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CODE-D  作者: ryu8
4章 無能復讐者
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4-5.強さへの欲

 クロードに呼ばれて付いて行くと、普段彼が仕事を行う執務室まで連れてこられた。

 何故彼に呼ばれたのかが分からない礼二は、何事だろうと辺りを見渡していた。

「あら神原くん。こんな時間帯からどうしたの?」

「あぁ、大佐から呼ばれまして」


 執務室の中に入ると、そこにはエリゼの姿があった。

 クロードが触っている仕事の補佐的な役割で作業に入っていた様子で、彼女は何か察したのか、すぐさま並べていた書類をまとめ始めた。

「えっ、中尉? 仕事中でしたら別に…」

「いいわよそれぐらい。大佐は君に話があるみたいだし」

 ただ話があるだけであれば、補佐にあたる中尉は居た方が良いのではないだろうか。現状把握のために。


 エリゼ・ラインという女性は、大体クロードの隣にいる印象が強い。

 今もこうして彼の部屋で自身の仕事をやっている様子から、彼のサポートは毎日行っているのだろう。

 しかし、今回に限って誰かと話するからと言って出ていくのが不思議でならなかった。

「すまないな中尉。こればかりは2人で話しておきたい」

 クロードの言いぶりからして、付き添いの彼女には聞かれたくないプライベートな内容であることは伺えた。何を話すつもりなんだろう。

 

