調子のいい言葉ですね
冗談でしょ?
だって、私達って魔物を倒すために2年前に頑張ってたんじゃないの?
なのにどうして今更……?
それもよりにもよって魔王を倒した勇者が魔王になるなんて皮肉もいいところだ。
「どうしてそんなことする必要があるの?」
だって折角魔物がいなくなって平和になったんでしょ?
それなのにどうして今更魔物の統率をして、そして各都市にけしかけているの?
「俺は別にみんなの平和のためだとか、そんなものの為に勇者をやってたわけじゃなくて――」
「知ってる」
コイツはただ、漠然と興味があったのだ。
世界の果てだとか、魔王の強さだとか、自分の強さの限界だとか。
他の仲間がそれを見抜いていたかは分からないが、それでも別に関係と思っている。
ただの自分勝手で世界を救おうが、心の底から世界のためを願って世界を救おうが、世間は結果しか見ない。
それが正しいとされているのなら、誰も文句を言うはずもない。
しかし。
ただの自分勝手で世界を壊そうというのであればそれは許されるはずもない。
「別にアンタが心の底で何を思っていても、やってることは正しいと思ったから私もサンダラもみんなアンタについていったのよ」
シルクが私の台詞を鼻で笑った。
「……何か?」
「いえ、別に。ただ、調子のいい言葉ですね。正しいというのは」
どこか楽しげに、シルクは歌うようにそんな言葉を吐いた。
なにこの女。
本当に好きになれない。
「だって魔物を倒すのは正しいことでしょ? 今まで人を無差別に殺してきた奴らなんだから魔物も駆逐されて当然でしょ!?」
「そうだな、リリス。俺もそう思ってた」
「思って"た"? なにそれ、今は違うみたいに言わないでよ!」
「言うさ。今は違うって思うんだからな」
リリスは言葉を失った。
いままでの冒険は、そして苦労はなんだったというのか。
「じゃあなんなの。魔王を倒したのが間違いだったとでもいうの?」
「そうじゃない。間違いとか、正しいとかどうでもいいんだよ」
仮に間違っていたとしても、魔王は倒してしまった。
正しかったとしても後から考えれば間違っていたなんてことも多々ある。
「結局正しいとか間違ってるとか全て動機の話だ。自分が行動するとき、背中を押してほしいって思うのは当たり前の気持ちだ」
悪いことをしてると自分で思えばどこか自信がなくなる。
良い事をしていると思えばどこか誇らしい気持ちになる。
「けどな、リリス。俺は今胸を張って言える。間違ってるとは思ってない、これが俺の今の正しさ、だ」
「……嘘でしょ? じゃあなに? 人を全部滅ぼして、魔物だけにするのが正しさって訳?」
「極論だな。まぁでもそうかもしれんし、そうじゃないかもしれんな」
「ふざけないでよ! なにがしたいのよ!」
コイツはこんなふざけた奴じゃなかった!
ちゃんと自分なりの信念があって。
わがままで。
自由な奴で。
「失礼ですが、リリス氏の言うところの、正しさ、というは魔物を全員駆逐するということですか?」
シルクが横から入ってきた。
「そうよ。それが当然でしょ」
魔物に大事な人を殺されたという人を今までに何人も見てきた。
当然、自分が殺されかけたこともあった。
魔物とはそんな野蛮な生き物だ。
共存を図れなければ殺すしかない。
「人間は駆逐しなくていいんですか?」
「はぁ? 馬鹿じゃないの? そんな必要がどうして――」
「人間を多く殺しているのは魔物じゃなくて、人間ですよ?」
戦争。
政治。
宗教。
そんな理由で人間同士は確かに殺しあう。
「っ! 確かにそうかもしれないわね。でも吸血鬼のアンタは知らないかもしれないけど、そーゆーのは一部分の悪い人達だけ! その人達はちゃんと罰を受ける仕組みになっています」
「それなのに魔物は全員一律に駆逐するんですか?」
「……なによそれ」
悪さをしているのは一部分の魔物とでも言いたい訳?
でも今まで襲ってこない魔物なんて一度も見たことが――。
いや。
あった。
あったではないか。
あれはユーミルと一緒にいたときだ。
転移魔法の途中で落下して、変な洞窟に落ちたとき。
名だたる凶暴な魔物が、私を見てもユーミルを見ても何もしてこなかった。
「違いますよね。だとすればあの時もあの子達を殺していたはずですもんね」
「……ちょっと待って。どうしてアンタがそれを知ってるのよ」
「さぁ? どうしてでしょう?」
シルクは楽しげに笑っていた。
「あの時、お前とユーミルの二人でこの洞窟に落ちてきたことがあるだろ」
……。
…………。
「え!? あの時の洞窟ってここなの!?」
嘘でしょ?
だって場所的に全然ちがうじゃん?
「勿論、あの時にリリス達が落ちてた場所はここからずっと遠くさ。でも繋がってる」
そんな広いの?
どっかの国がひとつ収まりそうな大きさじゃない!
「旧友にそこで死なれても目覚めが悪いからな。シルクにお願いして天井のない場所まで誘導してもらったんだよ」
「その節はどうも~」
シルクは掌をひらひらをさせてニコニコしている。
……コイツのお陰で私達はあの時脱出できたのか。
「ちゃんとお礼の言葉も聴きましたよ」
やめろ。
あの時のことを掘り返すのはやめろ。
「あの時の満面の笑みをもう一度みせてもらえますか?」
「誰が見せるか!」
間違いなくからかわれてる!
「でもあの時、襲ってこない魔物を見ても襲っていませんでしたよね」
「……まぁ別に襲ってこないんだったらね」
何? そこまで見られてたっていうの?
……いや、待って。
洞窟の外まで送り届けて。
そしてその先まで見届ける意味はなんなの?
「私達が魔物を相手にどうするかまで見られてたっていうの?」
「確かめてたんだよ」
勇者が言葉を継いだ。
確かめてた?
何を?
「無抵抗な魔物を相手にどうするかだよ。静観を決め込むなら俺と同じ考えになるだろうし、殺し始めるようなら……今こんな話し合う場を設けようと思わなかったな」




