この棒でやらしいことするんだ!
「と、ちょ! ちょっと! 起きて! 起きて!」
部屋に飛び込んで明かりをつける前にリリスは大声をあげた。
「んもぅ……なによぉ……」
「戦争が終わったのよ! 終わったって!」
「そんな嘘つかなくてもぉ……ちゃぁんと起きるわよぉ……あと1時間後にぃ」
そんな腑抜けたことを言っているサンダラの布団カバーをリリスは剥がした。
「やぁん」
「変な声だすなや」
こっちは割りと深刻な感じなのに。
シーツの上でぐねぐねと動きをしているサンダラは一時期放っておいて。
「ユーミルも起き……」
ユーミルのベッドに駆け寄り、しかしそこはもぬけの殻であった。
「あれ? ユーミルは?」
「知らないわよぉ」
どこ行った?
私が起きたときはまだ寝てたと思うけど。
「それでぇ? なんだってぇ? もう出かけるのぉ?」
サンダラは伸びをしつつ、上半身を起こした。
なんとだらしない格好だろうか。少し布をずらすだけでその乳房がポロリと零れ落ちそうだ。
その巨大な2つの乳房に対して、リリスはしっかりと舌打ちという挨拶を忘れない。
「いや、出かける必要が……なくなった?」
リリス自身まだ整理がついていない。
戦争が終わったということはもう魔法陣を解除しなくてもよいということであって。
もうダマス城に行く必要もないわけで?
「……どういうことよぉ」
サンダラも少しずつ頭が冴えてきたのだろうか、リリスの話に耳を傾け始めた。
「外で大騒ぎしてるの! 祝勝会、みたいな」
「ちょっとぉ! それを早く言いなさいよぉ! お酒呑むわよぉ」
サンダラはベッドから飛び起き、洗面所に向かっていった。
「ふざけてる場合じゃないんだからね!」
リリスは喝を入れるが、サンダラはどこ吹く風だ。
「分かってるわよぉ。じゃあリリスに聞くけどぉ、どぉして戦争が終わったかどうかって情報はぁ、ここにいれば掴めるっていうのぉ?」
うぐっ。
サンダラは顔を洗いながら、なかなかどうして的確な指摘をしてみせた。
「ホラ、いいじゃなぁい。悩みが解決したんだからぁ」
「それはそうだけどぉ」
なんか釈然としない。
気分としてはトンビに油揚げをさらわれたような気持ちだ。
「リリスのことだからぁ、自分が関与してないのが歯がゆいんでしょお? リリスってばぁ、世界は自分を中心に回ってるって本気で思ってるんだもんねぇ」
「そ、そんなことはない! ……と思うんだけ……どぉ」
いや。
えと。
……あれぇ?
なんかしっくりと言い返せない。
……まさか図星だからなんだろうか。
…………。
……。
図星だ。
「……どうしたのぉ」
「……自分が恥ずかしいデス……」
あっれー?
私っていつからこんな考え方になったんだろ?
「誰でもそう思ってるからぁ、そんなに気に病む必要もないわよぉ」
アタイがいじっといてなんだけどねぇ、とサンダラは鏡を見ながら軽く化粧を施していた。
サンダラでむかつくといえば、この化粧も上げられる。
本当に、軽く、なのである。
絶対に適テキトーにやってるはずなのに、仕上がりは完璧なのである。というか化粧いらねーだろっていう地のレベルの高さがある。
私の朝のバタバタする時間は一体なんなのか。
まぁ最近じゃあ、化粧をするといっても軽く身だしなみを整えるだけになってるんだけどね。
私もまだまだサンダラに負けずとも劣らずな肌のレベルのはずだ。
……同じくらいのレベルのはずだ。
これは願望とかじゃなくて、客観的な評価だ!
