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CODE-D  作者: ryu8
3章 帝都動乱
38/67

3-6.介入者

 遊園地で起きた爆発と、魔獣出現という帝都民の安全を脅かすことが同時に起きる事件が発生して1週間が経過した。

 特殊部隊の面々は「裏切り事件」の調査を行いながら、度々起きる同様の事件の対処と調査に駆られ続けていた。

 調査の時間と事件の対処に追われ、部隊の面々一人ひとりの体力はどんどん消耗されていく。

 今日もまた、礼二達は事件の収集に追われていた。


「やってるね~」

 獅子奮迅する部隊の面々を高層ビルの屋上から見守る2つの影。

 痩せ細った体型でマントを羽織っている青年は、下界を見る神官のように(たたず)んでいた。その隣には小柄な体で、女性のように整った顔立ちの少年は不気味な笑みを浮かべている。

「ほんと、よく人間のために戦えるよね~」

「クリス、それが彼らの使命であり、自ら望んだ結果なんだよ」

「望んだ? 強制されているとかじゃないの?」

 クリスと呼ばれた幼さの残る少年は、礼二達の働きを見て無邪気に笑いながら話す。彼はぶらぶらと足を動かして下の様子を見ていた。

 隣で笑うクリスに対して、マントの人物は冷静に言い放つ。

「強制では無いとは言い切れないかもしれないけど、強いて言うならば命令と自分の意志は5:5の割合じゃないかな。気の乗らない命令だってあるだろうしね」

「へぇー…そうなんだねー……気が乗らなかったら従わなければいいのに。従うよう脅迫でもされているのかな~」

 2人は特殊部隊の面々を目で捉えながら、1人1人が抱く帝国軍に対しての反抗意志について推測する。軍の狗と世間で呼ばれているとはいえ、それまでは人間だ。

 人間であれば、自分のやりたくないことはあるし、「こうしたい!」と思う欲もある。

 社会の流れから、そのような欲は我慢すべきところがあったりするが、それはずっと続くものではない。

 コップに注がれ続ける水が最終的には溢れてしまうように、人間の欲は『我慢』と呼ばれる器から溢れてしまう。

 マントの人物は、そう思いながら特殊部隊の面々を見下ろし続ける。

「それ以上は俺達の知ったことじゃないだろう。人間の味方をするのならどちらにせよ敵だ」

「そうだね」

 2人は下で起きている魔獣出現と爆発騒ぎの様子を見守り続ける。

 魔獣に蹂躙される帝都民、魔獣を討伐しようと必死に戦い続ける特殊部隊の魔術師たち。彼らを手の平で遊ぶかのように、2人は彼らの動きを楽しんでいた。


 ◇ ◇


 9月下旬。

 遊園地で起きた事件と同様の事件がまた発生した。

 今回の出動は礼二、レイチェル、アイラの3人。3人は帝国軍基地から、通報によって伝えられた事件発生場所である帝都東京・西部へと車で向かった。

 20分後、中央部と西部の境目で車から降ろしてもらうと、帝都民が自分の命を守るように逃げ惑う様が見えた。

「場所近いのかね…」

「そうね。一旦、周辺を探してみましょう」

 アイラとレイチェルは事件の発生場所に予測を付けて、どこを確認するかを相談している。

 アイラは手馴れの軍人、レイチェルは戦闘に慣れていて洞察力が鋭い。2人は自身の力を上手く活用して協力し合おうとしている。

 うわ…入れない……

 人生経験13年にあたる礼二から見れば、2人が何をしているのか、あまり想像出来なかった。

 そのせいか礼二は2人の役に立てないと判断し、しょんぼりとしながら負い目を感じていた。

「礼二、発生場所が大体分かったから行くわよ!」

 自分自身の能力の無さに悲観していると、レイチェルに声を掛けられる。

 ハッとするように彼女の声に気付いてレイチェルを見ていると、手元には魔力で精製された球体があった。

 視点共有(シェアビュー)で大体の場所を探したのかな……

 金髪長髪の美女の探知能力に改めて驚かされる。レイチェルの力に驚いたのは礼二だけでなく、アイラも同じような反応を示していた。

「フラッド! その魔術は何!? シェアビュー、視点を共有するってことだよね!?」

「え、えぇ…そうだけど」

「凄いじゃん! 魔力で精製した球体に自分の視点を与えるって凄いよ!」

「そうかしら……?」

 アイラが彼女を褒め称えると、レイチェル自身は少し引きながら軽く答えていた。

 アイラの反応を見ていると、レイチェルの扱う魔術が特別な物であることが理解できた。本人はあたかも当然のように扱っているものだから、鍛錬を重ねれば出来るものだと思っていたが、簡単にいかないようだ。

