第十九話【芸術の五重奏】(三)
「……くう、さっき何か言いかけてなかったか?」
ロストが出現した場所に向かう為にゲートの準備を待っていた時、和真が空美に問いかけた。
空美がそれに対して少し遠慮がちに口を開く。
「うん……どうしてシェイドは、明日香さんをロストにしたんやろうって思っとってん」
空美が不安な表情で明日香に目を向ける。
「明日香さんもうちと同じかは分からんけど……ロストなると、心も身体も絶望に支配されるから、うちは気ぃつけとっても、どっかで隙が生まれとる気がするんや」
「確かにロストになった人達の何人かは、そのまま精神科に通ってカウンセリングを受けてるもんな。けど、それがどうかしたか?」
ニードルを破壊したからといって、身体はロストになる前と同じ状態に戻る事は無い。ニードルの成分を全て取り除くことは不可能なのもあり、それが原因で心が再び絶望に支配されやすくなるという。
だから必要な人はその後も必要な機関のお世話になるのだが、空美は勿論、誠司も明日香もそういった処置はされていない。そこまでする必要が無いと判断されたからだ。
「ロストにすることで、明日香さんを、その……操ろうとしてるんかなって……心の隙が生まれた時、何かされてもおかしないなって……」
「……!」
「アリダやシェイド達が元々幽霊やとすると、目に見えるようになっただけで人間になったとは考えにくいねん。それにさっきも言うたけど、負の感情に支配されてこの世に未練が残っとった可能性が高い。それでロストファクター達の手放した心と融合して、実体を手に入れた成功を経験したら……」
「更に完璧な存在になろうと思ってもおかしくはないってことか……」
奏の言葉に、空美が嫌そうな顔をしつつも首を縦に振った。
「……シェイド達の目的は、ロストファクターを取り込む事だと言いたいのか?」
「憶測の域を出ないが、可能性は否定出来ないな」
「……まさか、アリダも明日香さんを乗っ取るために、ロストにしたんちゃうよね……?」
和真と杏も眉間に皺を寄せる。
空美の言葉を否定する声は、ゲートの準備が整うまで出る事はなかった。
* * *
明日香の背中に冷たいものが流れる。
そしてアリダにニードルを刺された時の事を思い出して、気付いてしまった。
ニードルが突き刺さった時、アリダが持ってた昔明日香が手放した心が入った事を。
明日香が手放した心は、“自分が何かされて”不快に感じたり悲しんだりする心だ。今まで感じていた怒りや悲しみ等は、全て他者が関わった時のみ表に出てきていた。
しかし今、ここには明日香一人しか居ない。そしてディオの言葉は明日香以外に向けられた物では無い。
にも関わらず明日香は怒りを感じている。これはもしや、自分が、アリダに取り込まれる予兆なのではないか。考えたくない事が明日香の頭を支配する。
明日香の思考が止まった隙をディオは見逃さなかった。
ギターを鳴らし、そこから白い煙が形を作り明日香の左腕に素早く取り付く。
鋭い痛みが走り左腕を見ると、白い煙で出来た犬が明日香の腕に噛み付いていた。
「……っ!」
「怖くて動けねえだろ。このまま連れてってやるよ」
「や……離し、て……っ!」
犬の牙が明日香の腕に深く突き刺さり、激痛が明日香の腕から全身に駆け巡る。同時に今まで感じたことの無い恐怖が明日香を支配していった。
初めてロストの騒動に巻き込まれた時、誠司を庇って狼のロストに腕を噛まれた時は痛みこそ感じたが恐怖は感じなかった。それは恐怖を感じる心が明日香の中に無かったからだ。
恐怖心が加わるだけでここまで動きが鈍るというのか。
呼吸が次第に荒くなり、身体の中の酸素が少しずつ減っていく錯覚まで感じ始める。
煙で出来たリードに繋がれた犬が宙に浮いた状態で噛み付いたまま、明日香をディオの所に引き寄せようとする。
明日香が連れて行かれぬよう腕を掴み、ずりっと引きずられる足を踏ん張り耐えていたその時だった。
何かが上空から落ちてくる気配がする。
直後、煙のリードが鋭利な物で切られ、切り離された犬が形を保てず霧散して消えていく。
土煙が舞い、反動で明日香が体制を崩し倒れた刹那、それはディオに向かって飛びかかった。
ギターと刃物がぶつかり合う音が周囲に響き渡る。
土煙が晴れた先にいたのは、ディオに向かって自分の身の丈ほどある刃を振り下ろしていた誠司だった。
「おー、良い武器持ってんじゃねえか」
「はっ! お陰様でなあ!!」
誠司がギリギリと刃をギターに擦り合わせ、そのまま横に一閃振り払う。
ディオが軽々とそれを防ぎ距離を取り、ギターの状態を確認する素振りを見せる。
本体も弦も特に切れてなかったのかそれもすぐに終わり余裕そうな笑みを浮かべ、誠司が舌打ちをした。
「誠司……その武器……」
明日香は呆然と誠司と、彼の持ってる武器を交互に見る。
誠司が持っていたのは明日香が見慣れた銃では無い。
銃と剣、二つの凶器が一つの形に組み合わさったそれは、引き金が握り手と一体となり、刃の根元には銃口が口を開けている。
「ったく皮肉だよなあ。ロストになったおかげで武器のバリエーションが増えるなんてよ」
自嘲気味にそう言い捨てる誠司の手に握られていたそれは、銃に刃の付いた、通称ガンブレードと呼ばれる武器だった。
横薙ぎに構えられた長大な刀身が、光を受けてその切っ先をぎらりと輝かせた。
最近は基本的に文章にAIは使わず自力で書いてますが、
今回のガンブレードの説明部分の描写だけClaudeを使いました。
プロンプトは確か、ガンブレードの描写を小説風に書いて下さいとかそんな風に指示した気がします(全部をそのままでは無く使いたい所だけ使って自分の言葉で修正はしてるけど)