 数分するとクロードのデスク前にあったソファーとテーブルにあった書類は全て一まとまりとなって、彼のデスクに置かれた。

「長話しそうな感じだし、お茶でも入れてくるわね」

「うむ、頼む」

 話が長くなりそうと感じたエリゼは部屋から出て行った。

 先程まで彼女が片づけていた時に響いていた書類がかさばった音は無くなり、部屋の中にはクロードと礼二の二人だけとなった。


 辺りを響くのは外から聞こえる環境音だけ。

 礼二どころか、「話がある」と切り出して連れてきたクロードもだんまりとした様子でデスク前の椅子に座っていた。

「ちょっと大佐。何か話があるんですよね? 私は暇じゃないのです。訓練の続きをやらせてください」

「訓練の時間は終わっているはずだぞ? それに今やまだ軍人としての勤務時間だ。調査することも山ほどあるし、できるなら調査に時間使ってほしいところであるが…」


 それもその通りだ。

 明らかに証拠が無いからと言って何も探さなくて良い訳ではない。

 特殊部隊として事件解決をすると決めた以上、こんな大切な状況下で訓練にかまけて欲しくは無いのだろう。

「んで、話って何でしょうか?」

「それは中尉がお茶を入れてきた後にでも話すとしよう。訓練で少し疲れているだろう。このソファーで数分だけ横になっていろ」


 話している間に彼女が入ってくる可能性を排除したい様子だ。それだけ機密性のある話のように思える。

 話の内容を早く知りたいところだが、礼二はエリゼが戻ってくるのを待つことにした。

 待ち始めて数分後。

 お盆とお茶を持ってきたエリゼが帰ってきた。


「お茶はこちらに置いておきますね」

「ありがとう。下がっていいぞ」

「はい」

 クロードからそう言われたエリゼは、彼の部屋から出て行った。

 彼女の不在を確認したクロードは自分の席から立ち、礼二の目の前にあったソファーに座った。


「さて神原、君は何故私に呼ばれたのかは分かっているのかな?」

 急に何を言い出しているんだろうこの人。

 分かっていて「どんな話だ」と聞く馬鹿はいない。クロードはどんな答えを期待していたのだろうか。

「分かりません」

 礼二は素直に分からない旨を伝えると、クロードは溜息をつきながら口を開く。


「クライン少尉から話は聞いた。

 君は強さを追い求めているようだな…聞いてみれば今回敵対している相手の強さに敵わないとかで」

「はい…今のままだと私は足手まといになります。だからこそもっと強くなりたいと考えてます」

 バトラづてで話を聞いたらしいクロードに、礼二は答える。

 彼の部屋で話をするぐらいだから秘密にしてくれるものかと思っていたが、訓練の相手となっている彼からすれば、念のため上司に報告を行った方が良いと考えたのだろう。


 クロードは礼二の目をじっと見続けた。

 数秒ほどの沈黙に包まれると、再び口を開いた。

「少尉からも言われていると思うが、私も君はまだ焦る必要は無いんじゃないかと見ている。理由は他のメンバーと協闘すれば良いからだ。

 無理して訓練をして怪我や体調でも崩されたら何かしらの問題が起こりかねん」

「怪我とか体調には気を付けます。だから、自主訓練を邪魔しないようお願いします。今のままでは…また…」


 刹那、アインから受けた魔剣術が決め手となって敗北した自分の姿が目に浮かんだ。

 あの日の自分は、魔術あって最強になれた自分がいると心の中で豪語し、傭兵団の魔術師も対等に戦えると思っていた。

 しかし、現実は違った。

 相手は魔術を使った戦闘のスペシャリスト。戦いの際の魔力制御、並びに使う術のタイミング等、全てに負けている。

 そんな足手まといな自分がこの場に居て良いものかと思えてくる。


「確かに、今の君では足手まといに近い。

 戦闘経験や魔術の扱いは、舞台に立つ者の中では一番下に位置するだろう。

 しかし、焦って力を手にしようとすると何かしら無理した代償が浮き彫りになる」

「普段の勤務合間や終わった後にやるので、無理をするのかもしれません。でも、倒れる気はありません」

「倒れないようにするのは当たり前だ」

 2人は強くなることへの焦りについて話し続ける。

 数分後、少しだけ沈黙の空気が流れると、クロードは再び溜息を付いた。


「理由は分かったが、そこまでするのかと思うところは多々ある。まぁ、好きにやると良い」

「ありがとうございます」

 あっさりと追加練習の許可が下りてしまった。

 あれだけ否定意見を言っておきながら、割と簡単に認められてしまっていた。ともあれ、何も波乱がなくクロードを納得させることが成功できて一安心だ。

 しかし、彼は何故あんなに反対していたのだろうか。

 疑問は残っているが、礼二は以降のスケジュールを頭の中で構築し始めた。


 ◇ ◇


 クロードと話し合った日の夜。

 軍の仕事が終えた礼二は、再び訓練場で魔剣術の練習をしていた。

 確かに自分は焦っている。魔法を使ったり、戦いに入るのだって自分が最後なのだろうし、今ここで頑張らなきゃいけない。

 クロードと約束した通り、倒れない程度に頑張る。

 そう心に決めて、手に魔力を込めながら剣を振るい続けた。


 訓練をし始めて1時間近い時間が経過した。

 アイラが手本に見せたようにはいかず、魔力のコントロールは上手くいかなかった。

 あの時の感覚通りにやっても何故か上手くいかない。何故だろうか。

 礼二は失敗要因について考えてみたが、失敗要素は全く見当たらない。むしろ成功するように近づけているはずなのに――


「こんな時間に訓練なんて、精が出るわねぇ」

 唐突に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 声のある方向に顔を振り向けると、そこにはレイチェルが、立っていた。

「何でこんなところにいるのさ?」

「それはこっちの台詞よ。何やってるの?」

「見れば分かるだろ。魔術の訓練だ」

「ただの魔術の訓練のようには見えないけどね~」


 レイチェルは怪しそうな眼差しを向けながら、礼二の周りを歩き始めた。 じっと見つめる視線によって、いつもに比べて緊張を発生させて精神を乱れさせる。

 じっと見られるのは恥ずかしいな…

 顔が微かに赤くなるような感覚を覚えながら、彼女に見つめられること約5分。

 レイチェルは唐突に、礼二が持っていた剣に手を添えた。


「へぇ…魔術を剣に込めようとしてたんだねぇ」

「何故分かった」

 一言も話していないはずなのに、自分がやっていたことが知られているのはとても怖い。実は、どこか近くで見ていたのではないか?