「この話は後にしましょう。今は事件の収束が先じゃないかしら?」

「そうね。フラッドが割り出した場所へ向かうわよ」

「あと…シューさん、ここで本名は出さないほうが良いのでは無いかしら?」

「それを言うのはあんたもね!」

 2人は互いに本名を表に出していることを指摘しながら笑い合っている。後ろを歩く少年を気にせず、そのまま西部の奥へと走り去って行った。

 あの2人は気が合うなー……

 礼二はアイラとレイチェルの掛け合いに仲の良さを感じる。彼は2人に置いてきぼりにされた感覚を抱きながら追いかけて行った。


 走り始めて5分後。帝都西部の中心であり、都内経済の全てと呼ばれる施設『カルティアビル』前に辿り着く。

 辺りは大きな爆発があったのか、あちこちで爆発が起きたような建物の損壊跡があり、遊園地内に魔獣の存在を確認された時と同じように帝都民が混乱で逃げ回っていた。

「ちっ…毎度毎度何で魔獣たちが襲って来るんだよ!」

「それは分からないわね。でも、この出現頻度はおかしい。誰かの操作によるものかを調べるためにいつも来ているのではないかしら?」

 アイラとレイチェルは今の状況に対して互いに感じることを口にする。

 礼二も「何故ここまで魔獣の出現頻度が高くなっているのか」と疑問を抱いていたりしていたが、考えても仕方がないと頭の片隅に置いていた。

 事件が発生すれば何らかの情報が得られて、じきに解決へと導かれるものと思っていた。しかし、事件が発生する、今の状況で言えば事件が発生する度に誰か犠牲者が発生しており、言い換えれば犠牲者が出続ければ後々事件は解決するだろうと思っていたことに変わりはない。

 アイラが自分と同じように考えていることを知り、自分自身が楽観的な考えで事件を見ていたことに気付いた。そんな自分に礼二は落胆した。

「おいどうしたダーク(Dark)!? 早く付いてこい!」

「は、はい!」

 しょんぼりと落ち込んでいるところにアイラから叱咤を受ける。彼女の声に対し礼二はシャキッと反応し、2人の元へと走り始めた。


 3人が走って行った先には魔獣が人を襲う様が多く見られた。

 足を斬られたのか、腕で這いずりながら逃げる人。後ろを見ずに泣き喚きながら逃げ回る人。人の逃げる様が多く見られたが、結局は後ろから魔獣に襲われて死んでいった。

「いつもいつも人を襲いやがって! ダーク(Dark)リリス(Lilith)、2人は人命救助優先に立ち回ってくれ! 私は魔獣を狩りながら辺りを探索する」

フォース3(Force3)ちょっと待ってください!」

 礼二はアイラを止めようと声を掛けるも、彼女は気にせず先行し始める。レイチェルはその様を見届けながら魔獣に向かって走っていった。

ダーク(Dark)! フォース3(Force3)を追う為に辺りで逃げ回っている人たちを早く助けるわよ」

 彼女は礼二に向かって叫びながら魔獣と対峙する。先程までは何も持っていなかった右手には槍が現れていた。

 どちらにせよ倒さなきゃいけないのか…

 独断専行するアイラのことが気がかりではあるが、帝国軍人としては辺りで逃げ回る帝都民を助ける必要がある。

 礼二はアイラを追いかけたい気持ちを抑えて逃げ回る人々に襲い掛かる魔獣たちを狩り始めた。


 戦い始めて10分後、周囲に存在する魔獣を全て狩り終えた頃には警察や救急隊、周りからは帝都民の野次馬が集まっているためか、何やら騒がしい。

「これで周囲の安全は確認されたわね。ダーク(Dark)、これからフォース3(Force3)を追いかけるわよ!」

 レイチェルはそう断言すると、すぐさまアイラを追いかけて奥へと進んでいった。彼女に続けて礼二も奥へと進もうとすると、何か思い出したように後ろを振り向いた。

 目の前に広がるのは魔獣と人の死体が散らばりながらの血の海。

 なぜこんな平和な国で物騒なことが起きているのだろうか。

 礼二は惨劇の場が生まれてしまったことに苛立ちながらアイラを追い始めた。

 

