第十七話【明日香の告白】(三)
広い空間に乾いた発砲音が響き、二つの足音が軽快にコンクリートを鳴らす。金属同士が当たり高い音を放ち、二つの影がその空間で飛び回っていた。
「そんな遠くからやったら、うちには当たらんで!」
くるくると如意棒を回し飛んでくるものを弾き飛ばしながら空美が挑発すると、誠司は軽く舌打ちしながら銃口を空美に向ける。
空美とロストの実戦を直接見た回数は少ないが、その身のこなしは想像通りの軽やかさだった。いくら狙っても銃弾が空美に届く時にはそこにいない。不意打ちを狙っても彼女のギアに弾き返されてしまう。
誠司にも人並みにプライドはある。コアの使い方が自分より上とはいえ、歳下の空美にこうも差をつけられるのはあまり気分の良いものでは無い。
彼女の残像に銃弾が当たる様を誠司は若干苛立ちながら見ていた。
余談だがセイバー達のギアは、普段はロスト以外に向けても攻撃は効かない。だがロストに刺さったニードルの成分をギア本体にかけることにより、その攻撃が当たるようになる。
それによりこのような実戦形式の訓練も可能になるのだそうだ。
呼吸を整えて銃に手を添える。カチリと小さく軽い音が鳴ったのを確認し、飛び上がった空美に銃弾を放つ。
余裕そうに如意棒を回して防御しようとする空美に銃弾が当たったその時、彼女の姿が消えた。
消えたと思った空美が、突如誠司の近くに現れる。
それなりに距離を取ってたはずなのにいきなり目の前に現れた誠司に空美が驚いていると、その隙を狙って誠司が銃弾を何発か彼女目掛けて放った。
空美が目を白黒させて距離を取るが、徐々に状況を理解して眉間に皺を寄せながらも口角を上げた。
「やっぱりその技、中々に厄介やなあ」
「そりゃどうも。ようやく狙った場所に移せるようになってきた所だ」
誠司も少し口角を上げながら、空美に狙いを定めた。
和真との特訓の中で編み出したこの技は零距離転送弾と言って、撃った対象を望んだ座標に瞬間移動させる事が出来る。連続で撃てるものでは無いのでよく考えて撃つ必要があるが、ようやくものになり始めてきた。
「今度はこっちから行くで!」
次撃てるようになるまでどうやって攻めるか少し思案しようとした直後、空美の如意棒が勢いよく伸びて誠司に向かってくる。
咄嗟に自身の銃で庇い軌道を逸らそうとしたその時、如意棒にまとわりついた稲妻が襲いかかった。
電気特有の痺れに触れ、閉鎖病院で敵が使ってきた技を思い出し誠司は身体を強ばらせる。しかし如意棒が伸びた事により空美の防御が手薄になってる事にすぐ気付き、空美の元に向かって走り出した。
空美もそれに対応しようと如意棒を瞬時に戻し、誠司に撃たれる前に壁に向かって駆け出す。跳躍して壁を蹴り天井まで飛んだかと思うと、そこを蹴り上げて真上から誠司目掛けて如意棒を振り下ろした。
如意棒が叩きつけられる衝撃がトレーニングルームに響く。誠司のすぐ横のコンクリートに突き刺さった如意棒を睨みつけながらも、銃口は空美の額に向いていた。
「そこまで!」
スピーカーから和真の声が響き、誠司と空美はお互い肩で息をしながらも自分のギアをおろす。
ドアが開き和真が入ってきてリモコンを操作すると電気が消えた。
「一、二、三……四、五。一、二、三、四……五、六。くうの方が一つ多いな」
「ええーっ!?」
「っしゃ!」
空美が自分の身体に浮かぶ丸や線の赤い光を恨めしそうに見ながら不満の声を上げる横で、誠司は感極まりガッツポーズをとった。やっと自身の受けた傷より空美の受けた傷の数が上回ったのだ。
「うちの方が誠司さんにダメージ入れとったと思ったのにー。なんか悔しいわあ」