 レイチェルにストーカー疑惑を抱き始めた時、彼女は口を開き始めた。


「あぁ…さっきまで魔力がこの剣に込められたような感じがしたの。

 剣に魔力を込める。それすなわち、魔力を帯びた剣に関係することが分かるのよ」

「へー、そうなんだー」

 礼二は興味がなさそうに頷く。

 彼は興味がなさそうに聞いているが、魔術を使った相手との戦いでは、相手の体を巡る魔力の動きを目で追うことは次の一手を読みやすくすることができる。

 戦いにおいては相手の動きを読んで、先回りした動きが要求される。次の一手が読まれることは、相手に攻撃が当たらない可能性が高くなってしまうのだ。


「んで、剣に魔力を帯びさせて何をしようと言うの?」

「あー…魔剣術発動の練習をしてたんだよ。

 アイラさんにある程度教えてもらったんだけど、上手くいかないんだよね」

 礼二がそう言った瞬間、レイチェルの顔が固まった。

 彼女の様子を悟った彼は、何か嫌な予感を感じていた。


「えっと…レイチェルさん…?」

「あなたに魔術を教えるのは私の役割よ。それを他の人から学ぼうとするなんて…許せない」

 外見からでは分からないが、ブワッと何かが溢れでているように見えた。

「ま、待て! 魔剣術は魔術じゃなくて剣術の一種で――」

「魔術絡みなのは変わらないわ!」

 確かに魔力を剣に纏わせて扱う剣術であるが、魔術が大きく関わっている訳ではないと考えている。しかし、レイチェルの中ではそんなことは関係無い様子だった。


「ともかく! 魔剣術は私が教えるわ」

「そもそもレイチェルって、魔剣術使えるのかよ」

「使えるわよ!」

 技能に疑問を抱いた礼二の質問に対して、彼女は間髪入れずに答える。

 その時の彼女の顔はドヤァと誇らしげな様子であり、偉ぶった様に苛立ちを感じた。


「じゃあ、どんなものを使うかを見せてくれよ」

「いいわ。ちゃんと見てて」

 レイチェルは虚空から槍を取り出す。

 片手から両手に持ち替え、彼女は相手と対峙したイメージで槍を構えた。

「ただ、これは槍を使った魔槍術にあたるわ。剣でどこまで再現できるか分からないけど、参考程度でいいわ」


 レイチェルはそう呟くと、彼女の持つ槍の穂先から放電し始める。

 電撃は穂先から槍の棒まで行き渡り、ついには槍全体にまで放電していた。

電撃突(ショックピック)!」

 魔槍術の名前らしき言葉が聞こえた瞬間、一瞬にして目の前の地面に傷が入った。

「なに…今の?」

「高速電磁突き『電撃突(ショックピック)』。

 突く瞬間に電撃を使って、一突きする速度を一気に上げられる魔槍術よ」


 要約すれば、電気を使った高速突きといったところだろうか。

 目の前の地面に傷が入っているのに槍があまり動いていないのだって、目に見えない速度で地面を突いたからだろう。

 周りと比べてあまり力の無さそうな彼女の手でも、あそこまでの速さで槍を操ることができるのか…

 礼二は魔術の可能性に感嘆の声を上げた。


 アインやアイラの剣術を見て感じたことであったが、魔術が武術に通ずることができることを知り、いろんな方面に使用することができるんだなとしみじみと感じていた。

「そんなもの…俺にもできるのか…?」

「できるわ。あなたにはダークと同じように魔術の才能がある。それは私が保証するわ」

 自分が魔術の訓練をしている訳でもないのに、礼二に魔術の才能があるとうたった。

 今こうして魔剣術の発動が確認できないでいるのに、よくもまぁ無責任な言葉を吐けるものだ。

 礼二は内心、悲観的な気持ちに浸っていた。


 才能があれば上手く戦える。

 才能があれば、今こうして時間を掛けて訓練をする必要が無い。

 才能があれば自分の手で守れるものも増やせる。


 しかし、自分には何の才能も無い。

 そんなものがあれば、守れないものはとっくの昔に少なくなっている。

 所属する部隊内ではお荷物のような存在であり、相手には舐められた態度を取られて次第には戦いに負けてしまう。

 そんな自分に惨めな思いを抱く。


「自分を下に見せすぎじゃないかしら」

 悲観的な思いを抱きながら目を瞑っていると、レイチェルが声を掛けてきた。

「大方、あまり物事が上手くいかないから悲劇のヒロインぶってるのかしら?」

 自分の問いに黙りを決め込む礼二に、レイチェルは続けて言葉を紡いだ。


 彼女の言っていることは、あながち間違いではない。

 自分や他人を守る力を有しておきながら、何もできないと嘆くのは間違っている。

 今持っている力は、普通の人は持っておらず、魔術師にしか持ち合わせていない。

 それはつまり、普通の人ができないことはできるということなのだ。


