表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
動けるデブの異世界生活  作者: 大和ミズン
4章 Right Now
25/50

025 デブ、出会う

 亜人の集落(コロニー)。集落とは言っても、その規模は半端じゃない。

 幾つかの山に囲まれた盆地。その平野部の、全てを覆うように。

 家、家、家。立ち並ぶとは言わない。手掘りの穴蔵に、枯れ草を被せたような簡素さで――見渡す限りに敷き詰められていた。


 『大陸中の亜人が集まって。出来た大コロニー。何度か数減らしもやったけど、其れでもしぶとく残り続けてた』


 キコが解説する。

 戦争は何度もあった。亜人と魔人の戦いもあった。だから、アレの殆どはハリボテで。

 だからと言って、容易に消える数じゃあ無かったのは確かで。だからキコも、何度も偵察をやって。

 なのに――


 『テッペイ。亜人、いるように思える?』


 「いや、全く。遠目で見ても、居る気がしねえ」


 危険を承知で、二人は近づいた。かなり、かなりだ。

 外周の山の、際まで行って。目を凝らして。其れでも、動くものは米粒大にしか見えないけれど。でも。


 「こんなん、地獄絵図じゃんか……」


 集落(コロニー)を蠢くのは、獣、獣、獣。簡素な藁敷きを、踏み潰しながら。

 亜人の死体を食い荒らし。獣同士が、お互いを貪り合って。

 鼻を突く血臭が、一秒ごとに濃度を増すように。


 『――亜人は、滅んだ』


 或いは、先日の襲撃。皆、愚行と言ったけれど。

 ――生きるための、決死であったか。




 キコは山を降りた。より近くで偵察するためだ。

 それが、任務。俺は置いていった。付いて行ける技量は無かったから。


 「キコ、謝ってたな……」


 『殊勝だよねえ。ご主人様が弱いのがいけないのに』


 「うっせえっ!」


 キコは、俺が死ぬかもと言った。

 今、俺のいる場所。身は隠せるくらいの岩陰。

 近くに来れば、容易に見つけられるだろう。獣の嗅覚であれば、その必要すらない。


 『そんな大きな声をだすなよぉ、ご主人様。獣は耳も良い』


 「……そうだな」


 息を潜め。身を縮め。後はもう、何も来ないのを祈るばかり。

 まだ、餌に成り果てるのは嫌だ。亜人にやられた、死骸のほうが未だマシだった。

 さっき見たあれらは、人の死に方として許容できる範囲を超えてる。


 (キコは平気かな)


 亜人のときも、似たような事を考えた。結局、何の心配も無いくらいで。俺のほうが大事であったけど。

 でも、今度は。数が数。味方も居ない。大丈夫だろうか。切り抜けるとは、信じてるけれど。

 ああ、今からでも向かったほうが良いんじゃないか。なんの戦力にもならないけれど、囮くらいには――


 『ご主人様。余計な事を考えるな』


 ああ、マズイ。変なことを考えてた。スライムに釘を刺されなきゃ理解らねえのか。


 (もう、はっきり聞こえるのか)


 『そんなじゃねえよ。何となく、どういうことを考えてるかは感じるようになってきたけどな』


 この間の、亜人の件から。右手の、肉垂れの部分が増えた。それと一緒に、スライムは俺の思考が何となく分かるように為ったと言った。


 (まあ、暇だしな。変なこと考えるかもしんねえけど、許してくれ)


 思考を読まれてること。嫌だったけど、こういうときは有り難い。

 暴走する自分の、枷に為ってくれて。自制、少しは出来る。


 『キコちゃん戻るまでは、辛抱だぜ』


 (ああ……)


 キコは、一時間で戻ると言った。二時間で帰らなかったら先にキャンプへ戻れって言った。

 そんなん言っても、時間なんて分からねえし。キコが居なきゃ、テントにだって戻れない。目印もない道なんて、覚えてるワケが無いっての。


 (…………)


 だから、だから。信じて待つ。

 何も言わずに。ただひたすらに。待って。待って。今がどれくらいかなんて、気にしたら負け。ずっと、待ち続けて――


 (――――ッ!!)


