表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
動けるデブの異世界生活  作者: 大和ミズン
4章 Right Now
24/50

024 デブ、吐く

 「ぐううううっっっ――」


 毛皮の鎧。身に纏う。

 恐怖、恐怖。目の前に迫る巨躯に対して、感じるのは恐怖のみ。


 ――熊、(ヒグマ)だ。俺の知ってる奴よりも、少しばっかし鼻が長い気がするけれど。

 間違いなく、地球なら最強の肉食獣の一つと呼ばれた、ソレだ。その事実が、この世界においても普遍で在るならば。


 (はや――)


 木々の間を、すり抜けて。

 ああ、疾く、重い。筋肉の塊は、いとも簡単に此方へ届く。


 「――うああッッ!!」


 でも、立ちん坊になってる場合じゃ――

 構える、せっかく新調したロングソード。3メートルに及ぶだろうお前に、どれだけ届くかは分からないけど。


 「――――」


 羆は、何も言わず。言わぬまま、広げた腕、その先の鉤爪を伸ばして。


 だんっ。跳んだ。巨体が、こっち目掛けて。

 ああ、無理だ。これは、必殺だ。そういう一撃だ。俺の安っぽい命なんて、一瞬で刈り取られるだろう――




 「――――ふっ」


 でも、羆は届かない。なぜなら、阻むものがあるから。

 華麗に、舞うように。振り抜いたナイフ。羆を相手取るには、軽すぎるそれは。ほんの少し、触れただけで。


 ――羆が、吹き飛ぶ。


 


 『――テッペイ、反応が遅いッ! 相手にならないなら、相手にしないッ! 一秒でも長く、生き残る選択肢を探すッ!!』


 キコの怒号が飛ぶ。

 くそ、分かってる。分かってるけど、頭も体も付いてかないっ!

 向こうには、人の道理が無い。だから、こっちが獣の道理に合わせなきゃ――そんなの、分かっちゃいるけれど。


 『ああ、しゃあねえぜえご主人様あッ!! でも、キコちゃんが助けてくれる内に覚えとけよおッ!』


 「お前は何もやってねえだろっ!」


 戦闘で誰より役立たずな、お前には言われたくないっ。

 が、言ってることは(もっと)もだ。すぐさま、剣を構え直して。更なる敵に備える。

 来たのは、羆だけじゃあない。アイツに追い立てられた――


 「――――ッ!!」


 『狼、九頭! 魔獣、耳が良い、死角が無いっ、だってよっ!』


 立て続けに訳して、スライムが叫ぶ、

 ああ、その通り。狼だ。大型犬くらいのサイズ。耳が良い? 死角が無い? 分からんが、クリック音とかそういうやつか!?


 「お前らならあああッ!!」


 剣を持ち上げる、肩を引く。キコに教わった、単純な構えだけれどっ!


 ――ヒュオウ!


 飛び出した、先頭の狼。振るわれた剣。

 二つ交わって――結果、狼の頭がカチ割れる。

 飛ぶ血飛沫に塗れながらも。視線を群れからは離さない。


 「オェ……ッッ!」


 登ってきた胃液を、強引に押し込んで。

 ステップ、ステップ。後ろへ退いて。引きつけつつ、別れた一頭、誘ったなら!


 「当たれよおおおおッッ!」


 そのまま、振り抜いて!

 横からの一撃、解らないまま、食らってくれりゃ――


 「――!」


 狼の四肢に、力が入る。柔らかい地面に、足を沈ませて。

 そして、ずれる。体の経度。鉄平の剣撃は、狼の毛を掠めて通り過ぎる……!


 (何だよこの、亜人ばりの超反応は!)


 くそったれ。本当にクソッタレだ。

 挙句に、カウンターの様に。体の崩れたコチラに、牙を向けて――


 「――舐めんな、こっちのほうが重いだろうがああッ!!」


 「ガフッ!?」


 思い切り、地面を蹴り飛ばして。

 捨て身タックル、顎が勝ち上がったら痛いだろうよ!


 ――ぼふんと、飛ばされた狼の体。

 その胸に、トドメの一撃を――


 「アアッッ!!」


 絞り出すように、声が出て。今にも、泣き出しそうだったけれど。

 切っ先は、ちゃんと狼の心臓を捉えた。狼の体は、少しばかり痙攣をしたら。もう、ぐったりとして動かない。


 「次ィィッッ……!」


 脳が、高ぶってる内に動かねば。

 一体を相手にしすぎた。もう、何頭か迫ってるだろう――


 『――テッペイ。平気』


 ――と、振り向いて。

 その先には、転がる獣と、佇むキコ。


 『全部、やった』


 経過したのは、ほんと何秒。

 その間に、一つの群れは消えた。




 『やっぱり、数が多すぎる。食べ物には、困らないけど』


 「オェッ……」


 多すぎる情報量に、目眩がして。何の返答もできなかった。

 ただ、遂に堪えきれなくなって、胃液を口から溢れる。ああ、本当にもう、しんどい。


 『テッペイ、死体を残しすぎたから。それ終わったら、すぐ移動する』


 「……ぅうっ、わかった」


 落ち着くまで吐ききって、気持ち悪さは拭いきれないけれど。口を拭って、キコに従う。

 もう、亜人の集落(コロニー)の間近まで来て。その頃から、獣との遭遇が増えた。

 何度も襲われて、何度も殺して。その度に恐怖と嫌悪感で、精神がぐちゃぐちゃになりそうだった。


 「キコは……平気なの……」


 その裏に、自分は弱いと込めつつ。

 顔を赤く化粧しても、平然とするその姿に。疑問と、少しの恐さを感じて。


 『慣れてるだけ』


 キコは一言、そう言った。

 慣れ。麻痺。自分も、そうなるだろうか。それが、良いことなのかは判別できないし。それまで生きていられるかも分からない。


 「やっぱり、キコは強いね……」


 精神も。肉体も。

 よく考えれば、キコの戦いを見るのは初めてで。

 でも、なんの意外性も無く。ただ淡々と、キコはキコで有り続けた。どれだけ殺しても、鉄平がよく知るキコのまま。


 (俺じゃあ、慣れてもそうはならない)


 きっと、戦う自分が出来上がるだけ。

 今の自分と、戦う自分を使い分けて。やっと、精神を保てるだろう。


 (強くなるのは、難しいや)


 何だかいつも、軽い気持ちで初めて。そして、後悔してばっかりだ。

 始まりばっかカッコつけて、結局泣き言を言って。

 こんなんじゃ、一向に強くはなれないだろうに。


 そう、頭のなかでごちゃごちゃと。自責している最中。

 キコが、一言。こっちに届く、ギリギリくらいの声で。




 「――弱いキコは、皆と一緒に死んだから」


 ――何かを、呟いた。スライムは、訳さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