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SAVERS ―絶望の怪物と戦って助ける少年少女たち―  作者: 春坂 雪翔


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第二十一話【極上の餌に食らいつく】(一)

 僅かな風の音が聞こえ始め、徐々に聴覚が戻ってきたのをディオは確信してニヤリと笑う。聴覚という武器を一時的にだが封じ込め、明日香と誠司にとってはこの上ない最高の状態だったにも関わらず、二人がディオに奇襲をかけてくることはとうとうなかった。


「とりあえずマスターをここから出すかー! 俺の攻撃がちょっとぐらい当たっても仕方ねーよなあ!」


 甲高いギターの音が鳴り、白い煙のロバが現れ地面を強く踏み鳴らす。何度が地面を踏んで小さな地震がロバの中心から次第に大きくなっていくが、二人が驚いて出てくることは無い。


 重い地響きがある一点に向かって地面が盛り上がり、その一角にあった瓦礫に当たり宙に浮くが、そこには何も無かった。

 もう一度ディオがギターをかき鳴らすと、今度は白い煙の猫が現れる。

 紅葉の味方であるはずのそれが腕を振り、爪の刃が彼女目掛けて飛んでいく。

 しかしそれが紅葉に届く前に、どこからか飛んできた無数の弾に当たり霧散した。

 

 弾は猫の攻撃を消し、そのままディオに向かっていくがそれは軽々と避けられる。

 そして体勢を整えた後、紅葉を庇うようにガンブレードを構え立ちはだかった誠司を見て口角を上げた。

 誠司の放った弾が後方の壁にスライムのようにへばりついているのを見て、ディオはニヒルな笑みを浮かべる。


「やっと出てきたか。さっきはよくもやってくれたな」


 余裕そうに振る舞うディオに誠司は眉間に皺を寄せた。

 紅葉のように拘束することは無理でも、腕と足どちらか片方ぐらいは封じたかったが、やはり人間の身体は身軽なのだろうか。ロストよりも動きが俊敏な為それは叶わなかった。


 誠司がガンブレードを横薙ぎに振るう。長大な刀身が空気を裂き、ディオへと迫った。

 ディオはギターを咄嗟に縦に構え、刃の軌道を受け止める。金属と金属がぶつかり合う甲高い音が辺りに響き、火花が散り、二人の間で弾けて消えた。


「そんな雑な攻撃が俺に届くわけねえだろ!」


 ディオがニヤリと笑いながら押し返すと同時に、ギターの先端に鎮座していた猫が腕を閃かせた。

 鋭い爪を振りかざし至近距離から攻撃をしようとするが誠司は咄嗟に後方に避ける。しかし頬に薄く赤い線が引かれ誠司が僅かに顔を歪めるが、再びガンブレードを振り上げた。


 余裕そうな笑みを浮かべ、ディオは弦に指を走らせる。甲高い音が弾けた瞬間、白い煙が膨れ上がり、ニワトリの形をした物体が再び姿を現した。

 翼が大きく広がり、雄叫びをあげようとした刹那、それは後方から光の矢によって貫かれた。


「なっ!」

「そっちこそ、攻撃が同じで芸がないんだよ!」


 誠司が引き金を引く。銃声と、ニワトリの破裂音が、ほとんど同時に重なり、白い羽が四方へ舞い散る。誠司の引いた弾はディオの胸ど真ん中に飛んで行った。

 貰った──。ディオは土煙に包まれ、誠司が勝利を確信した。しかしディオの身体は倒れない。土煙が収まった時、ディオの胸には白い猫が張り付き、煙の胴体で弾丸を受け止めていた。


「芸がないのはお前もだろ。馬鹿正直過ぎて音を聞くまでもないぜ」


 ディオは嘲笑いを浮かべ、反対に誠司の顔が歪んでいく。もう一度引き金を引こうとしたその時、誠司のギアから光が弾け、ガンブレードから静かに黒い玉へと戻っていった。


「なっ!? 嘘だろ……っ!」


 絶望の顔に染まった誠司の隙をディオは見逃さなかった。猫の爪の衝撃波が風となり、白い羽が誠司の身にまとわりつく。一つ一つは微弱な電流だったがそれらが合わさり、特大な電気に形を変え誠司に襲いかかった。


 バチバチと激しい電流の音と共に、誠司の苦痛に耐えきれない叫び声が周囲に響き渡る。それが誠司の身体を容赦なく攻撃して、誠司の身体がその場に倒れた。


 あさっての方向に身体ごと向けていたディオは、どさりと人間の身体が地に落ちた音を聞き口角を上げると、くるりと踵を返す。少し歩を進め立ち止まったその先にいたのは、白い煙の巨大な犬に地面に組み伏せられた明日香の姿だった。