 数分ほど、レイチェルと共にアイラを探していたが、周囲には全く見つからなかった。

 彼女はどこに行ったのだろうと思いながら辺りを見渡してみると、まだ探していない場所は「カルティアビル」の一箇所だけであることに気付いた。

「探していないのは、あそこだけね」

「あぁ……」

 2人はビルの前に立ち、そびえ立つ壮大な高さに感嘆の声を上げた。

 ビル自体は40階ほどの階層があり、上を見上げると爆発が起きたせいか、パラパラとガラスや壁の破片が落ちてくるのが見える。

「ここ、とても不安定ね…」

「そりゃあ…高い階層で爆発が起きたみたいだからね…」

 2人がビルの状況について話していると、建物の中から強大な魔力の気配を感知した。

 なんだ今の……?

 礼二は嫌な予感がした。

 あの中にはアイラが居て危険な相手と戦っている状態なのではないのかと…

 胸騒ぎがする。急いで行かなければ手遅れになってしまうような気がする……

 頭の中で、アイラが死ぬイメージをしてしまった。

「行ってみましょう」

「あ、あぁ……」

 礼二はレイチェルに声を掛けられてハッと現実に戻る。

 先程抱いた恐ろしい想像から目を背け、怯えている様をレイチェルに感じ取られないように平静を装う。

 2人はビル内部に潜入してアイラを探すことにした。


 ビル内部は一階の大きなエントランスから始まった。

 正面にはビルにある会社全体の受付窓口があり、左側には簡易的な打ち合わせや待ち合わせ用に作られたと思われるテーブルや椅子があり、右側には大きな食堂やテラスがあった。

 受付窓口の奥には上や下の階層に移動する為に作られた階段、エレベーターがあった。

 1箇所1箇所は、魔獣に襲撃されたのか、喰われたような人の死体や切断された四肢が辺りに散らばっている。

 そのせいか、臭いはとても酷いものとなっていた。

「臭いがキツイな……」

「鼻を手で押さえないほうがいいわ。相手の襲撃に対応できなくなっちゃうかもしれないから」

 一瞬手で鼻を押さえて臭いから避けていた礼二に対して、レイチェルは手も触れずに平然としていた。

 遊園地でミハエルがやっていたように鼻の周囲に魔力をコーティングして臭いから守っているのだろうか。

 彼が知っているぐらいだから彼女も知っていてもおかしくはない。

 鼻を手で押さえることについて指摘された礼二は、鼻の辺りに魔力を集中して臭いから守った。

「へぇ…いつの間にか、こんなこと出来るようになったのねー」

「えっ…何を出来るようになったって?」

 レイチェルは礼二に対して唐突に彼を横目で見ながら言った。彼は彼女が何について言っているのかが理解できず、再び聞きなおす。

「何って…鼻に魔力をコーティングすると鼻に来る臭いをシャットアウトする方法よ」

「これか。前の出動時にフォース2から教えてもらったんだよ」

「なるほどね」

 レイチェルは、教えたはずの無い魔術についての確認を取ると、目線を体の正面に向けた。

 なんだったんだろ……

 礼二は彼女が何故このようなことを聞いてきたのかが理解できなかった。魔術師の師として、弟子が知らないはずの魔力の使い方をいつの間にか使用できることになっていたことについて驚いたのだろうか。


