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CODE-D  作者: ryu8
3章 帝都動乱
37/67

3-5.不吉な余韻

 帝都南区。

 帝都内で遊園地、ゲームセンターなどの娯楽施設が多く集められている地区である。

 住宅街や食料品などが販売しているスーパーもあったりはするが、都内の中では一番多く娯楽施設が集まっているところから、帝都民からは『娯楽区』と呼ばれている。


 礼二とアイラ、ミハエルの3人は南区へ向かうべく、軍隊の武装車両で現地に向かっていた。

 通報の受けた内容としては、南区の遊園地で急に爆発が発生すると同時にテレビに映っていた得体の知れない化け物が出現したというもの。爆発と魔獣は何らかの関係性があるのか、または爆発が起きているが魔獣はなぜ無事で入れたのか。それらを調査するためにも礼二達は、どのように動くかを話し合っていた。

「まずは魔獣の排除かつ周辺にいる帝都民の避難誘導だ。調査はその後から行おう」

「了解です」

「あいよ」

 アイラは現地に着いた時の行動についての話をしている。2人は彼女の話を聞きながら動きをイメージしていた。

 帝国軍基地から南区までの距離は車で20分程。こうして移動している間にもどれだけの人が犠牲になっているのだろうか。

 移動に掛かる時間の間は自分達が居なくて大丈夫だろうか。

 魔獣に襲われている人達をすぐに守ることができず、礼二は右手の人差し指で膝辺りをトントンと叩いていた。

「焦る気持ちは分かるが、もう少し落ち着いていこうぜ」

 ミハエルは肩に手を置いて彼を落ち着かせようとした。しかし、礼二は全く落ち着く様子は無く、未だイライラしているような雰囲気を醸し出していた。

 漂う雰囲気にイラだったのか、アイラは彼に対して冷たい視線を放つ。

「神原、いい加減落ち着くんだ。どう足掻いても移動には時間が掛かる。どっちにしても犠牲は付き物だ」

 彼女は何か含みを含んだような声色で現実を語った。唐突に予想外な言葉を聞いた礼二は、彼女に冷たい視線を投げかける。

 2人の間にいるミハエルは、板挟みされている感じがしてとても居心地が悪い様子だった。

「ちょっと姉さん……」

「どういうことですか…それ…?」

 ミハエルは、少しアイラへと体を前に乗り出した礼二を腕で抑えるようにした。その時の礼二は怒りに満ちかけている顔をしており、今にでも爆発しそうな感じだった。

 アイラは彼が放つ敵意の感じる視線は動じず、平然とした態度で口を開き始めた。

「あんたがどれだけ急いで人を救いに行こうが、結局誰かが犠牲になるってことだよ」

 必死に助けたとしても結局は誰かが死ぬ。彼女の発言はまるで現実に諦めを抱いているような感じだ。

 帝都民を守る帝国軍人がこのような考えを抱いて良いものなのか。

 そう考えた礼二は、何も考えずに口を開いた。


「だったら、犠牲を生まないようにすればいい」

 あまりにも実現しないような無謀な策。現実を見ずに理想だけを見つめた少年の言葉。

 無茶苦茶で青臭い考えを聞いたアイラは、礼二に対して氷のような冷たい視線を浴びせ続ける。

「どうやって?」

「それは……」

 案の定、方法について問われた。

 感極まって発言したのが見透かされているのか、彼女の顔は微笑んでいるように見えた。

 犠牲を生まないようにする。どうやって?

 今、自分が言っていることがどれだけ夢見がちで無謀なことは分かっている。不可能な願いであることも分かっている。しかし、出来ないとは言わずにどう押さえるかを考えるべきではなかろうか。

