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CODE-D  作者: ryu8
1章 終わりの始まり
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1-7.巻き込まれる人たち

 レイチェルによる修行の教育方針が変わってから1週間が経過した。

 最近になって2日に1回ぐらい魔獣が出現し、人々を襲うことが多くなっていた。

 礼二は修行の兼ね合いもあってか、彼女と共に魔獣との戦いが日常の風景になっている。

 男女の魔術師コンビは、高坂市にある普通科高校『高坂高校』のグラウンドにて現れた魔獣退治を行っていた。

「礼二、そっちいったわ!」

 先程まで彼女と戦っていた魔獣が礼二のもとへと突撃をしていく。

 距離は3メートル。魔弾で迎撃することは可能なはず。

 礼二は両肩の上から魔弾を出現させ、魔獣へと放つ。

 魔力の砲弾は魔獣の両腕にヒットし、綺麗な円を描きながら撃ち落とされた。

「じゃあな」

 礼二は、地面に這いつくばされて動けずにいた獣に魔弾で止めを刺す。

「3匹目!」

 魔術師見習いはノリノリで魔獣を狩り続けていく。

 残り2匹。気を抜かなければ大した問題ではない。

「終わったあ!」


 夜9時、本格的な闇が表に表れてくる頃に、駅前の広場から少し離れた公園で騒ぐ音が聞こえた。

 レイチェルと礼二は魔獣狩りと呼ばれる一仕事を終え、2人で祝杯を挙げている。

「礼二も結構戦えるようになってきたじゃない!」

「まだまだあまり動けてないよ」

 賞賛の声を挙げる彼女に対し、謙遜な態度を示す礼二。

 レイチェルは缶コーラを、礼二は缶レモンティーを飲んでいる。

「ぷはー! いいわね、これ!」

 目の前の金髪美女が甘味の強い炭酸飲料で新鮮さを感じるように喜んでいる。

 コーラを飲んだことが無いのだろうか。

 現代社会人に、コーラを飲んだことが無い人がいるのかな……


 ふと感じた疑問について考えていると、彼女は礼二の前世『ダーク』の恋人だったことを思い出す。

「思ったんだけどさ、レイチェルって何年ぐらい生きてるの?」

 礼二は出会った時から気になっていたことを彼女に尋ねる。

 俺の前世らしいダークと恋仲の関係あったというのであれば、結構年をとっているに違いない。

 レイチェルは一度キョトンとした表情をしたが、少し悩みながら答え始める。

「何年生きているかなんて分からないわ。でも……百年以上生きているのははっきりと覚えてる」

「百年!? 待て、そんな長く生きているのか!?」

 百年生きてこれだけの美貌とか………

 全く老いをイメージさせない美貌の持ち主にそんなことを言われて信じるだろうか。

 彼は彼女に対して疑いの眼差しを向けた。

「信じられないかもしれないけど本当よ」

 レイチェルは諦めたような口調で礼二の反論に答えた。

「証拠はあるの?」

 彼女は予想していたやりとりの結末に辿りついて口が閉ざされる。

 少しすると、金髪美女は申し訳無さそうに問いに答える。

「ごめんなさい、証明できるものは無いわ」

 百年生きたと語る魔術師の声は次第に小さくなっていく。

 問い詰めていくと、なんだか彼女がかわいそうに見えてくるので礼二は疑うのをやめた。

「いいや、それほど大切なことでも無いだろうし」

 諦めたようにレイチェルはそう伝えると、彼は手に持ったレモンティー缶を空になるまで飲み干した。

「じゃあさ、何で俺は魔力が扱えるんだ?」

 唐突な問いに彼女は驚いた表情をする。少し悩むと、自信無さげな声で答えた。

「詳しくは分からないけど、多分、礼二にはダークの前世であることに関係しているかもね…」

「そんなのって関係あるのか?」

 疑問に感じた礼二は再度レイチェルに尋ねる。

「そんなこと知る訳ないじゃない。生まれ付き魔力を持っている人なんて稀だし、大体は血筋によって決まっているのよ? 多分、礼二の場合は生まれ付き魔力を持っている方かもね」