「あ、アレは何…?」

 レイチェルが礼二の二の腕を掴んで、天井へ指を指す。

 彼女の指差した方向へ顔を向けると、そこにはぽっかりと穴が空いていることを確認した。

「ここで何があったのかしら…」

「知らん」

 礼二はレイチェルの心配を気にせず、ビルの食堂へと進み始める。

 進み続けていると、奥からは先ほど感じ取った大きな魔力の気配を感じた。

「この奥にフォース3がいるのか…?」

「彼女とは別の魔力も感じるわ」

 目の前の空間から魔力を感じ取ろうと目を閉じる。

 レイチェルの言った通り、奥からは別の魔力も感じられた。

 アイラ以外の魔術師がいるのか。それとも別の魔力源か。魔力源は敵なのか味方なのか。

 礼二は何が来ても良いようにと心の準備を整えて奥へと向かう。


 奥からズドンズドンと聞こえる何かをぶつけたような大きな音。

 辺りは電気が付いていないせいか薄暗くて視界があまり良くない。礼二とレイチェルは何だろうと思いながら音のする場所へと近づいていく。

「あれは…」

 約5メートル先に映ったのはアイラとマントを羽織った人の姿。

 アイラは両手に剣を持っており、マントの人物は片手に銃を持って彼女に向けていた。

「戦闘中かしら…」

 2人は目の前の状況を観察し、天井が崩れて落ちてきた瓦礫を隠れ(みの)にしながら、いつ飛び出すかの機会を窺った(うかが)。すると、マントの人物は手に持っていた銃をこちらに向けて何かを放った。

「うぉ!」

 飛んできたのは魔弾。瓦礫に着弾し、役目を果たした魔力は空気中に霧散(むさん)した。

 唐突に飛んできた攻撃に礼二は驚きの声を上げる。彼の声により、仲間が近くにいることに気付いたアイラはパッと後ろを振り向いた。

「お前ら!」

「ん、お仲間さんかな?」

 ハスキーな声が内部に響き渡る。アイラやレイチェルの声とは違うことから、マントの人物であることを礼二は察した。

 彼はアイラの反応を見て礼二たちが彼女の仲間であることを悟ったようだ。すると、彼はより身構え、2人に対しても敵意を剥き出しにする。

 ありゃあ…気付かれちゃったか……

 アイラと離れたこの位置に居るのも意味は無いので、2人は彼女と合流するように移動し始める。

 数メートル進むと、マントの人物は礼二に対し銃を向け、再び何かを放った。

「ダーク!」

「!?」

 避けきれないと直感で悟った礼二は瞬時に魔防壁を正面に展開して防御する。

 何だ今のは…

 放たれた何かが防壁に当たったところを確認すると、そこには焼けたような跡があった。これを見た礼二は、マントの人物が放っているのは魔弾であることを察した。魔弾を放つ際に向ける銃口から見るに、手に持っている銃から放っているようだ。

