4-0.プロローグ ~無能復讐者~
1年半振りの更新です…
前章の大まかなあらすじでも。
※あらすじ※
日本帝国軍の新人隊員向け特別訓練で裏切り者の行いにより、軍は帝都民から総合パッシングを受けていた。
裏切り者の部屋を調べて他に同様の人物が居るかと調査を行おうとしたところ、帝都内で爆発事故が突然起きた。
礼二を含む特殊部隊の面々は調査に出向くものの、何も証拠などは確認できず。
調査は少ししか進んでいないところ、連続して帝都内で何らかの騒ぎが立て続けに起きた。
騒ぎを起こしたのは、魔術師がメインで所属する傭兵団・紅蓮の猟団であることを知り、部隊の面々は彼らと戦うこととなる。しかし、猟団一人一人の戦闘能力は高く、苦戦を強いられる。
礼二はリーダー格にあたるアインと戦うことになり、相手の圧倒的な実力で一方的に攻め続けられる。
自分があまりにも実力不足であることを悔やんでいると、脳内から響く悪魔の囁き声。
最終的に黒い魔力を使ってアインと戦うが、それでも実力が足りず戦闘不能にまで追い込まれてしまう。
帝都自体を守ることが出来ているが、戦いの中で失った命がある。
礼二は、そんな現実を苦しく感じていた。
家の焼ける音、肉の切れる音が辺りに響き渡る。
周囲には赤々と燃えながら崩壊していく木造建築の家があった。これらには人が前に住んでいたような生活感があり、今は燃えて全てが灰になろうとしていた。
辺り一帯の火の手が大きくなろうとしている中、1人の少年は火の中に囲まれるようにいた。
少年の名は神原礼二。
片手に1本のブロードソードを持っており、正面にいる2本の足で立つ毛の無くなった雄雄しい狼の顔のした異形の生物・魔獣と対峙していた。
それは唐突に襲い掛かり、礼二は剣の刃を正面に向けるように構える。魔獣と接触する瞬間、彼は剣を大きく振り下ろした。
魔獣の体が縦に両断されると共に、V字を描くように血飛沫が飛び散った。そして2分割された体は、礼二の両腕を横切るように素通りしていった。
これで1匹目の討伐完了。しかし、まだ安心する時では無い。
新たな魔獣がまた1匹。
辺りを見渡せば1匹に限らず2匹、3匹と複数体近くにいることが確認できた。
礼二はこの状況を予想していたかのように、平然と周囲にいる魔獣の動きを見ていた。
奴らには野性的な本能が8割、状況を見て動きを変えられる程の理性を2割持っており、礼二から隙が出てくるのを伺っていた。
魔獣と敵対した時の対処としては、まず相手の動きや目をちゃんと見ること。
魔獣は何も考えずに得物に襲い掛かる本能があるため、直線的な動きが多い。だからこそ、相手の動きさえ分かれば、突進を避けることは容易いのだ。
礼二は、この生物の正体と共に生態系について知っていたおかげか、目の前にいる魔獣の目を見るように見続けた。
他の方向から来る魔獣は、足を蹴る音を聞き取って魔防壁などを展開すれば防御できるだろう。
そう高を括り、背後の魔獣に対しては足音や微かに感じ取れる呼吸音を頼りにして気配を感じ取っていた。
昔の自分なら、こんな見た目のおぞましい化け物を目の前にしてここまで冷静に物事を判断できないでいた。
しかし、こんなことができるようになっているのは、ここ最近体験してきた魔術に関連する事件の解決に尽力していたことが影響している。
故に、全く自信を抱いていなかった彼にとっては「解決した」という事実が大きな自信に繋がっているのだ。
全く動く気配の無い魔獣。
この数の差での戦闘は、できるだけカウンターを狙う形で迎撃を図った方が効率が良い。だからこそ礼二はあまり自分からは攻撃しようとはしない。
彼同様に、魔獣側も礼二の力を恐れて動こうとしないように感じられた。とても不気味である。
魔獣の動きが無いことを礼二が不審に考えていると、群れの中から1人の人間が前に出てきた。
がたいの良い肉体でありながらも細身。人を何人か殺していそうな顔に、真っ暗闇の中でも微かに見える銀色の短髪。体のシルエットから見ると、出現した人間は男性であることが想像できた。
男性は腰に携えた何かに手を掛け、それを引いた。
目の前に出されたのは1本の剣。
男性は出した剣を構え、礼二に向かって直進してくる。
「ちっ…!」
唐突な突進に礼二は反応が遅れ、男性に押し倒される。
迫る刃は手に持っていたブロードソードの腹辺りで押さえ込んでいた。
うわ…結構危ないな…
男性は礼二の首を切断しようと、刃を無理矢理近づける。予想以上の力に、礼二は踏ん張るように歯を噛み締めた。
もう駄目だ。俺はここで死ぬのか…
そう思った瞬間、男性は礼二の前から離れる。「なんのつもりだ」と起き上がろうとすると、周りにいた魔獣たちが彼に襲い掛かった。
急いで起き上がり、すぐさまこの場から離れようとする。
魔獣1匹の圧し掛かりは上手く回避することができたが、他の魔獣たちに追いかけられることとなった。
くっ…しつこい!
