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SAVERS ―絶望の怪物と戦って助ける少年少女たち―  作者: 春坂 雪翔


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第二十話【諸刃の剣を使いこなして】(二)

 少し離れた瓦礫の影に、明日香と誠司は身体を縮めて隠れていた。二人の耳にはいつの間にか耳栓がハマっており、先程の爆撃から鼓膜を守っていた。


「ったく、やられたらやり返される覚悟を持てってんだ」


 誠司が明日香を頭の上から覆い被さるように抱え込み、自分と彼女の口元を手で塞ぎながら小さく呟く。

 自分達の耳が紅葉による奇襲で一時的に聞こえなくなった時よりも、さっきの爆発は数倍大きかった。ディオの苛立ってる様子から、先程の自分達と同じ状況になってる事は明らかである。


 どのくらいで聴覚が戻るかは分からないが、少しだけ時間が稼げそうだ。現にディオは誠司の今の呟きに気付いていない。

 

 対する明日香は、気が付いたら先程いた場所から離れた所に移動していることに頭を追い付かせるので精一杯だった。誠司のギアが見覚えのある銃に戻ってることから彼が何かしたのは明らかだったが、明日香には何が起きたのか分からなかった。胸の鼓動も鳴り止まず、身体の奥から響いてやかましかった。


 ふと左腕に鈍い痛みが走り明日香は顔を歪ませる。

 身の安全が確保された安心感からなのか、煙で出来た犬の牙が食いこんだ時の痛みが思い出したように明日香に振りかかってきた。

 痛みで身体をよじった明日香に気付いた誠司は咄嗟に手を離す。


「わりい、痛かったか?」


 明日香は素早く首を横に振った。

 これはディオが生み出した犬から受けた痛みで、誠司のせいでは無い。そう弁解したかったのに明日香の口から声が出なかった。


「あー! マスターなんだよこれ!? 思ったよりやべえもんで拘束されてんなあ。これ壊すのにマスターが無傷でいられるか分かんねえなあ!! 俺の声聞こえねーけど聞こえてるよなあ!!」


 ディオの怒鳴り声が周囲に響く。離れていても聞こえるその怒号に明日香の肩がビクリと跳ねた。誠司から離れ未だ収まらない心臓の鼓動が早鐘を打つ中そうっと瓦礫の外に目を向けると、誠司の拘束で身体を瓦礫に縫い付けられた紅葉のすぐ近くにディオがいた。


 視界が思ったより晴れるのが早かったから合流するのに支障は無かったらしい。舌打ちする誠司を他所に明日香が紅葉の元に駆け寄ろうと身体を動かしたが、誠司がそれを阻止した。

 

「駄目だ、今は動くな」

「でもこのままじゃ紅葉ちゃんが」


 誠司から逃れようと暴れる明日香の肩を掴み、誠司は思いきり瓦礫に押し付けた。

 鈍い音と共に硬い瓦礫に背中が打ち付けられ息が詰まる明日香に、誠司が叫ぶ。

 

「冷静になれ! 今のあいつは餌だ! お前が行ったらあいつの思うつぼだ!」


 ディオに負けず劣らずの怒号に、明日香の身体がビクリと跳ねる。それでも誠司は明日香の肩を掴み離さなかった。

 ディオが紅葉に危害を加えるかもしれないと声高々に叫んだのは、明日香を誘い出す為の餌にする為だと推測出来る。現に明日香は誠司の手を今にも振り払いそうな勢いだった。感情を抑えながら誠司は絞り出すように口を開く。

 

「あいつは……あの子どもの事をマスターと呼んでいた。あいつの目的を考える限り、少なくとも命を取る真似はしないはずだ」


 確証は無かった。

 だがそう言わざるを得なかった。

 そうしなければ、明日香は自分がどんな目にあっても紅葉を助けに行くと言って聞かないだろうから。

 誠司の手に力がこもる。明日香の顔が僅かに歪んだが、誠司はその手を止められなかった。


 誠司に怒鳴られ身体を萎縮させた明日香だが、少しずつ呼吸を繰り返し、徐々に落ち着きを取り戻していく。そして誠司の言葉を頭の中で繰り返した。

 そしてどうやって紅葉を助けるか思案したその時、すうっと頭がクリアになる感覚がして、とある考えが明日香の頭に浮かぶ。


 あいつが紅葉ちゃんをマスターと呼んでいるのは、おそらく紅葉ちゃんの心によってあいつがこの世に身体を維持出来ているからだ。

 だから彼女の命の危険性はすぐには無い。シェイド達の最終目的がDSIで話した推測通り、ロストファクターの身体を取り込む事だとしたら、あいつにとって紅葉ちゃんは重要な存在であるはずだ。

 

 だとすると、アリダの命令で連れて行こうとした私は、アリダを崇拝しているあいつにとって、アリダを創り出した私の存在は──。


 

 唐突に誠司の頭の中に、明日香が埼玉支部に連れて行かれた時の記憶が呼び起こされた。その経緯を説明した和真が、怒鳴る行為は時と場合によっては警察沙汰になる暴力行為に等しいと言っていたあの時の出来事だ。

 

 それを思い出し、誠司はやり過ぎたと明日香の肩から手を離そうとしたが、今度は明日香が誠司の腕を掴んだ。

 恐怖で震えてた彼女からは想像付かないくらいの手の強さで、そのまま誠司の腕が明日香に引き寄せられる。

 誠司、と顔を近付け名を呼んだ明日香の声は小さかったが、その奥には芯があった。

 

「私に考えがある。聞いて欲しい」


 誠司の顔をじっと見つめそらさないその目は、揺るがない覚悟を決めた眼差しだった。

読み返して思ったことは、「明日香がやっと人間になったなあ」でした。

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