「そう…でもないよ。確かに物事があまり上手くいっていないようには感じるけど、そこまでは考えていないよ。ただ、自分って弱いなって思っただけ」

 レイチェルと出会い魔術と関わりを持ってから、色んな物が失った瞬間を目の当たりにした。

 街を歩く人たち、訓練に関わった同期たち、家族、そして中学生としての日常。

 そんなものを失ったからこそ、自分が守るこの国の人たちに同じような思いはさせたくない。

 そう考えながら日々訓練し、襲撃してくる敵と戦ってきた。

 ただ人を守ろうとしているのに力及ばずで守り切れないのは、とても悔しいのだ。


「俺は…周りの人たちを守りきるために強くなりたいんだ。思うように強くなれなかったら、誰だってこんな気持ちになると思うな」

 レイチェルに向かって、今の思いを口にする。

 別に強がる必要は無い。今の彼女は、礼二にとってはまだ気心の知れた友人のように感じるからだ。

「そうね。確かに思うように強くなれないと、あなたが言ったような感情は抱くわね」

 先ほどの発言とは打って変わって、同調するような返答だった。

 再び彼女は口を開く。


「でも、そういう考えばっかり抱くのは、自分自身の可能性を潰すこともあり得るわよ? 少し自分に希望を抱きなさい」

 ズキリと心臓に槍が突き刺さったような痛みを覚えた。

 自分の考えが、人格が否定されたような。

 レイチェルに言われた瞬間、礼二は昔のことを思い出した。


 ◇ ◇


 小学校に居た頃の話。

 礼二は元々、世間一般的には頭の良い子供では無かった。

 勉強は全て学校の授業で事足りる。

 そうやって勉強を疎かにしてテストを受けて、クラス内の平均点を大きく下回る点数を取ったことがあった。


 夕方、学校から帰ってテストの結果を見せた時――

「なんでこんな点数を取っちゃったの! お母さん、近所のママ達の笑いものだわ!」

 キャリア志向を持つ母、周りの目ばかりを気にして、肝心の息子の気持ちにはあまり目を向けないような母親だった。

 当時、近所のママ友内では、自分の息子がテストでこんな点を取ったとか、習いもので何かの賞を取ったとか、自分の子供を一つのステータスにしたような話が多かった。


 授業参観や運動会等でチラッと内容を聞いたことがあるが、自分を含めた息子に当たる子供たちが、ただ母親たちのステータスになっているような感じがして、とても気持ち悪かった記憶がある。

 なんてくだらない話をしているのだろう。


 自分の息子はこういうところが素晴らしい。

 そんな話をするぐらいなら、「私こんなことやって、こんな賞を取れたのよ」とか、自分がやったことを話せばいいのに。

 そう思っていた時期があった。まぁ、こんな話は置いておいて。


 テストで取ってしまった悪い点数について怒られた礼二は、そのことを重く受け止めて、夜遅くまで部屋から出なかった。

 何も食べず、何も飲まず。まるで自分を罰するかのように部屋からも出ないようにしていた。

 時間が経ち、腹の虫が泣きわめく頃に――

「礼二。ご飯、もう冷めちゃってるんだけどー」

「いらない」

 母からご飯を食べるよう催促する声が聞こえてきたのだ。

 テストのことでまだ怒っているだろうと判断した当時の礼二は、自分からご飯を食べに部屋の外へ出ようとは全く思わなかった。


 そして1時間後。

 しびれを切らした母は、部屋の扉に再びノックをし始めた。

「お母さん、食器片づけられないんだけど、早く食べてくれない?」

「いらない」

 母は自分を許してくれるはずがない。

 そう思いながら自ら『断食』という行為で自身を罰してきた。


 彼が返答してから、ドアを連続でノックする音は止まった。

 どうしたんだろうと、ドアの方へ耳を傾けると――

「いい加減にしなさい!」

 ドアを強く叩きながら、母が部屋に入り込んできた。

 こんなパワフルな母は初めて見たのか、当時の礼二は口をあんぐりと開けていた。


「えっ、ちょっと勝手に入らないでよ」

「頑なに部屋から出ようとしない息子を放置する母親がどこにいる? あなたが食べないと、食器が片付かないの。早く食べなさい」

 唐突にご飯を食べろと言ってきた母に対して疑問を抱く。

 テストで悪い点を取った息子だ。あまり外に出したくない程怒っているのではないだろうか。


「母さん、テストの話で怒ってるんじゃないの?」

 自然と、胸につっかえていた言葉を礼二は紡ぐ。

 息子の思いを聞いた母は、呆れながら――

「そんなことはもうどうでもいいの。ご飯はちゃんと食べなさい」

 許しを出すような言葉が放たれた。

 あの母が? プライドの高い母が?