「俺と特訓始めてから無駄な動きがだいぶ減ったからな。立ち回りはくうの方がまだ上だけど、元々の筋力は誠司の方があるし」
再び電気が付くと、空美はむうっと頬を膨らませながらその場に腰を下ろす。悔しそうにしてはいるが、そこまで本気で悔しがっては無さそうだ。
対する誠司は徐々に喜びの熱が下がっていき、自分の状況を客観的に確認して苦笑いを浮かべた。
「でも、始めてからもう一週間経つのにそれまでずっと負け続けてたから、俺どんだけ弱かったんだって話だよな」
「そんなことあらへんで。うちは和真に毎日稽古付けてもろてるから、ここでの戦闘に慣れとるだけや」
「そうそう。特にくうは実戦だと俺がそばに居ないと今の力が出せないからな。状況が変われば力関係も変わる」
二人ともお世辞では無く本心からそう思って言ってるのが伝わったが、誠司はいまいち信じきれず頬を指でかいた。
「もう少し自信持った方がいいぞ。謙遜のし過ぎは良くない。まあ……そういう所が父親譲りなんだろうけどな」
和真よりも低く野太い声が聞こえたかと思うと突然自動ドアが開き、麦わら帽子を被って黒い作業服を着た大柄な男性が入ってくる。竹で出来たカゴいっぱいに入ったきゅうりを両手に抱えて、そのうちの一つを手に持っていた。
「山下さん、どうしたんだ? さっきまで畑にいたんじゃ」
「本部から連絡があってな。今日埼玉支部から東京の子が本部に戻るから、誠司君も本部に戻るようにと」
「え、それほんま? 明日香さん戻ってくるん!?」
男性がそう言った時、空美がパッと表情を輝かせて立ち上がった。
「それ伝えにわざわざここまで来たのか? 俺のスマホに連絡入れるだけで良かったのに」
「どうにも機械の操作は慣れなくてな。直接伝える方が早い」
「おっちゃんまだそんなこと言ってるん? そう言って毛嫌いしてると時代に取り残されるで」
「良いんだよ俺にはこっちの方が性に合ってんだ。朝一番に収穫したきゅうりは美味いぞ、食うか?」
「食べるー!」
空美が喜びながら男性からきゅうりを受け取って一口かじる。男性、千葉支部の支部長である山下才蔵がもう一つきゅうりを手に取ると、誠司に渡してきた。
「えっと……」
「というわけで一先ず、和真との特訓はここまでだ。素人目の俺から見ても、君は強くなったと思うぞ」
「大丈夫だって。自分で思ってるよりも強くなってるから自信を持て。俺が保証する」
誠司は才蔵が手渡してきたきゅうりを手に取るが、あまり顔は浮かばなかった。和真も笑いながら誠司の肩に手を置くが、それは変わらない。明日香が戻ってくるのは勿論嬉しいが、自分が彼女の隣に立てるようになってるのか自信が無かったのだ。
「でも俺、今やっと空美に初めて勝てただけで……あのレーザー撃ってくる的を壊すのとか、一番レベル高いのは全然壊せないし避けられてないし……」
「あれは杏姉が開発して魔改造を重ねまくった鬼仕様だ。あれを余裕でこなせるようになったら俺の立場が無くなるわ!」
「あれ実戦やったら和真でも危ないもんな。いつも蜂の巣にされとるし」
「うるせえ、お前だって全身どころか顔まで真っ赤になるだろ!」
和真が空美を羽交い締めにし、空美の頭を拳でぐりぐりと挟む。痛いからやめえやあと空美が抜け出そうともがいてるのを見て、誠司は思わず笑いが漏れた。
笑ってんと助けてやあという空美の叫びがトレーニングルームに響き渡った。
誠司が言ってたレーザー撃ってくる的を壊す云々言ってるのは、冒頭で明日香が埼玉支部でやってた訓練の事です(1番レベル高いモード)
つまり空美は勿論、和真でも音を上げる訓練です。
表現力が足りなくて上手く伝わってるか分かりませんが、つまりそういうことです。
だから戦闘描写は苦手なんだ……。




