でも……」


 誠司だって無傷ではない。

 そう言いかけた明日香を無視して誠司が彼女をおぶり立ち上がると、一人のDSIの職員が二人のそばに駆け寄ってきた。


「遅くなってすまない。君も怪我をしてるだろう。あとは私達が」

「いや、いいよこれぐらい。それより瓦礫の撤去をお願い。ちょっと派手にやらかしたから」


 誠司が苦笑いしながら職員を制止する。改めて辺りを見回すと思った以上にディオとの戦闘で激しく戦ったようで、あちこちにめくれ上がった石畳やコンクリートの壁などが散乱していた。

 せめて歩きやすいようにと二人を先導するように職員が案内を始めたので誠司はその後に続いた。


「……どうしてあいつに、ロストファクターに俺達の武器が効かないって分かったんだ?」


 歩きながら誠司は少し引っかかっていた疑問を明日香に問いかける。ぎこちなく誠司に身を預ける明日香が少し身体をあげ、不思議そうに誠司を見た。

 

「だって、私には効かなかったじゃない」

「……?」


 それは明日香がセイバーだからだろう。

 誠司がそう答える前に明日香が再び口を開く。

 

「誠司と初めて会った時、誠司を庇って私、ロストに噛み付かれたでしょ。その時私からロストを剥がそうと誠司が銃を放って……。あの時私は、誠司の銃で怪我はしなかったから。ロストファクターの私が大丈夫だったなら、他の子も大丈夫だと思っただけ」


 誠司はハッとした。

 明日香との出会いはロストの騒動がきっかけだった。

 あの時は明日香はまだセイバーでは無かったが、明日香がロストを生み出したアリダの根源だとすれば明日香はその時からロストファクターだったということである。

 自分がロストファクターであるということと、状況を冷静に分析した結果あの行動に踏み切れたのだ。

 

「なるほどな。あとお前、笑うの下手すぎだろ。合図とはいえ、沙夜の方がもう少し上手く笑えるんじゃねえか?」

「え、そんなに? 確かにあの時は必死で大声出さなきゃって思ってたけど──」


 明日香が首を傾げたその時、明日香の胸がどくんと強く跳ね上がる。何かが来る。得体のしれない違和感が明日香にじわりとまとわりついた。


 誠司が明日香の違和感に気付いたのと、明日香が誠司の背中から転がるように落ちて誠司の背中を突き飛ばしたのはほぼ同時だった。


 体勢を崩した誠司が前にいた職員に前のめりにぶつかって倒れる。

 地面に手を付いた誠司と職員が驚いて後ろを振り向いた時には、明日香を中心に赤黒い魔法陣が浮かび上がり彼女を取り囲んでいた。


 刹那、魔法陣から太いつるが生える。

 無数の刺があるそれらが倒れた明日香の足に、身体に巻き付き始めた。


 明日香の異変に気付いた他の職員もこちらに走ってくるが、つるが近付くなと言わんばかりに魔法陣の外に向かって攻撃してくる。

 明日香も必死でつるから逃れようともがくが、どんどん中に飲み込まれていく。

 

「せ……誠司……っ!」


 どうにかしてつるの隙間から腕を出し明日香が誠司に向かって伸ばす。誠司も襲いかかってくるつるの棘で傷が増えるのも気にせず、明日香を飲み込もうとするその中から引っ張りだそうと手を伸ばした。

 

「明日香ああああああああっ!!!」


 あと少しで明日香の指に手が届くという時に、つるが完全に明日香を覆い隠す。そして突然石化した様に硬い石になり、ぴきぴきとヒビが入ったそれが一斉に砕けて──


 砕けたつるの中に明日香はいなかった。

 まるで最初からそこにいなかったように、跡形もなく誠司の前から姿を消した。

罪を憎んで人を憎まず、実行するのは難しいですよね。

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