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動けるデブの異世界生活  作者: 大和ミズン
4章 Right Now
23/50

023 デブ、近づく

 歩いて、歩いた。今までの人生で、一番歩いたかもしれない。

 休みはした。夜はしっかり寝た。だからと言って、疲労が全て取れるワケじゃない。

 そもそも、疲労する時点で未熟(・・)なのだ。


 (もう、六日目……あと、一日……)


 ここまで、何とか乗り切って。幸い、亜人にも会わず。

 キコの背中を見続けるだけで、やっとだけれど。


 (今までの俺なら、そんなに体力は必要なかった)


 でも、今は違う。今の俺に求められているのは、円盤投げじゃない。

 だから、作り変えなきゃいけない。キコが望む、俺に。


 (どうせ、元の世界には戻れないんだろうから)


 もしかしたら、方法もあるのかもしれないけれど。

 でも、そこに辿り着けない可能性の方が、限りなく高い。


 (気張らねえとな……)


 そう、心中独り言ちて。

 歩みを進める。少し、膝が痛いような気もしてきた。体重、落とさなきゃかもな。まだ暫くは、デブだろうけれど。


 『――テッペイ』


 そんな、(おり)。キコに呼ばれた。

 なんだろうか。昼にもなってない、今時分。休憩には、早いだろうに。


 「な、に……?」


 ああ、聞き返すのもしんどい。

 いやもう、いつもの様におちゃらける気力も無い。ただ単純に、疲れた……


 『予定変更。今日はここでキャンプする』


 「マジで!? やった! ……でも、何ででござんすか?」


 嬉しい誤算。いやあ、今はこれ程嬉しいこともない。

 飯食って、水飲んで、寝て。それが最高の贅沢だと思う。


 『非道い――血臭がする。未だ遠くだけれど、風に乗るくらいには』


 「え……?」


 望んでいた筈の、休息。その喜びは、不穏な言葉にかき消された。




 「血臭、ねえ……。そりゃあ、今はあるけどさあ」


 『そりゃあ、血抜きしてるんだからそうだろうよ』


 キコが獲ってきた、嘴のデカい鳥。動物園でも見たこと有るような。

 そんなのの頭を落として、ぶら下げている最中だ。当然、血の匂いだってする。


 『テッペイ。手を止めない』


 「承知致しました……」


 怒られちゃった。悲しい。でも、サボった俺が悪い。

 鳥の胴を鷲掴んで、摘んだ羽を毟って行く。

 ちゃんと、仕事すりゃあ、キコも怒らない。


 「ねえキコ。血の匂いがすると、何がやばいの?」


 いや、やばくないワケ無いけれども。


 『ひとつ、大量の血が流れる。原因があった。ふたつ、匂いに惹かれて、獣が集まる。勿論、魔獣も……』


 「魔獣が……」


 魔獣。スライム以外は、見たことは無い。その(なり)に、思いを巡らせつつ。

 あ、そういえば――


 「ねえ、もしかして――」


 『たぶん――そう』


 キコもやっぱり、思い当たっていた。

 主語を言わずとも、二人浮かべるのは同じもの。


 『――魔獣の気配が無かったのは。こっちに集まっていたからの可能性が高い』


 「だよな……」


 スライムは言った。魔獣は単純だと。所詮獣なのだから。

 ならば答えも単純だ。血の香りに導かれて。魔獣は移動した、ただそれだけ。


 「なあ、この先には、何がある……?」


 キコは、この辺りの地理に明るかった。いや、明るいなんてものじゃなく。

 全部知っていた。木の実の取れる場所、水場、あらゆる地形の変化。途方も無い時間、ここを歩いた証。

 ならば、この問いの答えだって。


 『そんなの、決まってる』


 ああ、やっぱり。分かるらしい。

 それも、当然だと言う風に。


 ――いや、分かる。俺も、分かっている。


 『亜人の集落(コロニー)。間違いなく、其処からの血の匂い』


 段々と、見えてくる全容。でも、見えれば見えるほど、理解らなくて。

 羽を毟っていたはずの手が、いつの間にか止まっていた。キコは、怒らなかった。




 上着を羽織り直す。昨日残した肉に齧りつく。

 朝が来た。ここが正念場だ。何か、一つ間違えるだけで、俺たちも魔獣の餌だ。

 足を通したスニーカー。紐をしっかり結び直して、指の感触も確かめて。


 『慎重に行く。ゆっくり付いてきて』


 キコが言う。俺も頷く。ゆっくり、ゆっくり、バレないようにと。

 本来、一日で行く工程に。あと二日を付け加えることになった。これくらいの距離ならばもう、魔獣がいつ出てきても可怪しくはない。


 「なあキコ。種類にも依るだろうけれどさ、魔獣って……強い?」


 不安になって、聞いてしまう。

 やっぱり、恐い。この間の亜人も、スライムのときだって。ずっと、俺は怖かった。命を脅かしうる相手が居るってだけで、震えそうになった。

 でも、キコは――


 『色々居るけれど。単体で、私より強いのは居ない』


 実に心強い返事をくれた。それも、きっと事実。

 ああ、それなら。足、引っぱってはしまっても。指咥えるために、付いてきたワケじゃないから。


 「俺も頑張る。自分の身くらいは、守らないとな」


 『あと単体で、テッペイより弱いのも居ない』


 「どうしようもねえ!?」


 前途多難ではあるけれど。

 偵察が目的のこの任務。たどり着くまでなんて、前座でしかない。それくらいは……




 「きっちり、やって見せなきゃな」


 そうそう弱いまんまじゃ、居たくは無かった。

 キコが歩き出し。俺は、続く。

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