 ――ざっ、ざっ。足音が、聞こえる。砂粒を、ブーツで踏みしめる音。

 ああ、戻ってきたか。やっと、やっとこさ。ああ、でも。


 (一時間には、未だ早くないか……?)


 俺の体内時計じゃ、未だ半分くらいだと思っていたけれど。

 そうしてる間にも、近づいてくる足音は。ああ、すぐ岩の裏で立ち止まって。




 「ねえ。其処で何してるんだい?」


 まるで。ここに俺が居るのが当然であるかのように。こちらを覗き込みながら。

 男の声は、問うてきた。吸い込まれる様な、青い目だった。







 (スライム、訳せ。普通に声出して良い)


 心臓が、張り裂けそうだった。肺が引きつってる。

 でも、その一切を顔に出さないように。震えそうな奥歯は、必死に噛み締めて。


 『そこで何してる、だってさ』


 右手が蠢く。肉芽割れる。どこにあるかも知らない声帯が、空気を震わせる。

 青い目の男は、驚いた顔をした後。にっこり笑って、右手を指差してくる。


 『何だい、それ?』


 「スライム。寄生された。俺はここの言葉喋れねえから、代わりに話させてる。そういうスキルが有るんだと」


 全部、正直に話す。嘘はダメだ。何か分からないけど、駄目な気がする。あの青い目は、こっちの全部を見透かすんじゃないか、そう思わせる。


 『居たなあ! そういう魔獣。でも、通訳とかさせてるのは初めて見た』


 だいぶ、此方を不思議がってる。そりゃあ、何から何まで珍しいだろうけど。

 ちゃんと平静な顔、出来てるだろうか。気取られてるかもしれない。あまり見られると。息がつまりそうだった。


 『それでさあ。結局何してるの?』


 改めて。そう尋ねてきて。ああ、誤魔化したいけれど。誤魔化せない。


 「亜人の住処、偵察に来てんだよ。今仲間が行ってるから、お留守番」


 『そりゃそうか! ここに来たら、そうだよね!』


 随分、軽いノリ。その笑顔からは、危険な香りばかりが漂う。


 『でも君、正直だねえ。気に入ったよ。本当はもっと話したいけど、こっちも待たせてるからさ。行かなくちゃ行けないのが、勿体無いなあ』


 ああ、消えてくれる。早くしてくれ。

 こっちは、お前と居る時間に、そんな長くは耐えられないんだ。


 『だからさ、良いこと教えてあげる。もう少し、北まで行ってみな。面白いものが見れるよ!』


 「面白い、もの……?」


 男は、軽い足取りで遠ざかって行く。

 ああ早く。何事も無いまま、終わってくれ。


 『明後日くらいかな? 三つ先の山が良いよ。くれぐれも行き過ぎちゃいけないからね?』


 「あ、ああ……」


 明後日。行き過ぎちゃいけない。何のことだろうか。

 コイツの言うことは、何も分からない。


 『そうだ、あと最後に。名前、何ていうのさ?』


 「て、鉄平だよ……」


 『テッペイか。変わった名前だねえ』


 それじゃあ、バイバイと。男は、こっちに手を振った。

 結局、俺は一歩も動けないまま。でも何とか、切り抜けられるか。


 『あ、言い忘れてた』


 くそ。立ち止まりやがった。

 そんなの良いから、早くしてくれ――




 『――僕はアピスって言う。また、会おうね』


 その言葉を最後に。(アピス)は漸く居なくなった。




 『ご主人様――』


 「――ああ」


 間違いない。確信した。知識と、認識が一致した。もう、忘れない。

 青い目。こんな所に来れるほどの力量。

 そして、絶対的な圧力(プレッシャー)

 アレが。アレこそが――


 「ま、じん……」


 ――未だ、握りしめた剣が。手から離れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