その、なんというか……あれだよ!
「戦争を止めるってぇ……まぁ止まるといいわねぇ」
サンダラは子供の虚言に付き合ってあげているような優しい眼差しで、リリスを見ていた。
「ちょっと! 協力してよ!」
「いやよぉ。協力したところでメリットもないしぃ? そもそも無理な話じゃなぁい?」
くそ! サンダラのくせに的確だ。
「僕は手伝ってもいいよ」
「アンタは……いや、ありがとう」
ニコニコとしながらユーミルは優しい言葉を掛けてくれる。
……でもユーミルの頭はあまり良くないからなぁ。
力仕事があるときしか役に立たないわけで。
そしてこの戦争を止めるって舞台じゃ力仕事なんて必要がないわけで。
「まぁ精々2人でがんばりなさいよぉ? アタイはそろそろ行くわぁ」
「ちょ、ちょ! ちょっとまってよぉ! ここまで来たんだから! ね? なんか手伝ってよ!」
「やぁん、はなしなさいよぉ。アタイは関係ないでしょお? そもそもどうしてそんな必死なのよぉ?」
リリスはそのサンダラの太ももにしがみつく。
「折角魔王を倒したのに! 折角平和になったっていうのに戦争をされるなんて癪でしょ!?」
サンダラを見上げながら、リリスは食い下がる。
さながら蛇のようにその両腕をサンダラの足に絡みつかせる。
「当の本人達がやりたいんだから仕方がないでしょお?」
それにぃ、とサンダラは部屋を出るのを一旦諦め、リリスと向き合った。
「平和になったからこそ戦争もできるんでしょう? 平和にしてからぁ、あーしろ、こーしろって言ってもねぇ、それはリリスの独裁になるんじゃないのぉ?」
「だ、だって! 戦争は良くないって思うもん! たくさん人が死んじゃうんだし!」
「これだからお子様は嫌になるわぁ? 戦争がなくなったら今まで武器や鎧を作ってた人はどうなるのぉ? リリスの弁では武器を使う人が死ぬんじゃなくて、武器を作る人が死ぬだけよぉ?」
結局は全ての国が戦うことを望んでいるのである。
それは国の産業を維持するため、そして市民の裕福な生活を得るためである。
「産業が衰退すればそれだけ経済の流通が悪くなるわねぇ。そうしたら税金も徴収できなくなるしぃ? トップの人たちは美味しいご飯が食べられなくなるわねぇ? ほらぁ、戦争する理由ができたわぁ」
「なにそれ! ばっかじゃないの!」
「馬鹿って分かるのは戦争を起こした後よぉ。戦争っていうのが意味のないものだと世論に分からせるために今回勝手にさせていればいいのよぉ」
「じゃあ今、戦争が無意味って分かってる私達だけでも阻止するように動かなきゃじゃん!」
「だぁかぁらぁ! 私達だけじゃ、何もできないっていってるでしょう?」
「なんとかする!」
売り言葉に買い言葉というヤツだ。
リリスとしても半ばヤケだ。
サンダラはリリスのそのまっすぐな目を見てしまった。
この目をしたリリスを折れさせるのは無理であるということをサンダラは冒険時代の頃から知っている。
「ちょっとぉ、ユーミルからもなんか言ってやってよぉ」
ユーミルはずっとニコニコしながら2人のやりとりを見守り続けていた。そこに助け舟を求めてサンダラはユーミルに話を振った。
「平和になったから戦争ができる。でも戦争を止めるのも平和になったからこそできることだよね」
サンダラは痴呆の老人を見るような目でユーミルを見ていた。
リリスもユーミルの発言の意味を理解できていなかった。それでも、ん、でもさっき味方してくれるって言ったよね? うん、オッケーオッケー、とあまり深く気にしていなかった。
「……はぁ、分かったわよぉ。付き合うわよぉ」
サンダラは心底面倒臭そうにはぁあああああ、と長いため息をついた。
「なんかリリスってばぁ、勇者っぽくなってきたわねぇ」
それは褒めているのか、それとも貶しているのか。
ニュアンス的にはリリスに対しての皮肉なのだろうが、サンダラのその表情はどこか嬉しそうにも見えた。
「それで? 何かアイデアでもあるわけぇ?」
「まだないわ! だから一緒に考えましょう!」
サンダラは再び、深い深いため息を吐いた。
「確かにぃ、協力するとは言ったけどぉ……アタイにそんな奇抜な発想はでてこないわよぉ?」
「むぅ」
それはリリスにも分かっている。
というかやっぱ無理かもしれないとさえ思う。
戦争をやめさせたいとは思う。だけどあまりにも非現実的なのも分かっている。
それでもやる前から諦めるんじゃなくて、やってみてから後悔をしたいのである。
ユーミルが手を上げている。
別に挙手をして発言するというルールにしている訳ではないのだが、誰かが話を振らない限り何も話をしなさそうだ。
「ユーミル、何かアイデアが出てきたの?」
あまり期待を込めていない視線でリリスはユーミルに話を促した。
「戦争をやめさせるって具体的にどうすれば目的達成なのかな?」
「具体的にって……戦争をやめさせることに決まってるでしょ!」
「ユーミルが言ってるのはぁ、もっと根本的な部分を言っているんでしょう?」
根本的な部分?
「例えばお互いが交易を再開するとかぁ、魔法陣の展開を取り下げるとかぁ」
どちらであっても、それは戦争が終結していなければなしえないことだ。
交易を再開させるのであれば、お互いに共存しなければならない状況を作り上げれば良い。魔法陣を維持できなくなってしまえば、ダマスの降伏という形になってしまうが、少なくとも戦争は終結するだろう。ならばそのシステムを崩壊させてしまえばいい。
「魔法陣の展開って……確か魔法使いを閉じ込めてそこからMPを吸い取ってるんだっけ」
私もただの養分にされてしまうところだった。
それをサンダラに助けてもらえたというわけだ。
「そうねぇ。あの施設さえどうにかしてしまえばぁ、維持できなくなりそうねぇ」
「ふふ、戦争を止める突破方法を見つけてしまったようね……」
根本的に考えるというのはこういうことなのか。
施設を丸ごと吹き飛ばすというのはさておき、停止させるくらいならできなくもなさそうだ。
フンス! と鼻息を荒げてやる気を出しているリリスにサンダラは口を挟む。
「思いっきりマジルカに対して肩入れすることになりそうだけど……いいのぉ?」
…………。
「そ、そこは、マジルカに事前に、その、なんというか……あれだよ!」
腕を組み、そんな考えなしの発言を堂々と言い放ったリリス。
どうやら先は長そうである。