 彼女は少し投げやりに答え、手に持っていたコーラを一気に飲み干す。

 金髪美女は手に持っているコーラ缶を膝の上に置き、夜空を見上げた。

「そうなんだ…教えてくれてありがとう……」

 質問に回答してくれたレイチェルに対して、礼二はお礼を言う。

 2人は戦闘の疲れを癒すように全身の力を抜き、公園から見える周りの風景を眺めていた。

 公園から見える海岸に掛けられている橋を見渡すと、アーチに付けられたイルミネーションが彩られているのが見えた。

 いろいろあったなぁ……

 最近は修行やら魔獣狩りやら充実したような生活を送ってきているような気がする。

 ここまで楽しめる生活なんて久しぶりではなかろうか。

 礼二の感じている楽しさは一時のもので、すぐに崩れ去ることを彼は気にも留めなかった。


 ◇ ◇


「数学教師の佐藤先生は先週付けで学校を辞められました」

 翌日の朝、学校の教室にて里中先生から伝えられた。

 そういえば先週から数学の授業は自習に埋もれていたような気がする。多分その間は職員会議か何かで対応方針とかを決めていたのだろうか。

 礼二が頭の中で考察していると、周りにいるクラスメイトの女子達は噂話をし始めた。

「佐藤先生ってさ、最近話題の殺人鬼にやられたっぽいよ」

「えぇーマジでー」

「私が狙われなくて良かったぁ」

 話題の殺人鬼、というのは最近起きている怪奇殺人の犯人のことを表している。

 犯人の正体を知っている礼二にとっては、この噂話は聞いてて気分が悪い。

 お前らは奴らに殺される様を見たことが無いからそんなことが言えるんだ。彼はそう思いながら、不愉快な一時をやり過ごすしか無かった。

 能天気な会話を目の当たりにした里中先生であったが、何も言い返せずに黙ることしか出来ない様子だった。


 その日の夜6時。

 礼二はいつも通りにレイチェルと駅前で待ち合わせをする。

 前までならば美人お姉さんと一緒に過ごす、という展開に思春期男子としてワクテカしていたのだが、彼女から100年生きていると聞いて以来、あまりドキドキするような緊張は少なくなってきた。 