「だったら…24時間体制で考えたらどうですか?」

「なら聞くけど、それぐらいの人員はどうやって集めるんだ? 24時間体制でいるならば、今いる戦える人数では足りないぞ。ただでさえ魔術師という存在自体も少ないのに」

 苦し紛れに出た案も、容赦なく潰される。口にした理想論は現実味のある問題点によって阻まれた。

 アイラに案を否定された礼二は顔を俯けた。

 まるで現実を見ていないといわれているようで、とても悔しくなった。


「まぁ現実はそうだが、そんな理想を掲げて戦うのもほどほどにしとけばいいかもな。神原の考えていることは全否定はしないさ」

「そうですか……」

 現実に夢見がちな自分に対しての情けだ。哀れみだ。

 姉御肌で言いたいことはズバズバ言う彼女だからこそ、今言った言葉は本心であることが予想できる。

 礼二はしょんぼりとしながら下を見続ける。アイラは気まずくなったのか、目を閉じながら自分の出番を待つことにしていた。

「まぁ…あまり気にすんな。姉さんだってお前のことを嫌って言ったわけじゃないんだし」

 耳元に囁かれるミハエルの声。

 唐突に現実を叩き込まれて傷心している礼二に囁かれた言葉は優しいものであったが、彼の心にはあまり響かなかった。


 ◇ ◇


 3人を乗せた車が帝都南区にある遊園地へと辿り着く。

 車が止まることを感じ取った時、アイラと礼二、ミハエルはすぐさま車から身を出した。空は晴天ではあるが、建物が燃えているのか、煙が辺りを漂っている。

 電動の遊具が破壊され、爆発から生まれた火炎により焼かれて建物が焦げた臭い。同時に犠牲になったであろう人の血の臭いも辺りを漂わせていた。

「こりゃ…急いだほうがいいかもな」

 アイラは周囲を見渡しながら状況を確認していると、遊園地前の広場では入り口から逃げるように多くの人がこちらに向かってくるのが見えた。

「現場はあの向こうのようだね」

「それでは行きますか!」

「はい」

 3人は遊園地の入り口から内部へと入り込む。内部に入り込むと、まだ逃げ切れて居ない帝都民が逃げ回っている様子が見えた。

「魔獣はどこだ?」

「あそこじゃないのか?」

 ミハエルは一方向に指を差すと、魔獣が帝都民を蹂躙している様が見える。

 腕には胴体を突き破られた人、辺りには逃げ惑う人を刈り取ったのかと思われる人間の体の一部が散乱していた。

「うわ…中々ひどいねぇ……」

「感心している場合じゃない。さっさとやるぞ」

「あいよ」

 ミハエルとアイラは暴れた跡のある魔獣の姿を見て、討伐しようと正面から向かっていった。


 またこんな状態なのか…

 ショッピングモール前の広場や修練の島で起きた魔獣の襲撃受けた後の惨状を思い出す。

 魔獣に蹂躙される人々。辺りに散らばる人だった肉の塊たち。

 とても見るに絶えない惨状。

 礼二は脳裏に浮かんだ光景を拭うように首を振り、魔獣の元へと向かっていった。

 園内には阿鼻叫喚する男女の悲鳴が響き渡っていた。

 裂かれ、食われていく肉体の痛みに耐える叫びは、礼二の耳の奥を刺激した。

 もう…聞きたくない……だからこそ、俺がやるんだ…!

 あの酷い光景を二度と目の当たりにしたくないと礼二は走っていた。

ダーク(Dark)は周囲の人たちの救出。フォース2(Force2)は私と一緒に魔獣の撃退を中心に動こう。それじゃあ行くぞ!」

 礼二はアイラにそう言われ、周囲の状況を確認する。広場の中心には魔獣が5匹近くいる様子。

 魔獣から逃げ回る人。その中に今にでも襲われそうな女性がいた。

 礼二は襲われかけている人たちの元へと向かっていく。右腕を平行に伸ばし、何も無い空間から長剣を取り出した。

 もう俺らが来たからには誰も死なせはしない!

 頭の中で理想を思い描き、実現させるために魔獣討伐に意気を込める。


「はぁああああ!!!」

 礼二は長剣を両手で持ち、3メートル前の魔獣との距離を一気に詰めてから振り上げた。

 魔獣は体を斬られて痛がるような鳴き声を上げたが、彼は気にせず斬り続ける。斬り刻んでいる肉塊が7等分ほどに刻まれた状態になったのを確認すると、民間人のいる方向へと振り向いた。