「なんで……ここまで離れてれば、気付かないはず……」

「んなもんとっくに戻った聴覚で分かるに決まってんだろ。まあ、そんだけ殺気放ってりゃ聞こえなくても気付くけどな」


 ディオは馬鹿にしたように笑い、明日香が更に顔を歪ませる。必死に身体を起こそうとするが、犬の巨体が彼女を押さえ込みそれは叶わなかった。


「おおかた、嬢ちゃんが隙をついて坊主が俺にとどめを刺す作戦だったんだろ。違うか?」


 ディオは挑発するが、明日香は歯を食いしばるだけで反論をしない。もっとも苦しそうに息を吐く所を見ると、胴体を押さえ込まれて呼吸すら危ういのなら声を出すことが出来なくなってるのかもしれない。


「こんだけ離れていたんだから、坊主を餌にして嬢ちゃんがお得意の弓で俺を仕留めれば少しは勝算あったかもしれねえのに。やっぱり嬢ちゃん思ってたより馬鹿だなあ」


 ディオの挑発に乗らず、明日香が苦し紛れに弓を放とうと腕をもぞりと動かす。

 やっとの思いで弦に指をかけ引こうとしたその時、弓から光が弾け透明な玉に姿を変えた。


「そんな……っ」

 

 自身のギアがコアに戻ってしまい絶望に染まった明日香を見下ろしながら、ディオは口を三日月の形にしてギターを鳴らす。直後、犬から凄まじい威力の電気が放出され明日香に襲いかかった。


「あああああああああああ!!!!!」


 明日香の苦痛に耐えきれない、悲痛な叫び声が響く。

 常人が聞くに耐えないそれを聞きながら、ディオは笑みを崩さない。

 しばらくして電撃が止み、明日香の声も聞こえなくなり辺りは静寂に包まれた。


 煙に溶け込むように白い犬が消え、ディオはゆっくり明日香に近付きその場にしゃがみこむ。そして明日香の少し焦げた前髪を掴んで頭を持ち上げた。


「……っ」

「おーし生きてるな。死んだらアリダ様に怒られるとこだったぜ」


 明日香の身体は動く素振りを見せず、逃げようとしなかった。僅かに意識はあってもディオに抵抗することなくされるがままだった。

 

 ディオは笑いながら明日香の身体を軽々と担ぎ、肩に乗せて俵担ぎをしながら歩き出す。

 明日香の手からコアが離れ、カツンとコンクリートにぶつかる音を静かに立てながら落ちた。

 しかしディオはそれには目もくれず歩を進める。

 あと少しでこの空間から出る所まで歩いた時、担いだ明日香の身体が僅かに動いた。


「……ふふふ」


 担いだ身体が少し震え同時に小さな笑い声が聞こえ、ディオは歩を止める。

 この場に似つかわしくない声にディオは違和感を覚えた。

 刹那、


「あっはははははははははははは!!!!!」


 明日香が声高らかに笑い出した。

 ディオは眉を寄せ、後方の明日香に目を向ける。

 

「……何がおかしい」


 ディオは訝しみながら明日香に問いかけるが、明日香の笑い声は止まらない。

 異様な不気味さを覚えディオは眉間に皺を寄せると、明日香の笑い声はようやく止まった。


 うっそりとした声で、明日香は静かに口を開く。


「いいえ…………この時を待ってたの」


 刹那、ディオの胸に衝撃が走り、明日香の身体が飛ぶ。宙に浮き、少しだけ口角を上にあげた表情で地面に叩きつけられた。

 ディオは呆然として倒れ込む明日香を見届けた後、視線を下に向ける。自身の胸が何かによって貫かれている事をそこでようやく理解した。


「は……?」


 首だけ動かし後ろを見ると、肩で息をしている誠司が銃口をこちらに向けて構えている。銃口からは僅かに煙が視認出来、撃った直後なのは見るからに明らかだった。


「餌、は……誠司じゃ、ない……っ」


 がらりと瓦礫が崩れる音がして前を向くと、明日香が重い身体を起こそうと四苦八苦していた。

 力の入らない腕で身体を支えながら、目だけディオに向けて睨みつけている。


「この私よ……!」


 その声は小さくとも、しっかりと強さがあった。

こういう駆け引きの展開好きなのですが書くの難しいですね。独りよがりの文章になってないか不安です。

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