 遅いな……

 待ち合わせの夜6時から15分後。いつもは時間通りに来る律儀な一面の持つ彼女は、今日に限って遅刻をしているようだ。

 暇を持て余した礼二は、久々の妄想世界にダイブすることにする。


 ◇ ◇


 舞台は高層ビルに囲まれた都市。背景は夕焼けがあったとは思えないほどの闇を持つ夜。

 辺りは人を喰らう魔獣と、奴らから逃げ回る都民達。

 礼二は舞台から一番高いビルの屋上で地上の人間達を見つめている。他人から見れば豆粒にしか光景だが、彼には細かく見えていた。

 生きようと必死に逃げ回るものの、アリを潰すぐらいの軽さで人が殺されていく惨状を。

 魔獣達は群れで動き回り、食料となる肉を捜しながら街を移動し続ける。

 奴らの通ってきた道路に生存者がいないほどの探索能力を魔獣達は持っていた。

 このまま進めばこの都市は壊滅へと至るだろう、と思った礼二は機を見て安全地帯であったビルの屋上から飛び降りる。

 重力に従って落ち続ける体は、最初は大きな空気抵抗に悲鳴を上げていたが、じきに慣れてきて何も感じなくなってきた。

「……い…じ」

 誰かが問いかける声に呼応するように、礼二の意識は現実へと戻されていく―――


 ◇ ◇


 頭がぐわんぐわんと揺さぶられているような気がする。

 目を閉じた礼二は脳を通じて異常な揺れを感知した。まるで頭を揺さぶられているような。

 揺れに繋がり頭痛を感じ始めた妄想世界の旅人が目を開けると、彼の目の前には金髪美人がいた。

「あ、戻ってきた」

 レイチェルはひょんとした顔で礼二を現実世界へと迎え入れた。

「あなた大丈夫なの? さっき目が虚ろになってたわよ……」

 彼女は心配そうに顔を歪めながら妄想少年に問いかける。

「だ、大丈夫…よくあることだから……」

 礼二は顔を横に向けて申し訳無さそうに答える。

 まさか妄想で人に迷惑をかけるとは思いませんでした。

 レイチェルの頭の上に疑問符が付いたのを感じたが、何も気にしない。

 こうして2人は合流し、魔獣探索を始めた。


 数十分後………

 礼二とレイチェルが商店街の中を歩いていると、互いに大きな気配を感じ取った。

「何? 今の……」

 彼女は隣に居た魔術師見習いに問いかけるように呟くが、彼は何も答えない。

 答えないのではなく、大きな気配を感じて体が恐怖に震え上がっているのだ。

 俺でも感じ取れるって…どんな奴がいるんだ……

 礼二は周りを見渡して周囲を警戒する。

 辺りは夜闇に巻き込まれて真っ暗。それを打ち消す街灯の光は何一つ点いていなくて、礼二とレイチェルが互いに見えているのは心許なく光る小さな蛍光灯の光のお陰だ。

 蛍光灯は古くから使われているのか、光を発するにいたり、ジージーと音を立てている。

 その光景はホラーゲームに出てきくるゴーストタウンのようだ。

「きゃあああああああ!!!!!」


 女性の悲鳴が聞こえる。声はだんだん礼二達のところへと近づいてきた。

 見えたのはジーンズとTシャツというラフな服装をした女性。

 彼女は目を大きく開き、顔を歪ませている。

「どうしました!?」

 礼二は急いで何かから逃げている女性を保護する。

「はぁ…はぁ…はぁ…こんなところで肝試しなんてするんじゃなかった……」

 女性は懺悔するように自身の行動を反省し始め、あまり落ち着かない。 

 レイチェルは彼女の肩に手を置き、落ち着かせて状況を窺った。

「落ち着いて、何があったの?」

「化け物が出たんです! 腕が太くて人を食べる化け物が!」

 レイチェルと礼二は、彼女から窺った特徴を聞いて驚愕する。

「ここにいるんだな…」

「そうね…引き止めてごめんなさい。教えてくれてありがとう」

 女性を商店街の外まで送り出し、2人は商店街の奥へ進み始める。


 商店街中心の広場に辿り着く。広場の中心には円形の水場があった。

 広場の隅っこに大きな人影が見え、レイチェルはそれが魔獣だと悟る。

 金髪の魔術師は黒い影に向かって走りながら、虚空から槍を取り出す。

