深刻な遅漏
4月からネット環境が整うまではお休み。無念。
聞くところによると、この城下町ダマスは現在魔法都市マジルカと戦争状態にあるという。
しかし戦争といっても、兵士がワーワーと戦って城を攻め落とす訳ではない。そこは魔法都市マジルカ。遠距離からの魔法攻撃で城を落とすという訳だ。
対してダマスはというと、大量の物量で長期戦に持ち込んでいるという。
「ちなみにどこでそんな情報を仕入れてくるのよ」
「んふぅ、色々な国にアタイに惚れてる男がいるのよぉ?」
さいで。
それで情報を聞き出してるってか。
「ちなみにダマスには2人いるわぁ」
「知らん」
「一人はイケメンだけど下手クソでぇ、もう一人は深刻な遅漏君よぉ」
「知らん!」
ここで、何がヘタクソなの? とか突っ込んだら負けなのは分かっている。
つーかコイツ旦那いんだろうが。
お腹に赤ちゃんもいんじゃないの?
子供もいるんだろうに。
「リリスの救助に遅れたのも、アイツが遅かったからなのよぉ。ごめんねぇ?」
その話はもういい!
リリスは話を戻すことにした。
「それで、どうして戦争なんかが起きちゃってるのよ」
「んもぅ、リリスってば相変わらず真面目ねぇ。そんなんだから――」
ちらり、とサンダラはリリスの方を見やった。
そこでサンダラの目には何か恐ろしいものが映ったようだった。
長々とリリスについて駄目だしをしてやろうと思っていたのだが、サンダラは真面目に説明することにした。
「まず2つの国の特徴は知っているかしらぁ?」
「……魔法が盛んな国と土地が有り余ってる国って印象しかないけど」
マジルカの食料事情は芳しくない。そこで得意の魔法産業を駆使して、ダマスを中心とした隣国とのやりとりで食料を賄ってきていた。
お互いに友好な関係性を持っていた。それがどうして今は戦争などという状況に陥ってしまっているのか。
「なんでもぉ、管轄の問題らしいわよぉ? 国境付近で問題が起きてぇ。それをどっちが処理するかで揉めたってきいたわぁ」
問題?
「何かお宝でも出て、どちらの取り分かとかそういう?」
「お宝はお宝でもぉ、負の財産よねぇ」
サンダラは足を組み替えながら、首をかしげた。
「山賊が現れたとかぁ、言ってたわぁ」
またか。
どうせサザンドリアの兵士だとかそういうことなんだろう。
「それでどっちの国が討伐するかって話よねぇ。あぁ、最初はねぇ? 協力してやりましょうって話が出ていたのよぉ?」
普通に考えればそれが手っ取り早そうだ。
魔法の力と兵隊の力が組み合わさって最強に見える。山賊を駆逐するのも簡単だろう。
「でもねぇ、相手は魔物じゃなくて人間なのよぉ」
「……? 当たり前じゃない。それがどうかしたの?」
分かってないわねぇ、とサンダラは肩をすくめた。
人間相手には躊躇したとか、そういうことを言い出し始めるの?
「見分けがつかなかった……んじゃないかな」
意外な横槍を入れてきたのはユーミルであった。
「はぁ? 山賊かそれとも味方の国か普通分かるでしょ?」
「それがそうでもなかったのよぉ。山賊って言ってもリリスが想像してるものじゃないのよぉ。完全に重装備してて、まるでどっかの軍隊そのものだったらしいのよぉ」
……。
ドク城で聞いた話が蘇る。
それは恐らく山賊じゃなくて、本当はもとどっかの国の兵士なんだろう。
それも魔王がいなくなったからお払い箱になった兵士だ。
「それでもう大荒れよぉ? たかだかの山賊相手に2ヶ国が大敗を喫するって話聞いてないのぉ? それで特に損害の大きかったダマスがマジルカに対して賠償要求してぇ、それを拒否ったんだっけぇ? それで戦争が始まったってわけよぉ」
ダマスの兵士の大半はマジルカの兵士の魔法にやられたのだと主張しているようだ。それで損害を賠償してもらうと。
……無茶苦茶な道理だ。
聞いてるだけで頭が痛くなってくる。
世界規模でここまでこじれてしまうと、ドク城に協力してサザンドリアをなんとかした方が良かった気もしてくる。
「って待って、じゃあ山賊はまだいるってこと?」
「そうねぇ。誰も討伐してないわねぇ?」
「その山賊はどこで何をしているの?」
「知らないわぁ。アタイはその山賊一味じゃないものぉ」
放置されていても、特に問題を起こさない山賊。
戦争が始まるや否や、待ってましたと言わんばかりに、マジルカ対策の魔法打消し陣を国を囲む程の大規模で出力。
ここまでお膳立てされていて、全てが偶然だなんて思う訳がない。
馬鹿でも分かる。
ダマスが戦争をしたかっただけだ。
「言ったでしょお? この国は今治安が悪いのよぉ」
戦争が始まれば、国を取り締まる兵士も国外に赴くことになる。
すると必然的に犯罪を取り締まれなくなる。結果なんでもありの国になってしまう。
「……どうして戦争をするのかしら」
頭を抱えながらリリスは、搾り出すような声でサンダラに問いかけた。
「さぁねぇ」
サンダラはこの件にあまり深く関わるつもりもないのだろう。飄々とした表情でおどけて見せた。
「サンダラはどう思うのよ」
「どう思ってもぉ、なるようにしかならないわよぉ。戦争が本格化する前に逃げ出すくらいかしらぁ?」
リリスはそのまま部屋の隅で話を黙って聞いていたユーミルにも視線を向けた。
「僕も関係ないかな。エルフの集落に被害が出そうになったら何か考えるけど」
そうか。
確かに自分には直接関係がない。
マジルカにもダマスにも大した思い入れはない。勝手に潰しあってくれ、という感じになるのも分かる。
しかし。
それでも。
こんなことのために魔王を倒したんじゃないのに、とリリスは思っていた。
平和によって生まれた余力をどうして隣国にぶつけてしまうのか?
リリスは思ったら行動をせずにはいられなかった。
「……よし、戦争をやめさせる」




