私のだったぁあああああ!!
「いや! もうお腹一杯デスカラ!」
確かに美味しいけど!
でもこれ以上食べたら太っちゃうし!
……。
あれ?
ここどこ?
確かレストランで水ドレイクのから揚げとポテトの山盛りを頼んでたんだけど。
「……おはようございます」
「あ、ベズリーシアじゃん。あれ、なんでここにいんの?」
というかなんでそんなやつれてんの?
老けるって年齢じゃまだないでしょアンタ。
「あら? ここどこ?」
マジルカってこんな田舎臭い部屋だったっけ。
こんな生活感全開だっけ?
普通に下着とか干してあるんですけど。
すごい、この部屋の主は私と同じような趣向なんだなぁ。お子様パンツが干されてやがるぜ!
「自分の部屋であります」
「あ! そうなの!?」
なんだ、ベズリーシアも私と似たような下着穿いてるんジャン!
なになに、やっぱりランタルマウス君好きなの? 好きなはずだよねぇ。だってかわいいから。
嬉々とした表情でリリスはうんうんと頷いている。
……いやいや。そうじゃなくて。
「私はどうしてベズリーシアの部屋にいるの?」
「自分がサンダラ先輩から押し付けられたからでありますよ」
サンダラ? 押し付けられた? 何を?
「…………あー」
思い出してきた。
思い出してきましたよ。
確か私はマジルカにいた。確かにいた。というか絶対。
そして酔った。
それはもう怒涛の勢いで。
道行く人からお酒と美味しい料理を勧められて。
なんか戦争が中止になった? みたいな打ち上げ? あれ、その理由は結局なんでだっけ?
そうそう、それを調べてる途中で力尽きたんだった。
あ、そうか。サンダラからベズリーシアに押し付けられたってあれね。
私のことか。
押し付ける荷物自身が勝手に運ばれていくんだから、サンダラも楽なことだっただろう。
「取り敢えず二日酔いに利く飲み物入れたでありますよ」
ベズリーシアは得体のしれない飲み物を、マグカップにたっぷりと入れて手渡してきた。
その色はからし色というか。え、なにこれ、発光してない? 微生物でも入ってるの?
「ん、んーありがとう」
飲む気は毛頭ない。かといって、出されてすぐにお断りするのも失礼な話だ。
それに私はお酒を飲んだらベロベロに酔ってしまうが、翌日まで響くことはあまりない。
今もぐっすり眠れたおかげで、身体はもうぴんぴんしている。
喉は丁度かわいている。それでも目の前のこの飲み物を口にすることはないだろう。
この眼の前の飲み物は、砂漠化何処かで今すぐ何かのまないと死ぬ、というような状況になって初めて考慮するに値するだろうか。
ん? ぐっすり?
「ということはいま何時?」
「朝の6時でありますよ」
あれ、意外と時間が経ってない。
「にしても自分ももー流石に眠たいであります。実を言うとリリス先輩の見張りをしていたので一睡もしてないのでありますよ」
あぁ、それでさっきから欠伸を噛み殺していたのね。
悪いことをしたね。
「よーし、じゃあ一緒に寝ましょう! さ! 横においで!」
リリスは布団をがばっと開けて、ポンポンとシーツを叩いた。
「……先輩、まだ酔ってるんでありますか。もーいい加減に開放してほしいでありますよ」
ベズリーシアは盛大にため息をつきながら、天井を仰いだ。
なんだろう。
軽い冗談だったのに。
それだけ迷惑をかけたってことなんだろう。
全然記憶はないんだけど。
……本当にごめんなさい。
「じゃあ私は起きるからさ。ここのベッド使っちゃってよ。うん。なんかごめんね?」
しかし面と向かって謝罪するのも気が引けるので、爽やかを装って謝ることにする。
そしてとりあえずベッドから出ようとして――、
「ちょ! え? あ、あれ?」
「リリス先輩は起きる時も騒がしいでありますねぇ。冒険している頃はもっとおしとやかなイメージだったんでありますが」
「いや! あの頃でもこんな状況になったら慌てるから!」
やけに動きやすい下半身!
布団の感触が直に伝わっていて、俗にいうスースーするという感触!