 彼女は取り出した武器で魔獣を横薙ぎした。

 背中を傷つけられ、後ろを気にし始める魔獣はレイチェルをターゲットにし始めた。

 彼女はすぐさま後退し、獣を惹きつけた。

 獣が一時的にこの場から離れた瞬間、礼二は新たに小さな人影があるのが見えた。

 若い男性2人と女性1人。彼らは魔獣に対して怯え続けており、腰を抜かしている状態にあった。

「おい、今すぐここから離れるぞ!」

 礼二は放心状態にある3人に対して逃げるように声を掛けた。

「礼二! そっちいったわよ!」

 魔獣を追っかけていったはずのレイチェルが礼二に対して叫んだ声が聞こえた。

 礼二は声のした方向に顔を向けると、目の前から魔獣が迫ってきていた。

「げぇっ、嘘だろ!?」

 突拍子も無い声を出しつつ、『精製(クラフト)』で生成した魔力の長剣を手に持ち始めた。

「このっ!」

 掛け声と共に手に持った武器を縦に振るった。

 そのまま突っ込んできた魔獣は真っ二つに裂かれ、分かれた肉体は支えを失って崩れていく。

「うわぁあああああ!!!!」

 残酷な光景を目の当たりにした若者3人は悲鳴を挙げ、内1人が魔獣を殺した礼二から逃げるようにその場から離れた。


「おい、待て!」

 礼二は追いかけ始めるかのように手を伸ばすが、青年の1人はどんどん離れていく。

 守りを失った若者の存在を察知したかのように、魔獣は礼二から逃げていった男性の退路を塞ぎ始めた。

「こっちに戻って来い!」

 若者は後ろを振り向き、手を伸ばして魔術師見習いに助けを求める。

 礼二も同じように死を目前とした青年を助けようと手を伸ばすが、互いの望みは叶わなかった。

 魔獣の腕がズブリと後ろから胸を貫かれる青年。彼の体内にある内蔵は数々貫かれ、傷口から大量の血液が流れ出す。

 行き場を失った血液は貫かれた胸からだけではなく、青年の口からも漏れていく。

「ぐぼぇえ!」

「ケンジ!!」

 今死に掛けている青年の名前なのか、礼二の両手に捕まれていた2人の若者は名前を叫んだ。

 もう手遅れだ、と分かっていても見習い魔術師の口からは言えなかった。

 やがてケンジと呼ばれた男の胸から腕は引き抜かれ、彼の体は倒れていく。

「「あ…あああああああぁぁぁぁ!!!!!」」

 礼二が捕まえていた若者2人は彼の死を目前にして声にならない呻き声を上げる。

 見習い魔術師も同じように呻きたかったが、そんな余裕もなく―――

「礼二! 前見て!!」

 横から聞こえるレイチェルの声で礼二は正気に戻る。

 彼女に言われた通りに視線を前に向けると、新たな魔獣が3匹襲い掛かってきていることに気付いた。

「っ!?」

 若者2人を抱えてその場から離脱を試みれば良かったものだが生憎、礼二にはそんな身体能力は持ち合わせていない。

 避けれないと判断した礼二は、やむを得ずに魔防壁を正面に展開した。

「ぐっ!?」

 魔術で作られた防壁は直接攻撃は防ぐが、衝撃までは防ぎきれない。

 3体同時ののしかかりによる衝撃は、魔防壁を張った術者へと全てフィードバックされていく。

 衝撃の軽減も出来るとはいえども、戦闘素人の礼二にとってはとても耐え難い痛みだ。

 目の前の3体を魔防壁から衝撃を生み出して弾き飛ばし、体へと返っていく痛みを少し和らげていく。

 弾き飛ばされた敵は仰向けに倒れ、礼二は1匹に対して魔弾を連射する。

 蜂の巣にされた魔獣以外の2匹は数秒経つと立ち上がり、再度彼らに襲い掛かる。

 見習い魔術師はまた正面に魔防壁を張る。

「くっそ!」

 さっきより小さめの衝撃であるが、やはり同時にのしかかれるととてもつらい。


 このままじゃ……

 1人で動いているならば対処はしやすいのだが、今は後ろに一般人が2人いる。

 3体の魔獣を弾き出した衝撃波を出すのは体力的にはもう無理だ。

 礼二が苦しみながら一般人を守っていると、目の前の敵が1匹減るのを感じた。

 何があったのだろう―――魔防壁の奥を見つめると、レイチェルが礼二の目の前にいる敵の処理にあたっていた。

 よし…これなら助かる!