「んじゃ、リリスもいきましょお?」
サンダラはリリスの手を引いて部屋を飛び出した。
「あ、うん……」
色々と思うところはあったが、サンダラの言うことに間違いは見出せない。
お酒は程ほどに、私は情報の収集に努めよう。
それに、とリリスはお腹をさする。
何かの拍子にまぎれただろう、お腹が鳴った音をサンダラに聞かれなくてよかった。
聞かれていたら絶対にいじられていたに違いない。
……少しお腹に何か入れてから、情報を集め始めても遅くはないでしょ。うん。
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
「なんでも、戦争をできる状態にないと言ってダマスが降伏したらしいですよ」
「なるほど」
リリスは水ドレイクのから揚げをパクリと口にした。
「ダマスがどこかから襲われた、という話もきいたんだけど本当かなぁ?」
「興味深いですね」
リリスはクイドランの丸焼きに齧りついた。
「お祝いだっていうのに……マジルカの兵隊はどこにいったのかしらねぇ?」
「そういえば姿が見えませんね」
リリスはガンバルフィッシュの刺身を摘んだ。
「なんでも誰かが暗躍していたとか……まぁ嘘でしょうな! はっはっは!」
「あっはっは」
リリスはシーザーサラダをもりもりと食べた。
「まぁまぁ! そんなことよりも! ぱーっと飲みましょうや!」
「そうですね! いぇーい!」
リリスはビールをぐいっと煽った。
「なんでも、戦争をできる状態にないと言ってダマスが降伏したらしいですよ」
「あ、この人さっきも話したわ」
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
「あぁー楽しい」
リリスは目をぐるぐると回しながら、よっこいしょと椅子に座った。
「……結局何か情報は集まったのぉ?」
「あぁ! サンダラじゃーん! 飲んでるのぉ? うぇーい! あっひゃっひゃ!」
「……まぁなんとなく分かってたけどねぇ」
サンダラは苦笑を漏らしながら、リリスの隣に腰掛けた。
「杖、貸しなさぁい」
「いやん! なんでよぉ!」
リリスは笑いながら身をよじっていた。
リリスの酒癖が悪いのは今に始まったことではない。
「前みたいにぃ、ベズリーシアに会いに行くぅ! とか言って魔法を使わせないためによぉ」
ただ、前回酔っ払ったまま魔法を使い始めるとは思ってもいなかっただけに対処が遅れたのである。
リリスの身体に取り付けている、周りの映像と位置を把握する魔術虫を取り付けていなければ、ダマス城に囚われたときも、そしてイスカル近くの森に墜落したときにベズリーシアをけしかける事も不可能だっただろう。
その魔術虫もダマス城に捕まったときに払われてしまったようだが、今酔っ払っているのをいいことに、再びサンダラはその虫をリリスに取り付けた。
「とか言って! この棒でやらしいことするんだ! うわぁ! サンダラってば万年欲情してるからなぁ!」
サンダラはこの程度のことでは怒りはしない。
お酒を飲むと駄目になるのはいつものことだ。
子供ができたからだろうか。今ではリリスのことをもう一人の娘のように扱っていた。
「あぁん」
リリスの懐から杖を取り上げ、ひとまずは一安心だ。
後きにするべき点はユーミルである。
リリスはユーミルのことを低く評価しているようだが、実際はユーミルの奥深さにリリスが気付いていないだけである。
リリスのパンツを調べるように、というサンダラの指令さえなければ、リリスもユーミルのことを高く評価していたかもしれないが、それは意味のない仮定の話だ。
「ま、ユーミルのことだから遊んでるわけじゃないとは思うけどぉ」
それでもサンダラは少し不安に思っていた。
隣で飲んだくれている小娘は置いておくとして。
この地域で一体何が起こっているのか。そしてマジルカの兵士は全員揃ってどこへ行ったというのか。
「……サンダラちゃん、ここにいたのかい」
「あらぁ、ユーミルぅ、どこにいってたのよぉ」
「へい! ユーミル! アンタも飲みなさい! ホラぁ!」
リリスのおふざけも聞こえていないのか、ユーミルは深刻な表情でサンダラに告げた。
「魔物の群れがここに近づいてきてる」
その声はかなり抑えられたものだった。
「なぁにぃ? 内緒話? なんなにょよもぉ」
だからそこな酔っ払いにその声は届かなかった。




