4-12.エピローグ ~無能復讐者~
裏切り者を殺す。
それは、今目の前に居るバトラを殺すということだろうか。
礼二は対峙しているダンテの存在に恐れを抱いた。
ここにいる理由だけじゃない。奴自身が強力な力を保持しているように感じたからだ。
そして奴はどこから出てきた?
病院の玄関から出てきたということは――
「裏切り者を殺すと言えば、ちょうど一人殺ったところだ」
ダンテはそう言いながら、左手に抱えた風呂敷に包まれた球状の物体を礼二の前に投げ込んだ。
ボールのようにバウンドしながらこちらに来れば良かったが、地面に落ちた物体はバウンドもせずに足元へと転がっていく。
「これは…」
「君らへのプレゼントだ。開けてみろ」
嫌な予感がした。
裏切り者。ちょうど一人殺った。
開けたくない。見たくもない現実が襲い掛かってきそうな気がする。
礼二は投げられた物体を目の前にじっと立ち止まっていた。
すると「早く開けろよ」と言わんばかりに風が横切り、風呂敷がふわっと浮いた。
刹那、人間の目らしきものが風呂敷から覗かせているのが見えた。
「どうした? 人からのプレゼントはちゃんと開けるものじゃないのか?」
プレゼント? 気が狂ってる。
これ以上は見たくない。
そう考えた途端、風はいたずらをするかのように風呂敷の中身を露わにした。
「えっ…!」
高めな鼻に見覚えのある金髪頭。
五條病院の病室で休養を取っているはずのリディ・マッケンジーの頭だった。
突然、体の中から胃液が逆流する感覚に見舞われた。
誰かの首なんて、魔術師になりたての時に嫌という程見ている。
慣れたなんて思っていたが、顔見知りが関係していると分かれば受け止め方は違うのだろうか。
そんなことはどうでもいい。
何故リディの首がここにあるのか?
答えは分かっている。でも認めたくはなかった。
改心すると決めた青年が再スタートを切る前に命を絶つことになるなんて、あまりにも悲しすぎる。
逆流した胃液をなんとか胃の中に押し込もうとしたが、押し込めることができず足元で吐き出してしまった。
礼二の口から排出された嘔吐物がリディの頭の近くまで地面に浸っていく。
「貴様ら…こんな外道なことを易々と…」
リディの首を前にして屈している礼二を見たバトラは、自身の頭上にいるダンテに顔を向けて言った。
大量の失血、胴体を刺されるというショックで気絶してもおかしくないところだが、彼は意地で起きているように見えた。
「裏切り者に慈悲は無い。そういう貴様こそ、そうなる権利があるぞ?」
不吉な言葉が聞こえた。
「権利だと? そんな残酷なことが平気で許されるとでも思っているのか!?」
「うるさいジジィだな」
ダンテの言っていることを察した礼二は、バトラが倒れている方向に顔を向けると――
「ふん、黙ったな」
先程まであったバトラの首から上の部分が無くなっているのが見えた。
頭が…無い…
いつの間にか消えた頭を探すべく辺りを見渡してみると、近くにごろんと転がった物体が見えた。
風呂敷に包まれたリディの頭では無い。バトラの頭だった。
「!?」
何が起きたのだろうとダンテの居る方向に顔を向けると、彼の持っていた剣には少しだけ血に濡れていた。
彼の持っている剣で一瞬にしてバトラの首を斬ったのだと礼二は悟った。
「貴様は…愚かな人種の守護者か」
ダンテはバトラの首から礼二の方へと視線を向けた。
その時の目はこれからでも礼二を殺してしまおうかと睨みつけている豹のようだった。
「はぁ…はぁ…」
相手の目に怯えを抱いてもおかしくないのに、礼二は目を見開いたまま呼吸を乱していた。
なんで2人を殺した? 裏切ったからって殺すことも無いじゃないか…!
頭の中で悶々とダンテの行った行為に苛立ちを抱いていた。
これまで礼二と関わっていた2人だ。
関わりのない赤の他人が死んでいる様を見るよりはとても苦しい。
悶々としながら呼吸を乱していると、心の内側から黒い靄が襲い掛かってきた。
憎いか?
奴を殺したいか?
頭から悍ましくも重い声が響いてくる。
またこれだ。黒の魔力。
礼二自身が何らかの憎しみを抱いた途端に表に出てくる悪魔のような力。
この力を使ってしまえば、また礼二は数日間の眠りについてしまう。
負傷しているとはいえ、バトラを負かした人物だ。
黒の魔力を使ったとしても必ずしも勝てるとは思えない。時間が過ぎてしまえば無防備となって呆気なく殺されてしまう。
奴を殺したいか?
ならば、私の力を使うが良い…
目の前のダンテを殺す力を与えてやると誘惑してくる声の主。
手は出したくない。
そう考えても、体はいつの間にか黒の魔力に手を出している。
体は鍛えて前よりも強くなっているのに心は弱い。むしろ年相応の精神力だ。
寄越せよ。お前の力を――
そのためなら…体を貸してやる…
だからこそ、欲に抗えない。
もうどうしようもない。彼の中では、もうこの力に頼るほか無いのだ。
球体として具現化している黒の魔力と礼二の手が触れると、彼の体から黒の魔力が溢れ出した。




