お子様パンツを穿いてるなんて……
「お帰り、ユーミルちゃん」
サンダラが案内するまま、街の宿まで帰ってきた。
部屋では、平然とした様子でユーミルがベッドの上に腰掛けている。
例によって、私の荷物を漁って下着を物色していた。
「あんた何してるの」
「いや、旅行中はどんな下着を穿くのかな? って思って……」
…………。
怒る気力が今はない。
ただ早く着替えたい。
「丁度良かった。サンダラちゃん、リリスちゃんの下着の傾向は、旅行中でもやっぱりキャラものだったことが――」
「ん?」
サンダラがユーミルの口を塞いでいるところであった。
「いやぁ? なんでもないわぁ?」
「なんでもないことはないでしょ? どうしてわざわざユーミルがサンダラに報告してるの?」
なに?
ユーミルがただの馬鹿だから下着を漁ってたわけじゃなくて、もしかして。
……サンダラからの指示があったの?
「……、ぶふ、だ、だってぇ……、まさか……ふふ、まだお子様パンツを穿いてるなんて……思いたくなくてぇ……あっはははっははは!」
ユーミルの口を塞いでいたサンダラであったが、腹の奥底からこみ上げてくる笑いを堪え切れなかったようだ。そのままユーミルを放置し、笑い転げてしまった。
「何、何なの。ユーミルはサンダラから何を言われてたの」
「その歳になってもまだ下着の趣味が変わってないか、サンダラちゃんは心配してたみたいだよ」
だからその確認として僕が頼まれたわけ、とユーミル。
ふぅーん。
あぁ、そうか。
なんか色々と分かった気がする。
冒険してた頃、サンダラはよく着替え中の私を見て笑っていた。
それは私の貧相な胸を見て、馬鹿にしてるんだろうと思っていたけど、そうじゃなかったらしい。
その視線は私の下着に向いていたようだ。正確に言うと、下着にプリントされているランタルマウス君に。
許せん。
「ひひ、その歳でぇ、ランタルマウス君の下着はぁ……っくく、ほんとリリスってばおもしろすぎぃ」
しまいにはサンダラは床に突っ伏してしまった。
腹を抱えて笑われてしまうと、なんとも言えなくなる。
それほどまでやばいのか。
もっと大人の下着にしようかな。
……でもそれもやることを済ませてからだ。
カバンの中から予備の杖をすっと取り出した。
「はぁーおかしぃ。久々に笑ったわぁ……。あらぁ、リリスぅ、そんな怖い顔してどうしたのぉ? ほ、ホラぁ、女は笑顔が大事よぉ? ……そうよぉ、その笑顔よぉ? あ、待ってぇ、リリスのその笑顔見てるとぉ……何かトラウマがよみがえ……いや、やっぱり怒ってるほうがリリスらしいわよぉ? だからその杖をしまってぇ? ねぇ? あ、ちょ、だめだめだめぇ!」
「なんか記憶がごっそり抜け落ちてるんだけどぉ……アタイはリリスを助けたのよねぇ? どうしてユーミルは泣いてるのぉ?」
「人間って怖いんだねぇ、それに魔法の偉大さっていうものを知ったよ……」
「? リリスぅ、ユーミルは何を言ってるのぉ?」
「知らん」
「……なんでリリスも不機嫌なのよぉ」
サンダラはひとりでヘソを曲げていたが、誰もそれを慰めようとはしなかった。
リリスは壁際のベッドで横になったまま、背中を向けていた。
「もう! 本当に助け甲斐がないわねぇ! リリスも死ぬところだったのよぉ?」
「死ぬなんていくらなんでもオーバーな……」
どんだけ自分の助けた行為に付加価値をつけたいのよ。
「というかそもそもどうしてこの国に入ろうとしたのよぉ? 今のこの国の情勢知ってるのぉ?」
勇者に関するの情報を集めるため、とはサンダラには言いづらい。
別に言ってもいいのだが、それをネタにまた馬鹿にされそうだ。
「情勢って言っても……平和そのものでしょーよ」
何のために魔王を倒したのよ。
世間知らずの女の子がオナニーしだすくらいに平和なのよ。
「平和な国が一般人を拉致するとでも思ってるのぉ? お馬鹿ぁ」
しないとは思う。
でも犯罪者が一人も居ない国なんてのも存在しない。
「それを国が見てみぬフリをしてるっていうのよぉ?」
そ、れは……。
そう、それだけがリリスにとっても腑に落ちないところであった。
リリスが閉じ込められていたのはどう考えても城の内部であったことには違いはない。
「まぁ、リリスの馬鹿みたいに溢れてるMPならぁ? この城に展開されてる魔法壁の動力源として働くのには丁度いいのかもしれないけどねぇ?」
「動力源?」
というかサンダラはどうしてこんなに詳しいの?
「この城の周りに魔法を打ち消す陣が展開されてるは知ってるわよねぇ?」
「……い、いや」
初耳である。
確かにユーミルも、何かの魔法が展開されていると言っていた。
そうか、あれはディスペルの効果があったのか。
だからこそ私の魔法も途中で打ち消され、墜落したんだろう。
……待てよ? 墜落?
妙な懐かしさを感じる。
最近、ユーミルと一緒以外でそれを経験したような気が……。
「そういえばサンダラ。前にミッドベジリアで一緒に飲んだ覚えある?」
「リリスったらあの時たっぷり飲んでたわねぇ」
「酒屋を出てから私がどこに向かったか覚えてる?」
「覚えてないのぉ? 家に帰れって言ったのにリリスってばぁ、久々にベズリーシアに会いに行くって言ってイスカルの方まで跳んでいったのよぉ?」
そんなこと言ってたの?
いや、そんなことを本当に言っていたのかはおいておくとして。
ミッドベジリアとイスカル。
頭の地図上でその2つの地点を結んでみる。
丁度その線上にこの城があるではないか。
「……ふふ、なるほどね。それであの時は魔法が切れて森に墜落したわけ? ふっふふ」
私はどう怒ればいいのかしら?
勝手にこんなクソ迷惑な魔法陣を展開してるこの国に怒ればいいの?
というかよく私も生きてたわね。
奇跡か。
「というかこの国はどうして馬鹿げた陣を展開してるのよ! 馬鹿じゃないの!? もう潰してやるわこんな国!」
「……アンタ本当によく癇癪起こすわねぇ」
サンダラは呆れた様子で肩を落とし、ユーミルはこの二人の様子をただニコニコとして見守っていた。
「まぁでもしょうがないわねぇ。戦争中の相手が魔法都市、マジルカだもんねぇ」
……え?
……戦争?
「………………この国って戦争中なの!?」