「怪我はありませんか?」

「い、いやぁ!」

 まるで化け物を見るかのように拒否をされる。

 自身の命が救われたはずの女性に予想外な対応をされて、礼二は少し放心状態に陥った。

 え…なんで俺は怖がられたんだろう……

 目の前にいる人間が何故自分を見てこんなに恐れているのだろう、と考えていると、後ろから1つの気配を感じた。

「また来やがったか」

 後ろから近づくのは2匹の魔獣。左右に並んで同時に襲ってくるように感じる。

 礼二は先ほどまでの思考を断ち切り、後ろにいる敵を撃退することにした。


 右手に持つ長剣を体の正面へと構え、魔獣2匹の襲撃に備える。

「すいません、今はここから動かないで欲しいです! あなたに動かれると守りきれる自信が無いので」

 動かれると魔獣の狙いが定まらなくなるので、後ろにいる女性に声を掛ける。

 彼女は顔を上下に揺らして頷いた。それを背にして見えない礼二であるが、全く動く気配が無いことを悟って同意の意志を示しているように感じていた。

「ぎゃおおおお!!」

 目の前に迫り来る魔獣の姿。

 最初は怯えていたはずだが、今になっては怯えどころか怖さも何も感じなくなっていた。

 これは皮肉だな……

 化け物と正面に向かい合ったことに慣れている自分が何だか怖くなってしまう。礼二は自身に対する恐れから目を背き、目の前の魔獣の動きに集中する。

 左側に位置する魔獣は口を大きく広げながら突っ込み、右側にいる魔獣は腕を後ろへと回そうとしているのが見えた。


 礼二は左手を正面に掲げ、手の平から魔弾を精製した。それを左側の魔獣の口へと入り込んだ。すると、左にいた魔獣の腹が急に膨れだす。腹はどんどん膨らみ、やがて破裂して体の中身が飛び散った。

 右側の魔獣は隣にいた仲間が排除されたことを気にせず礼二の元へと走り続ける。

 彼の目の前に辿り着いた魔獣は振り上げた右腕を横に振るおうとする。礼二はそれを屈んで避け、敵の胴体に向けて長剣を横に振るった。

 魔獣の体は上下真っ二つに両断され、上半身は上空へ舞う。

「あ……あぁぁ………」

 礼二の後ろに居た女性は衝撃的な光景を目の当たりにして口をパクパクとさせて呆然としている。

 後ろから何らかの気配を感じた彼は、横目で後ろを確認する。呆然と立ち尽くす女性の後ろには魔獣が襲いかかろうとしていた。

 礼二は彼女の後ろにいる魔獣に向けて左手をかざした。

「ちょ、ちょっと!?」

 自分が何かされると感じたのか、女性は礼二に対して何をするのか訴え始める。しかし彼はその言葉に耳を傾けず、左手の手の平に魔弾を精製した。

「動かないでください。当たるかもしれないので」

「ひっ!?」

 礼二の発言に女性はぎょっと身を縮こまらせて動きが止まった。「これで動かないだろう」と思ったのだが、彼女は落ち着きを取り戻すと、魔獣から逃げようと礼二の元へと走り出す。

「早くやってよ!!」

「!? だから動かないでください!」

 女性が急に動いたのに反応したのか、魔獣は彼女を追いかけるように走り始めた。


 狙えねぇ……

 女性の頭が走るたびに左右にも動くため、後ろにいる魔獣を思うように狙うことができない。

 やむを得ず1点だけを集中して狙おうとするが、射撃に失敗した時のことを考えて、狙うことを辞めた。

 ならばどうする?

 答えは簡単だ。的が障害物のせいで狙えなければ、狙わず斬れば良い。

 礼二は走ってくる女性の横を通って魔獣の元へと走り出し、右手に持つ長剣を左下に構えた。

「うぉりゃああああ!!」

 気合の入った掛け声と共に目の前にいた魔獣の上半身と下半身が斜めに両断された。

 女性は無惨な魔獣の体を背にし、今がどんな状態であるのかを察した。そのためか、全く振り向く様子がない。

 そのまま居座られても困るため、礼二は後ろでへたりこむ彼女の腰周りを掴み、体全体を持ち上げた。

「ちょ、ちょっと!?何する気!?」

「邪魔なんです」

 彼女の声は全く気にせず遊園地の門へと走り始める。背中が叩かれているような感じがするが、それも気にせず走り続ける。

 門まで残り数メートルに差し掛かったところで、後ろから1匹の魔獣が迫り来るのを感じた。

「また来やがったのか……」

 後ろからやってくる魔獣はドンドンと足音を立てながら礼二と女性の元へと近づいてくる。

 このままでは2人共やられてしまう。

 礼二は腕に抱きかかえている女性を少しだけ下ろして撃退しようと考えていたところに、ライフル弾が地面に撃たれたような音が聞こえた。

「きゃあああああ!!!」

 礼二の腕に抱かれている女性は理解不能な状況に混乱して叫び始める。

 ズドン、ズドン、ズドンと大きな威力を持つ弾丸の雨が降るような音。

 雨は10秒ほど降り続けると音は止まった。

「なんだ…」

 礼二は後ろ目に状況を確認してみる。

 そこには夢の国へと広がる遊具前の広場が小さなクレーターばかりが出来上がって、夢の欠片も何もない現実染みた戦場へと変貌していた。

 その中には魔獣らしき肉塊が辺りに飛び散り、周囲にはもくもくと煙が立っていた。

 何が起きた……?