「私のパンツは!?」
なんで剥がされてるわけ!?
酔っ払うってそこまで大罪なの?
「あぁ、リリス先輩の下着ならあそこに干してあるでありますよ」
「私のだったぁあああああ!!」
なんてこった! 折角ランタルマウス君好きの仲間ができたとおもったのに!
確かによく見たらめっちゃ見覚えがあるぅううう!
「取り敢えずもう乾いているはずであります」
「私の下着に何があったの!?」
おもらしなんだろうか?
おもらしをこの歳でやらかしたのかなぁ!?
「それは勿論、リリス先輩が――」
「待って。やっぱりいい」
聞きたくない。
聞きたくない。
これ以上聞いてしまうと自己嫌悪で死んでしまう。
というかベズリーシアの表情を見ただけで、なんとなく分かっっちゃったし。
……お酒控えようかな。あれ、これいつも言ってる気がする。
「では自分は少し仮眠をとらせてもらうでありますよ。先輩はゆっくりしていてください」
欠伸をしながらベズリーシアは別の部屋に消えていった。そこが恐らく彼女の寝室なのだろう。
残されたリリスは暇を持て余し、テレビをつけてみた。
魔術の発達により、家にいながら世界中のありとあらゆる情報が手に入るようになったのである。
確かベズリーシアも、ミッドベジリアの大ホールで私が講演した時、テレビで見ていたとか言っていた。
まさかイスカルというこんな片田舎にまでテレビは普及しているとは思っていなかったけど。
「ん?」
どこのチャンネルにまわしていても、どこかの平野が映しだされているだけだ。
なにこれ?
『――、らが行われ――』
んんー。
イスカルまでは魔術波がうまくとんで来ないのか。
映像も音声もノイズがのりまくっていて、よく見えないし、よく聞こえない。
カメラが反転したようだ。
どうやら平野のど真ん中から撮影しているらしい。カメラが反対側を向いたところでそこには平野が広がっている。ただそこにはテントらしきものがたくさん映っている。
テントの脇では至る所で焚き火が行われている。その焚き火を囲って兵士が談笑している。
……なんだこの映像。
どうしてこんなものを受信しているのか。
――途端にカメラがぶれた。
空が映し出している。
青空だ。雲ひとつない。いい天気だしキャンプでもしているのか。
兵隊の訓練の様子でもまとめたドキュメント映像なんだろうか。
……、いや。
空にひとつだけ雲があった。雲? 違う、それは段々と大きくなっていった。
赤い鱗に鋭い2つの角。
それは空を切り裂きながら両翼で滑空している。
恐らくものすごいスピードだ。小さな影は即座に大きくなり、そしてカメラの上空を過ぎ去っていった。
まるで大型の飛行船だった。かなりの質量がものすごい速さでわずか上空を駆け抜けたのだ。
そこから暴風が吹き荒れた。
テントがいくつも吹き飛ばされ、何人かの兵士も宙を舞った。
「なにこれ」
なんで原始龍がいるの? もう実在してないんじゃなかったの?
私の声は震えていた。
合成映像? 騙そうとしているの?
嘘でしょ?
『――ジルカの――、のドラゴンに崩壊に――ダマス城も――』
……。
マジルカ。
ドラゴン。
ダマス城。
なるほど。
つながった。
だけど……私は最低だ。
戦争を止めたかった。
その気持は本当だ。
そして今、恐らくあのドラゴンがダマス城を崩壊させたから戦争は終わったのだということもなんとなく想像がつく。
だけど今はその全てがどうでもいい。
あの映像が本物であれば。
あのドラゴンに乗っていた人影はどう説明がつくというのか。
気のせいかもしれない。
ただの願望かもしれない。
私がまだ酔っ払ってるだけかもしれない。
それでも見間違えない。
見間違えたりするものか。
誰よりもその背中を支えてきて、誰よりも長い時間その隣に立っていた私だ。
そのドラゴンの上に見えた人影。
少しだけしか見えなかった。恐らく隠れているつもりだったのだろうが、私にはしっかりと見えた。
とびとびの映像で、震えるカメラのアングルで。
それでもはっきりと見えた。
それは勇者だった。