 彼女に希望を託し、礼二は後ろの2人を守ることに集中する。ここまで魔術の展開を維持したことは初めてだ。壁の展開がどんどん薄くなっていく様から、礼二の集中力が途切れかけていることを示していた。

 目の前の獲物を喰らおうと太い爪でひっかき続ける魔獣2匹。攻撃の度に磨り減っていく礼二の集中力。魔獣の攻撃と礼二の集中力がどれだけ維持できるかの戦いになった。

 くっそ…もう限界だ……

 展開している魔防壁は目に見えるほどに薄くなっていく。

 ラストスパートを賭けたのか、魔獣2匹は攻撃の手をさらに激しくしていく。

 ちっ……!?

 ガラスが割れるような音を挙げ、礼二が展開していた防壁は破られた。

 魔獣2匹は攻撃の手を休めずにそのまま彼に爪による斬撃を与えようとする。

 普通であれば殺されるところであるが、今の礼二はそれで終わりはしなかった。

 擦り切らした集中力を使って『精製(クラフト)』を起動。長剣をイメージした魔力の塊を精製する。

「ここでくたばってたまるかあああ!」

 魔力で作られた剣を左側の魔獣の首に当てるように切り裂く。

 獣の首は胴体から離れて宙を舞った。

 魔獣だったものの胴体は動力を失い、やがてバランスを失って倒れ始める。

 礼二はすぐさま右にいる魔獣の方へと目を向けると、奴の頭に槍が後ろから刺さっていることに気付いた。

「これで……全滅ね」

 レイチェルは魔獣の頭から槍を引き抜き、息を整えながら呟いた。

「はぁ……」

 ギリギリの展開で終了した戦闘。

 金髪魔術師はすぐに息を整えられるほどの苦戦を強いられた訳では無いみたいだが、礼二の息つぎは荒く、整えるだけでも数分かかった。

 今回は人を守る、すなわち人に気を使いながら戦うというのはとても大変なことだと知った戦闘で、自分はまだ人を守りきれるほどの実力を持ち合わせていないということを改めて知った。


 ◇ ◇


 30分後、礼二とレイチェルが魔獣と交戦した跡地にて帝国軍特殊部隊による現場調査が行われていた。無論、ここにはクロードと栄治も現場員と一緒に調査を行う。

「これはひどいですね……」

 ホラー・スプリッター映画が大好きな栄治が言うのも無理はない。

 現場にあたる広場の足元は赤い血の海、何らかの生物だった物の肉塊が辺りに散らばっていたからだ。

 クロードは何だろう、と下に落ちている肉塊を凝視していると、近くにいた検視官が声を掛けてきた。

「これ大きくないですか? 肉食動物にしては大き過ぎますし」

 検視官は辺りに散らばっている肉塊の正体に頭を悩ませているようだった。しかし、クロードはこれの正体を知っている。


「魔獣か……」

 彼は正体と思わしき単語を呟く。近くで聞いていた栄治は―――

「アズベイル大佐、魔獣っていったい……」

 部下の質問に気付かず、クロードは広場の外れにある救急車まで足を運んだ。

 車のバックドアには、惨劇の生き残りと思わしき2人の男女が座っていた。

 生存者の2人は互いに視線を下に向け、体を大いに震わせている。

「そこの君達、ちょっといいかな?」

 クロードは怯えている2人を刺激しないように、柔らかい声色で尋ねる。

 彼の声を聞いた2人はビクッと反応したが、目の前の男は無害だと悟り、次第に体の震えを収まっていく。自身に警戒心を抱いていないと知り、クロードは再確認するように生存者達に問いかける。

「出来ればでいいのだが、君達が襲われた状況を詳しく知りたい。聞かせてくれるかな」

 2人は惨劇を思い出したのか、声にならない嗚咽を上げて再び体を震わせる。

「無理にとは言わない。だが、私達が事件を解決するには生き証人である君達からの情報が重要なんだ」

 今すぐにでも欲しい、と本心を抑えながら柔らかく説得していく。

 彼の心情を察したのか、生存した男性が怯えながら答える。


「ここは夜になると暗くて不気味だ、って話を聞いて友達含めて4人で肝試しに行ったのが始まりです」

 クロードは内心ガッツポーズをした。

 生存者達に本心を悟られぬように柔らかい表情で男性の話に耳を傾けた。

「ここに入って5分ぐらい後でしょうか……あまり覚えてないんですけど、獣の遠吠えが聞こえたんです。僕は危険だと思ったのですが、肝試しを提案したケンジが奥に進もうって言ったんです」