 当時からプライドの高い母ということは分かっていたので、こんなことを言うのが信じられなかった。


「でも…」

「いい加減、悪い方向に物事を考えるのは辞めなさい。上手くいくことも全くできなくなるわよ」

 礼二の考えを読んでいたのか、母は彼の考えを否定することを言い出す。

 確かに悪いように考えていたが、何故ここまで考えが読まれたのだろう。

「悪いのは確かじゃん。悪いことしたからいっぱい考えちゃうよ」

「そこが駄目なのよ。悪いことしたからといって、悪いことしたとか考えすぎちゃ駄目。うじうじ考えたって解決してくれる訳ではないのだから。そんなことに時間をあてるぐらいなら、他のことに時間をあてた方が良いわ」


 ◇ ◇


 当時の礼二では、母の言っていることは理解できなかった。

 だが、今の彼では理解ができる。

 例え悪いことをしたとしても、考えすぎるのは良くない。全て忘れろとは言わないが、多少の切り替えは大切だ。

「そうだな…ありがとう。考え方を変えてみるよ」


 礼二はレイチェルにそう言いながら、再び剣に魔力を込めて振るった。

 しかし、未だ成功例には近づけない。

「なんでこうも上手くいかないのやら」

「それは予想よりも力が入りすぎてないのかな?」

「力?」

「焦りすぎて力が入っていることにも気付かなかったんじゃないの?」


 レイチェルから指摘を受けて、ハッとしたようにあることに気が付いた。

 確かに気付かずに力が入ってしまっていたのかもしれない。

 そう考えながら、礼二は力を抜き、剣に魔力を注ぎ込む。


 レイチェルに言われてふと思い出したが、修練の島でリディと戦った時に一度魔剣術らしきものを使用した覚えがある。

 それを思い出すように頭の中を勘ぐらせた。

 イメージは筆についた絵の具を外に飛ばすような感じで。

 魔力を剣先に集中させ、横に振るった先で魔力を外に放つ。

 すると、剣を中心に出力された魔力の刃が正面に放たれた。


「うぇっ!?」

 魔力の刃は止まるところを知らずに訓練場の壁に激突した。

 激突した衝撃に辺りには粉塵が舞い散り、壁を破壊してしまったのではないかと見ていた。

 やっべー…訓練場の壁壊しちゃったかも…


 訓練場であるから、誤って攻撃を当ててしまった時のためにかなりの強度を誇っているように思えた。

 しかし、実際に魔力の刃を当ててみると粉塵が散る程に脆かったのかもしれない。

「まだまだ力が抜けてないわねー」

 この様子を見ていたレイチェルは、粉塵が舞っている壁を遠目で見ていた。

 彼女としては壁を壊さずに訓練をしていくと思っていたら、予想外にも壁を破壊する程の威力を出してしまうとは思いもよらなかったのだろう。


「これ…どうしよう…」

「さぁ? 自分で考えなさい」

 これはあくまで力の加減が出来なかった自分の責任である、と暗に言っているように感じた。

 参った。魔剣術の習得に反対されていた中で施設破壊とか笑い者じゃないか。


「でも、魔剣術の発動には成功したじゃない。力の調整は必要だけど、イメージはさっきやったような感じよ。体の感覚を忘れないで」

 訓練場の壁を生贄に魔剣術の発動に成功したようだ。

 まさか前にリディと戦った際に発動した魔力のコントロールが魔剣術のそれだったようだ。

 意識もせず使用していたとか、自分には魔術の才能があるかもしれない。

 礼二はそう思いながら、意図的に使用した魔剣術の実感を噛み締めた。


「…うぉっと!」

 ようやく魔剣術が使えるようになった安心感から、すっと体に力が抜けた。

 倒れる刹那、自分の中の時間が遅くなったように感じる。

 突然出てくる酔い、倦怠感や眠気に襲われた。

 見える世界が斜めに傾こうとした瞬間、誰かに支えられる感触がした。


「ちょ、ちょっと! 大丈夫?」

 誰かに支えられた瞬間、声を掛けられる。

 こんなにも聞き覚えのある声はレイチェルのものであることを察した。

「あ…あぁ…大丈夫」

 少し気怠そうにしながら、彼女に支えられた腕から離れようと動く。

 すると、また倦怠感に襲われる。


「ほら、少し休んでなさい。もう…最近、無茶し過ぎなのよ」

 レイチェルに叱られた礼二は、仕方なく彼女の肩を借りて自室へと戻ることにした。

 この感覚は忘れない。次の練習の時には自由に出せるようにしておかなければ…

 心に誓い、その時の感覚全てを記憶した。

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