理由は見ていてむかつくから
「まさかマジルカの軍事基地の代表があぁんな腑抜けだなんて呆れちゃうわぁ」
帰り際にサンダラは両肩をすくめながら、そんなことをぼやいた。
「でも結果オーライでしょ? なんかそんな感じだったよね?」
「……まぁねぇ。それでも虚勢くらいも張れないのかしらぁ」
虚勢ねぇ。
「前にドク城に行ったときは、私あしらわれたんだけど」
確かクローディアといったか。
騎兵隊の魔法を打ち消したり、騎兵隊の首を差し上げるとか言ってみたり、挙句ドク城に勧誘されたり。
今思えばなんだあの人。
さっき会った人の反応が普通なんでしょ? やっぱり。
「それはその人が優秀だったからでしょお? もしくはリリスが舐められてたかねぇ。内心はびくびくしてたはずだわぁ」
そんなもんなの?
確かに私は偉そうにするのは好きじゃないから、っていうのもあるかもしれないけど。
「偉い人が偉い訳じゃないんだよ。偉く振舞うから偉いんだ」
ユーミルが口を挟んできた。
久々に声を発したと思ったら、案の定訳の分からないことを言っている。
「はぁ? 振舞わなくたって偉いでしょ?」
王様とかだって偉いじゃん。
何もしなくても偉いじゃん。
「振る舞いって言ってもぉ、行動ってわけじゃあないわよぉ? 容姿、言動、ぜーんぶひっくるめてよぉ? 王様だって護衛もつけないでぇ、庶民の格好をしていればぁ、だぁれも崇めたりなんてしないわよぉ?」
むぅ。
それは確かにそうかもしれないけど。
「あしらわれたって言ってもぉ、どうせリリスのことだからぁ……普通の格好して普通の話しぶりでぇ、ついでに口元にトマトソースでもつけてたんじゃないのぉ? ふふ」
「ねぇ、絶対覗き見してるでしょ? してるわよね? ねぇ? 白状しなさい」
何故それを知っている。
私があの後、鏡を見て絶望したのを何故知っている!
というかあの人もあの人よね。さりげなく教えてくれてもいいのに!
もしかして、あの時言ってた、分かります! ってそういう意味だったの……?
お昼にトマト料理食べたの分かりますよ! って意味だったの?
……考えすぎか。
「じゃあ用事も済ませたしぃ、これからダマス城に戻って魔法陣の無力化ねぇ?」
くそ。
コトが終わったら絶対に白状させてやる。
私の身の回りに盗像器でもつけてるのかなぁ。
「でも取り敢えず今日はここで一休みしてからねぇ」
今は丁度お昼ご飯時である。
小腹も空いたし、それにダマス城で何かをやるのも夜の方が何かと都合が良いだろう。
リリス達はここで夜まで時間を潰し、それから城に潜入することに決めた。
「折角だから美味しいものを食べたいけどぉ……」
サンダラが言いよどんだのも理由がある。
ここら辺の地域は食料事情が芳しくないため、隣国からの輸出入でなんとか賄っている。だから世界各国の料理が取り揃えられるのだが、今は戦争中であるためそれも厳しい。
今更ながら、よくこの国に入れたな、とリリスは人知れず感心していた。
「魔術の携帯食ならたくさんあるよ」
ユーミルがにこやかに提案してきた。
「それは却下ね。冒険時代に嫌と言うほど食べてきたし」
魔術の携帯食。
超便利な携帯食であり、ここマジルカが発祥の地である。
そもそもアレはなんなんだろうか。カスミ? 霧? 煙?
なんだかモフモフというか、フワフワしているものを袋から取り出して口に入れるとアラ不思議。パッケージに記載されている味がするのである。
ステーキからサンドイッチ、サラダにピザ味と種類は豊富だ。
噛むこともなく、その煙を吸うだけで、栄養もばっちり補給できるという魔法のアイテムである。中身が煙だからたくさん持ち歩いても重くはならない。
戦闘中に小腹が空いても大丈夫! これなら舌を噛むこともないからね! とよく分からない魔法使いっぽいキャラクターが喋っているパッケージが特徴だ。ちなみに私はこのキャラクターが大嫌いだ。理由は見ていてむかつくから。
冒険時代には特に何とも思わずに食べていたのだが、得体の知らないものを口にし続けていると謎の嫌悪感が発生するのだ。
もしかしてこれは身体に悪いものなんじゃなかろうか。そんな疑念を一度でも抱いた人は私と同じ気持ちになる。
食べることに対して抵抗が生まれてくるのである。そして最終的に見るだけで嫌いになり、このパッケージのキャラに憎悪が集まるのである。
「そうなの? 好きだから食べてたんだと思ってた」
「他に食べるものがなかったからよ!」
人生でアレを食べるのはもう二度とないだろう。
「マジルカ限定のぉ、イモムシ味なんてのもぉあるみたいよぉ? うふふ、後でゲームをして罰ゲームで食べてみなぁい?」
「ぜっっっっっっっっっったいにお断りします! ユーミルと2人でやっててください!」
何? この女馬鹿なの?
なんでそんなことやる必要があるわけ? 本当に馬鹿なんじゃない?
「もぅ、冗談なのにぃ」
サンダラとユーミルは早歩きになったリリスに追いつくために小走りで追いついた。
夕方まで休める場所を探し、宿の一室を借りてリリス達は雑談をしていた。それも誰かが昼寝を始めるまでで、1人が寝てしまうと眠気というのは感染するものらしい。結局は3人共が居眠りを始めた。
そして一番初めに目を覚ましたのはリリスであった。
やけに外が騒がしいのである。
部屋は既に真っ暗である。どう見ても夕方という時分を通り過ぎ、夜であった。
あちゃーという感想を内心で抱きつつ、宿の外に出てみた。
遠くから音楽が聞こえる。それにうっすらと明かりが見える。恐らく大掛かりな焚き火でもしているんだろうか。
周りの人間は嬉々とした表情で街の大広間がある場所に駆け寄っていた。そういえば宿のカウンターにいた人もいなくなっていた。
大広間で一体何が行われているんだろうか。
リリスは欠伸をかみ殺しながら、周りの人間に流されるように大広間に向かった。
そこでは大騒ぎがなされていた。
全員が片手にジョッキを持ち、大笑いをしている。
食事が色とりどりに並べられ、兵隊、街の人、区別なく楽しそうに笑いながらその食事を口にしていた。
中央では魔法で形成されたのだろう、焚き火が催されており、その周りを囲うように男女でダンスを踊っていた。
これが戦争中の国のやることか?
もしかして自暴自棄になっているのか?
リリスは不安になって近くの人間を捕まえて、何の騒ぎかと問いただしてみた。
その返事を聞いてリリスは唖然とすることとなった。
「戦争が終わったんだよ! ダマス城が降伏してきやがったんだ!」