 しかし、魔弾を放つ動作を知ったとしても、弾速が速いせいで捕らえるのも容易では無いだろう。

 5メートル離れた瓦礫から走ってきた礼二とレイチェルは、何とかアイラと合流することに成功した。


「2人共、生存者の確保はやったのか?」

「やりました。だから今ここにいるんです」

 自分を助けるために与えた任務を放棄したと思ったアイラは、後輩の2人がちゃんと任務をこなしていることを知ってほっと胸を撫で下ろした。

 目標は1つ。偶然見つけた怪しい魔術師を連れて帰ること。

 目標を1つに絞ることができるようになって、アイラは苦しそうな表情からニヤリと何かが吹っ切れたような表情へと変わった。

 礼二とレイチェルは得物を虚空から取り出し、マントの人物との戦闘態勢を整えた。

「こっちは3人、そっちはアンタ1人だけど、それでも勝つつもりかい?」

 彼女は自分たちと相手の状況を鑑みて、マントの人物に煽りを入れる。


 戦力に違いがある。痛い目を見たくないなら投降せよ。


 アイラの言葉はまるでそのように聞こえた。

 彼女の脅迫に彼は何も動じない。それどころか、右手に持っていた銃をアイラに向けて口を開く。

「平和ボケした帝国軍人に負けるつもりは無いよ。むしろ…3人いたら邪魔じゃないかな?」

 マントの人物はアイラたちに挑発を入れた後、瞬時に姿を消した。

 刹那、3人の周囲に複数の魔弾が精製された。それは少しの間だけ辺りを漂い、3人に向けて放たれた。

 アイラとレイチェル、礼二は瞬時に魔防壁を展開して全方位を防御した。魔弾は防壁に着弾すると大きな煙を立て、周囲の状況を確認するための視界を奪った。

「ちっ…何だ今の!?」

 アイラは苛立つように声を荒上げる。

 周囲に展開された魔弾は対象を殺すものでは無く、煙幕を巻くものであると先ほど気付いたからである。

 辺りに撒き散らされた煙のせいで周囲を確認することもできず、マントの人物がどこにいるかさえも分からない。

 3人が戸惑っていると、礼二から見て正面の一ヶ所から魔弾の気配を感じた。

「!?」

 それが自分に向けられたものだと知り、彼は再び防壁を展開した。

「煙の外から攻めてくる気だ! どうにかこの状況を何とかしないと!」

「そうかい、それをどうにかするから吹き飛ばされないように踏ん…張れよ!」

 相手の狙いを理解したアイラは魔力を周囲に発散させると、マントの人物が生み出した煙は消え去った。

 辺りの視界がクリアになり、マントの人物が何処にいるかを探し始める。

 どこに行ったんだ……

 あちこち探しても見つからない。疑心暗鬼になりながら周囲を見渡す。

 数秒すると、礼二の正面に再び魔弾が飛んでくる。直感で感じ取った彼は防壁を一瞬展開して防御する。

「ちっ…アイツはどっから狙ってきてやがる……」

 姿の見えないマントの人物がどこかで狙撃しようとしていることを理解したアイラは、苛立ちながら周囲を見渡す。そして再び新たな魔弾がレイチェルやアイラにまで襲い掛かる。

「鬱陶しい!」

 2人も同様に防壁で自らの身を守った。

 本当に何処から攻撃をしているんだ……

 相手の居場所が分からないと反撃のしようが無い。礼二は必死にマントの人物の姿を探そうと首を横に振っていると、脳内から直接声が響いてきた。


 何か聞こえた……?

 響く声は微かな音から始まって次第に大きくなり、遂には鮮明でクリアに聞こえるようになっていった。

[フラッド、神原…聞こえるか? 聞こえたら5秒以内に返答しろ]

 声の主はアイラだった。しかし、当の彼女は口を開かずに辺りを警戒している。

[私を見てどうした神原? あぁ…君はテレパスのことを知らないようだな]

[そうね、礼二にこの魔術は教えて無かったわね]

 最初に聞こえていたアイラの声に加えてレイチェルの声も聞こえてきた。

 えっ、えっ…どういうこと?

 意志の無い妄想という訳でも無く、声はまるで意志のあるように思えた。

[魔術の原理としては、自分の考えていることを魔力に込めて相手に送り込むイメージだ]

 再びアイラの声が頭の中から響いてくる。半信半疑になりながら、彼女に言われた通りのイメージを込めながら魔力を2人に散布した。

[HelloWorldって…。君はプログラマーか……]

[こんにちは世界? どんな世界に目覚めたのかしら]

[一応届いたみたいですね。急にどうしたんですか?]

 変なことを言い出す2人を礼二は気にせずに尋ねた。

[…今さっきまでの魔弾の軌道を見ていると、あのマント野郎があの向こうにいるんじゃないかと思ってね。2人に突撃までの支援をお願いしたい]

 アイラの話は、今後の動きについての相談だった。

 マントの人物が正面に隠れていると想定した上での突撃。学力テストでやまを当てるなら問題は無いが、命のやり取りをしている戦場において、このような懸けを安易に行っても大丈夫なのだろうか。

[それはいいですけど、読みが外れた時はどうするつもりですか?]

[それはその時に考えるさ]

 アイラは行き当たりな作戦を行おうとしていたようだ。後のことを考えると危険なことではあるのだが、一旦彼女の提案に乗ったほうが良いだろう。

 相手の意表を突くためには、これぐらいの無茶は必要経費だ。

[了解です。カウントはどれくらいで?]

[私が「GO」と言ったら防壁なり援護射撃を頼む]

[分かったわ。礼二はまだ付加(エンチャント)が分からないと思うから、あなた自身には私が魔術支援を行うわ。というわけで、礼二は援護射撃を]

[了解]

 3人は現在地から全く動かずに頭の中で対話をし続ける。すると、正面から再び魔弾が飛んできた。

[ちっ、また来たか…だが今がチャンスだ! 3、2、1、GO!]

[カウント早っ!?]

 唐突に飛び出した彼女に驚いた礼二とレイチェルは急いで支援に移った。レイチェルは彼女の周囲に防壁を展開させ、礼二は回り込んで正面に対して魔弾を放ち始めた。

 アイラの接近に対する抵抗か、正面から放たれる魔弾の弾幕は濃くなった。中には彼女に直撃するものもあるが、アイラは両手の剣で顔を守るように構えながら走り続けた。

 一撃一撃と飛んでくる魔弾を掠ったり足や腕などに当たったりしていた。ガンガンと鋼鉄をぶつけるような痛い音が聞こえてくるが、それはレイチェルから掛けられた魔術の防壁によって大概は防ぐことができた。