一斉に飛び掛る魔獣たち。
礼二はやむを得ず、すぐさま後ろを振り向いて魔防壁を展開して進撃を食い止めた。
ガラスに雨が強く打ち付けられるような激しい音が正面から聞こえてきて、魔獣は次々と壁に突撃して弾かれていった。
持ちこたえてくれれば良いけど…
音が止んだ頃、後ろを振り返ってみると、50メートル程離れた先に男性が剣先を向けてこちらに走ってきていた。
「うっそ…!」
魔防壁はまだ展開している。これがあれば相手の攻撃を食い止めることはできるだろう。
そう思った礼二の甘い考えは、いとも簡単に崩れ去った。
目の前に見えたのは、ガラスが割れたような音を立てながら崩壊していく魔防壁。
相手との距離は1メートル切った時、時間の進み方が非常に遅く感じ取れた。
そして、男性の持っていた剣の先は、礼二の肩を貫通していった。
「ぐああああぁぁ」
初めて体の一部が串刺しにされる感覚。
それは、体の中に無理矢理押し込まれた異物への拒否反応を示すような痛みだった。
そのまま礼二は男性に押し倒される。
男性は残った左手で彼の首を掴み、力強く締め付けようとしていた。
息ができない。剣で左肩を串刺しにされているせいか、左腕は動かない。やむを得ず右手だけで制止しようとする。
しかし、礼二の首を絞める男性の左腕の力は強く、どれだけ足掻いても外すことはできない。
このままではマズい。絞め殺されてしまう。
礼二は自分の最後を悟った。
この世に生を受けて13年。
短い人生だったけど、いろんなことがあったな…
13年間では無く、20年生きてきたような感覚だ。まさか普通に生活していくと思えば、魔術師と呼ばれる憧れの存在になれるとは思わなかったし、魔術師になってからも1日1日が濃い生活となっていた。
もう俺の人生は終わりだ。
[ここで諦めるか。弱き者]
「人生は終わり」だと悟った瞬間、脳裏に重く厳格な声が響いてきた。この時、唐突に礼二の周りを囲うように真っ暗なドーム状の何かが彼を世界から隔離した。
「自分の足元は大丈夫なのか」と足元を見てみると、螺旋を描くように淀んだ黒い泥のようなものが彼の下で蠢いているのが見えた。
なんだ…このおぞましい物は…
礼二は何か嫌な予感を感じていた。
少しでも身に触れてしまえば、心も体も全て犯されてしまいそうな気がする。
だが、何故か自分の体は落ちてしまう気配が無い。まるで床がガラスになっている高層建築物の中にいるような雰囲気に陥っていた。
[力が足りないから諦めるのか?]
脳裏に鳴り響く聞き覚えの無い声。
本当であれば少しだけ聞き覚えのある声であるが、こんな緊迫した状況下でゆっくりと思い出せる程、礼二は能天気でもなかった。
力が無いから諦める? いや、そんなつもりなんてサラサラない。
[ならば、この力を貸してやろう]
「諦めるつもりは無い」と頭の中で念じると、足元にあった泥が急に浮上し、礼二の体を纏うように包んでいった。
一見すると泥のように見えたが、土のようなザラザラとした感覚は全く感じられない。
土から構成された泥とは全く違った泥であることを悟った。
[殺せ…殺せ…殺せ]
厳格な声が彼を洗脳するかのように強く響いてくる。
一言一言が重く礼二の心に響き、ガンガンと頭を締め付けるような圧迫感を出していた。
なんだこれは…無理矢理振り払いたいけど、全く体が全く動かない…
圧し掛かってきた泥の圧迫感のせいか、体だけでなく声を発することもできない。
殺せ殺せと言葉や憎悪が礼二の頭の中を侵食し、ついには精神まで犯そうとしてくる。このまま行けば自我が保てなくなるかもしれない。
[この世でまだ生を謳歌したいか? ならば、私の力を受け入れ、全てを捧げよ]
新たに響く声は、まるで礼二自身を自分の贄と思っているような感じに思えた。
そして、声は礼二の精神を犯すべく、永遠に呟き続ける。
礼二を包んでいた泥の一部が、必死に自我を保とうとする彼の顔に覆いかぶさろうと新たに襲い掛かっていった。