 男性は少し怯えたような口調で淡々と語る。怯えは次第に増大していく。

「そして奥へ進むと、あの化け物と出会ってしまったんです」

 男性の震えは最初に見た時同様に大きくなり、彼は震えを抑えようと自身の二の腕を片手で掴む。

「化け物と出会って、1人が僕達から離れるように逃げました。3人になった僕達は奴らに追いかけられていたのです」


 トラウマを思い出すように青年の体は大きく震える。彼はそれに耐えながらも話し続けた

「広場の角に追い詰められた僕達は化け物に殺されそうになりました。ですが、不思議な2人組みが僕達を助けてくれたんです」

 『2人組みが助けた』と言葉を発したところで、男性の震えは少しずつ納まっていく。

「待て、その2人はどんな感じだったんだ?」

 クロードは事件の経緯よりも生存者達を助けた『2人』が気になっていた。

「えっと…どういうことですか?」

「…例えば服装、言動、容姿や顔、どんなことをしたかを話して欲しいんだ」

 部隊長は目の前にある情報源に対し、好奇心を押さえられずにいた。

 その反応に対し、事情聴取を受けている生存者2人との距離が数センチ離れたような気がした。


「そ…そうですね……男女の2人組みで、女性は金髪の美人さんで黒いコートを纏っていたような気がします。もう1人は男子学生って感じがしました。制服着けてましたし」

 思い出すように話す青年。クロードの隣にいた栄治は青年の話をメモ帳に書き記している。

 服装や容姿についてはこれで限界だろうと部隊長は思い、事情聴取は次のステップへと進む。

「じゃあ、2人組はどうやって君達を守ったのかな?」

 一番重要な情報を聞き出す。

 彼が最近追っている少年が使っている力が魔術によるものか、またはそれ以外かを見極めるために。

「凄かったです…女性は何をやっているか分かりませんでしたが、男の子は僕達を守るために透明な壁を作ったように見えました」

「透明な壁か……」


 クロードは現場と、この事情聴取で得た情報についてをいろいろ思考しながら呟く。

 現場には微かだが魔力が使われた痕跡が残っている。

 生存者を守った透明な壁。

 クロードは彼らの言っていることが『魔術防壁』のことだと直感で感じ取った。

 現場に残るほどの強大な魔力が動いていたことに対し、部隊長は1つの疑問を頭に浮かべる。

「では、最後に聞きたい。この広場から繋がる通りに、胸を貫かれた遺体が見つかったのだが、そいつについては知らないか」

「………」

 質問をされた途端、生存者はだんまりと黙り込んだ。

 男性は沈黙を貫く様子であったが、隣にいた女性は耐え切れず―――

「…あそこにあるのは、私達の友人・ケンジの遺体です……!」

 声にならない嗚咽を上げ、泣きながら答える。

 男性が事情聴取を受けている最中、だんまりを決め込んでいた彼女であったが、クロードの非情な質問によって爆発してしまったらしい。

「…そうか…協力に感謝する…すまなかったな……」


 クロードは泣き出した女性に対し、手を頭の上に置いて安心させようと思った。

 だが、自分がやってしまった過ちに気付き、手を引っ込めて生存者の女性にお詫びを入れる。

 今さっきまで忘れたように話していたのに、わざわざ思い出すようなことを言ってしまうとは……

 クロードは自身の欲に埋もれたことを悔やみ始める。

 しかし、青年達のトラウマを思い出させることを代償に、彼が追っていた『魔術を知る少年』まで大きく前進したのは確かだった。

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