 アイラは飛んでくる魔弾を剣で弾きながら進行し続ける。マントの人物を見つけたのか、唐突に頭の前に構えていた剣2本を横に振るう。

 すると、彼女の上からマントの人物が姿を現した。

「捉えた!」

 礼二は飛んで無防備となったマントの人物目掛けて魔弾を放った。しかし、彼は空を蹴って避けた。


「避けた!?」

「当たり前よ。あなたもそういうこと出来るでしょ!」

 空を飛んで避けた相手の姿に驚いた礼二はレイチェルに理由を説明する。

 マントの人物は右に飛び、アイラに対して魔弾を放つ。彼女は反射神経でかわし、2本の剣による連撃を重ねた。彼は華麗な身のこなしで攻撃をかわし、持っている銃で剣を受け流したりしていた。

 数回に渡って互いの攻防が続くと、マントの人物はアイラに蹴りを入れて距離を取った。

「ちっ…!」

 彼女は舌打ちをしながら再度接近しようと距離を詰める。すると彼は左手をマントの中に入れ、新たに銃を取り出して魔弾を撃ち始める。

 マントの人物に近づくまでに掻い潜る弾幕は、さらに激しさを増した。

「近づけない…」

 弾幕の濃さに彼女は嘆いた。1丁だけでも抑えきるのに苦労しているというのに、さらにもう1丁となると、飛んでくる魔弾の数が増えてきて面倒になるだろう。

 案の定、マントの人物は2丁の銃を使って多くの魔弾を生み出した。荒れ狂うような弾丸の嵐。アイラは大量の魔弾を正面から受けた。

「うわああああ!!」

 硬化の付加を掛けていたにしても魔弾の衝撃は体にまで届く。銃弾の振動は青年男性のパンチの威力まで落ちている。しかし、この衝撃が体に無数に伝わるとなると、これでも想像も出来ないぐらいの痛みとなる。

「フォース3!」

 礼二は魔弾によって蜂の巣とされているアイラの元へと向かい始めた。2人の下へと飛んでくる魔弾は激しいものであったが、アイラが盾になってくれているお陰で少なくなっていた。

 剣を構えて右から回り込む。アイラの後ろから何かが出現したことに気付いたマントの人物は、彼に向けて銃口を向けようと左手の銃の位置を動かした。

「よっしゃ!」

 今ここで攻めれば蜂の巣にされてしまうのが分かっておきながら、なぜ攻めたのか。

 それは相手からの射撃の的を1箇所から2箇所にすること。そうすることによってアイラの負担を減らすことを目的としている。

 これが上手くいった今、アイラは防御から攻めへと転じることができ、礼二と共に攻めることを可能となったのだ。

「ちっ…!」

 マントの人物は都合が悪くなったのか、口元を歪ませた。アイラに対する弾幕が薄くなり、彼女は身を屈めながら動き始めた。

 彼は2人から距離を取ろうと後ろへ下がった。しかし、礼二とアイラは逃がさないように距離を再び詰める。

「はぁぁああああ…!!!」

「うらぁああああ…!!!」

 2人はマントの人物に一閃。だが、剣の一振りは相手の胴体を斬り裂けた訳でもなく、マントの端を斬り裂いただけだった。

「ちっ…もう少しだったのに!」

 礼二はそう言いながらさらに接近を試みる。だが、それは見えない壁によって遮られた。

「遊んでいたつもりが、まさか一泡吹かされることになるとはね……」

 マントの人物は見えない壁の奥から2人を嘲笑しながら一瞥した。彼はそう言いながら近くにあった壁に大きな魔弾を放って壁を崩壊させた。

「帝国軍の特殊部隊とやらも楽しめそうだね。これは良い収穫だ」

 マントの人物は礼二達と戦えて嬉しそうな表情を浮かべながら建物の外へと出た。

「おい、待ちやがれ!」

 退いていく敵の存在に、アイラは苛立ちを込めながら叫んだ。見えない壁は未だ消えず壊れず。彼が空の彼方へと行くまで壁は消えなかった。

「クッソ! 逃げやがった!」

 アイラは逃げていく敵を目の前にしていたことに苛立ちを感じた。あそこまで追い詰めていたはずなのに、相手に軽くあしらわれていただけであることを知って、さらに苛立ちを感じていた。

 帝都東京西部の爆発と魔獣の襲撃事件は終わりを告げ、第三者の介入という新たな謎を残していった。

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