……こんな場所で用を足せと?
やっと着いた。
日が沈みきり、ミレッジウルフの遠吠えが聞こえ始める頃合に城門までたどり着いた。
夕方くらいに城門まで着く予定だったのだが、この異常な大荷物のせいで大幅に工程が遅れてしまった。
門番に、行商の方ですか? と聞かれた時にぐっと疲労感が襲ってきた。
「取り敢えず宿を探そうか」
「…………」
疲れのあまりか、リリスはうな垂れていた頭を更に深くおろす事で首肯していた。
もうこの時間になってしまうと城に入るのも難しい。
勇者の手がかりは、城だけに残っているわけではないだろうが、今はこれくらいしか思いつかない。
明日の朝に行くことにし、今日のところはゆっくり休むことに決めていた。
「リリスちゃん、ほら歩いて」
そうだ。
街についたからといってもまだ休める訳ではない。
これからまた歩きながら、空き室を探し回るという作業が残っている。
「……いや! もう疲れた! ここで座ってる!」
リリスはそう言って石畳の上にぺたんと座り込んだ。
大した荷物も持っていないのに、とユーミルは思ったが口にはしない。そうすればリリスが怒るのは目に見えている。
そして恐らく眠ってしまったのか、両膝を抱えるように座り、頭を伏せていた。
「じゃあ宿を探せたらここに戻ってくるよ」
ユーミルもリリスと同じように疲れている。だがそれでも嫌な顔を見せずに行動を取れるのがユーミルなのである。
「…………」
リリスは感謝の念もあった。普通にお礼を言いたかった。
それでも床に座って目を閉じた瞬間、何もやる気が起きなくなってしまった。眠気が襲ってきているのを認識して、そのまま意識を手放し眠りの世界に落ちていった。
暖かい感触があった。
頭を少しだけ揺り動かすと、枕に頭を任せていることが分かった。
辺りは既に明るい。もう夜は明けたのか。
なんだっけ。
確か昨日はユーミルになんもかも任せて、噴水広場で眠ってしまった気がする。
あぁ、そうか。
あの後宿を見つけてから、ユーミルが恐らく運んでくれたんだろう。
後で謝る必要があるだろう。そしてありがとうといわなければならない。迷惑を掛けたら謝り、助けてもらったらお礼を言うのは常識だ。教会でも言ってる。
大きく伸びをしてから身体を起こしてみる。
そういえばどんな部屋を借りたのだろう。リリスは瞼をゴシゴシと擦ってから目を開いた。
「…………ん」
何の冗談?
ドッキリなの?
部屋の全てを見渡してみる。いや、見渡すというほどの作業を必要としなかった。
何もないのである。
白い壁で囲まれている。
この部屋にあるのはベッドと鉄扉、隅の方にトイレがある。
清潔感がある。牢屋という印象ではなく、どこかの実験室というような印象。
「コレ何? ユーミル? これが今時の宿なの? なんてところ借りたの?」
マニアックが過ぎる。こんな趣向を凝らした部屋なんて借りるのに大層のGを必要としたのではなかろうか。
「ねぇ、ユーミル! どっかにいるの?」
……段々と意識しないようにしていたことが現実味を帯び始めてきた。
これ。
宿とかじゃなくて。
閉じ込められてない?
いやいや、まさか。
まさかまさか。
もう一度何も考えずにベッドに横になろうかとも考えた。
これで鉄扉が開かなかったら、その可能性は高いがどうせ何事もなく開くに決まっている。
そうに決まっている。
少しだけ不安になり、一応杖を確認しようとして――、
「なんじゃこれ」
てっきりいつものローブを着ているものだと思っていたが、どうやらそうではなかった。
パジャマにしては簡素である。一枚だけ適当に身体に巻きつけているといった方が正確だろう。
当然、杖といったものも見当たらない。
……やば、
「くない! まだやばいって決まったわけじゃない!」
自分をうまく誤魔化す。
落ち着け。取り敢えず今何ができるか。
ベッドから起き上がり、部屋を物色することから始める。
狭い部屋であり、6歩も歩けば壁から壁に到達する。
→しらべる
→ベッド
部屋の中心に白いシーツが敷かれているベッドがある。
まだ温もりがある。ここで寝ていた人物はまだそう遠くにいっていないだろう。
……っていうかわたしだ。
→しらべる
→トイレ
、部屋の角っこには白い便器と手洗い場があった。
試しに蛇口を捻ってみると、問題なく水が出てきた。
……こんな場所で用を足せと?
→しらべる
→ドア
ドアノブはぴくりとも動かない。
……詰んだ。
→しらべる
→ドアの小窓
なんと鉄製でできている扉には、外の様子を覗けそうな小窓がついていた。
覗いてみようとも思ったが、リリスの背丈が足りなかった。
→しらべる
→ドアの口
なんと鉄製の扉の足元には、小さな開きそうな扉があった。
しかし脱出するには狭すぎる。
もしかしてここから食事とか提供されるのだろうか。
調べてみてわかったことがある。
リリスは完全に何者かに囚われていた。




