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……助かった?

 取り敢えず休職願いを教会に提出し、今までの貯蓄をがーっと豪快に卸し、旅支度を整えた。

 水、服、食事、予備の杖、回復薬。

 まぁ正直魔法でいつでも帰ってこれるからそんなに神経質になることもないんだけど。

 お互いの準備が済めば、村の入り口で落ち合うことを約束していた。

 リリスが入り口に来たときには既にユーミルは直立姿勢でその場に立っていた。

 ユーミルはその背中に大きな弓と大量の矢を詰めたケースがあるだけで、それ以外に何か用意していなかった。

「用意するのってそれだけでいいの」

「必要なものがあればその都度調達するよ」

 調達するって。

 お金もってるの? 言っとくけど貸さないからね?

「じゃあどこから探したほうがいいかな」

 計画性0!

 このイケメンは飄々とそんなことを言い出した。

 ……まぁでも私もこんな感じだったから探索をしようと思わなかったんだけどね。

「ユーミルは知らないかもしれないけど、勇者ってここしばらく一人で各国に呼ばれてたみたいなの」

 ドク城の理由は軍の勧誘。恐らくサザンドリアや他の国も同じような理由だろう。

 取り敢えず失踪する前の勇者の行動を辿れば何かしらのヒントにありつくはずだ。

「そうなんだ。流石僕達の勇者ちゃんだね」

 少なくともアナタのじゃないけどね。

「だから色々な国に行って見て、勇者の足取りを掴むことから始めましょう」

 魔法でビューンと跳んでいけば特に困難なくいけるはずだ。

 そう考えると、昔の冒険のときみたいに、こんな大荷物必要じゃなかったんじゃなかろうか。

 しかし何が起こるかわからないのが冒険である。備えあれば嬉しいのである。

「流石リリスちゃんだ。頼りになるね」

 ユーミルが頼りにならなすぎるのよ、というのはぐっと飲み込んでおく。

「じゃあ取り敢えず一番近くの城にいってみましょ」

 転移魔法を唱えると、身体が宙に浮く。

 自分の心臓が磁石に引っ張られる感覚。瞬きのひとつでもしている間に、視界には遠くまで広がる空の青と、下へと流れていく雲の白しか映らなくなる。

「――!」

 そして何よりも居心地がいいのが、隣に居るユーミルの声も聞こえなくなることだ。この風切りの轟音の環境ではどんなに声を張り上げても何も聞こえない。

 雲が次第に下ではなく、横に流れていく。十分上昇しきった後は目的地に向けて自由落下と合わせて落ちていく。

「あああああああああああ!」

 久々に私も大声を出してみる。それは思いのほか気持ちが良かった。

 確かに初めてこの魔法を試したときにもこんな声を出したかもしれない。

 死ぬかと思った。普通に。そして着地が無事に済んだ直後、嘔吐したのはいい思い出だ。

 視界に目的地である城が目に入る。王城ドクよりも少しこぢんまりしているが、外観は負けず劣らず豪華である。

「あ、あら?」

 そのまま目的地まで急降下するはずなのだが……。どうもこれは垂直落下している気がする。

 というか魔法が解けてない?

 嘘でしょ?

 空中何メートルか分からないが、この高さから落ちたらまず助からない。

「ス、スクリート!」


リリスは スクリートの 呪文を となえた!

リリスの しゅびりょくが 723 あがった!

ユーミルの しゅびりょくが 999 あがった!


 これでどれだけ威力が半減できるか分からないが、取り敢えずやらないよりマシか。

 地面が徐々に近づいてきている。そういえば隣のアイツはどうしてる? いや、今は他人を気遣っている余裕はない。

 後は何ができるか? 呪文を脳内で検索するがこの状況を打破する呪文がない。

 ――、ガッシ、と身体を掴まれた。

 そんな空中で抱きつくことができるのなんて一緒に絶賛落下中のユーミルくらいだ。

「――!」

 相変わらず何も聞こえない。

 だがその口から読みとれた言葉は、つかまって、であった。

 何かやるつもりなのか、今はワラにでもユーミルにでもしがみ付くくらいに余裕がない。

 リリスはそのままユーミルに全力で抱きついていた。

 既に地面は近い。このままだと死ぬしかない。思わずリリスは両目を閉じた。


ユーミルは 『グランドショット』を 放った!

魔力を 込めた 矢が 閃光となって つらぬく!


 ユーミルは魔力を込めた矢を一本だけ、着地地点に放った。

 その反動で少しは勢いが弱まったが、それでもまだ致命傷を避けれるものではない。

 しかしその矢は地面を抉りながら、ひとつの穴を穿っていた。

 どれだけ深く掘れているのかは不明であるが、少なくとも底は見えない。

 その穴にすっぽり、リリスとユーミルは入った。

 途端に暗くなる視界、土の匂いが広がる。

 ユーミルは矢を束ねて、それを横の穴に突き刺した。

 ガリガリと土を削りながら、しかし次第に落下の威力が弱まっていく。

 何本か矢が折れてしまったが……その全てが折れ切る前に落下の勢いを0にすることに成功していた。

「た、助かった……」

 リリスはそこでようやく目を開いた。だが……下を見ると、どこまで続いているのか分からない暗闇が広がっている。

 真上を見ると、小さく、小さく空が写っていた。地上はどうやらかなり遠のいてしまっている。

 ユーミルが矢から手を放した瞬間、どこまで掘られているのか分からない地面まで再び落下することになってしまう。

「……助かった?」

「どうだろうね」

 リリスの疑問にユーミルは律儀に返事をしていた。

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