 礼二と民間人の女性は、自分達の置かれている状況に困惑していた。

ダーク(Dark)、大丈夫か?」

 爽やかな声と共に煙の奥から人影が見えた。それはどんどん彼らのところへと近づいていき、姿を現す。


フォース2(Force2)! フォース3(Force3)と一緒なのでは?」

「姉さんならあっちで残っている奴らと楽しんでるよ」

 ミハエルは遊園地の奥にあるアトラクションの方へと指を差す。

「残っている奴らって…大丈夫なんですか? さすがに1人では…」

「問題ねぇよ。むしろあの人はそれが本望だからね」

「戦闘狂ですか……」

 礼二の中で抱いているアイラに対するイメージを知った瞬間だった。ミハエルは辺りを見渡すと、ほっと一息つきながら口を開いた。

「ここら辺一帯は大丈夫かな。一応、姉さんのいるところに行ってみようか……ダーク(Dark)、よく少ない犠牲で済ませたな」

 彼は礼二を見ながら犠牲者の少なさを褒めた。しかし、礼二から見れば『犠牲者が少ない』だけであり、『被害者が居ない』訳では無い。その考えがあるせいか、あまり自分を賞賛する気持ちにはなれない。

「それはともかくとして…早くこの人を安全区域に移動させないと」

「そうだった」

 礼二の腕に抱きかかえられている民間人の女性。彼女は先ほどの弾丸の雨を見て気を失っている様子だった。門までの距離は数メートル。礼二は彼女を門の外にいる警察へと身柄を引き渡し、ミハエルの元へと戻った。

「生き残っている民間人の無事を確保したことだし、姉さんの状況でも見てくるか」

「はい」

 ミハエルは、礼二が腕に抱きかかえていた女性を門まで見送り届けることを確認すると、アイラのいる場所の状況確認を進める。

 すると、遊園地の奥から人影が見えた。


「何でしょう…アレは…」

 礼二は目を凝らして人影を見てみると、アイラであることが分かった。

「お、姉さんじゃないか。狩りは終えたようだね」

 2人はアイラの元へと向かい始める。彼らの存在に気づいた彼女は右手の親指を上に上げて前に掲げた。ミハエルの反応から窺うに、彼女が発しているサインは問題無いとのサインのようだ。

「姉さん、無事だったみたいだねぇ~。戻ってきたってことは、辺りに魔獣はいないんですね」

「あぁ…私が見たのは全滅させた」

 アイラは疲れたような声で2人に奥の状況を伝える。

 どれだけの魔獣がいたんだろう……

 彼女の疲れている様子を見て、礼二は奥にいたはずの魔獣について想像した。

「さて、安全も確保出来たことだし、周囲の調査に入ることにするか!」

 疲れ果てているアイラを他所に、ミハエルは次の行動をしようと提案を行う。

 その瞬間、彼に向けて彼女の鋭い目線が向けられた。疲れている人間がいるのに次の行動に移れる思考回路に苛立っている様子だ。

「現場調査は2人でやってくれ。聞き込みは私がしよう」

 アイラは思っているであろうことを心の中に受け止めて話を進めることにした。

「了解~」

 ミハエルはアイラの雰囲気を察しず、彼女の言葉に賛同した。彼の賛同を確認したアイラは「うん」と頷いた後、そのまま2人を通り過ぎていった。

 大丈夫かな…めっちゃ疲れているように見えるけど……

 礼二は彼女の状態を心配に思ったが、自分たちの見えないところで一息ついてから仕事に入るだろうと考えてあまり気にしないことにした。

「それじゃダーク(Dark)、調査を行うぞ」

「はい」

 アイラが門の外へと移動したのを確認すると、2人は遊園地の奥へと歩いていった。


 ◇ ◇


 遊園地のゲートを超えた大広間に、礼二とミハエルはいた。

 辺りはアイラが戦ったと思われる魔獣の肉塊や血によって酷く汚れていて、刺激のある異臭に包まれていた。

「派手にやっちゃったねー…」

「一方的に狩りつくしたんですかね…」

 酷い有り様を見た礼二とミハエルは少し顔をひきつらせた。

 今は晴天でまだマシに見えるかもしれないが、空が曇り模様であれば世紀末臭がしそうだ。

 2人は血の海や肉塊に触れないようにしながら周囲を歩き始めた。

「あちこちに肉片が散らばってますね……どういう戦い方をしたのでしょう……」

「あの姉さん、戦う時はやばかったぞー。十数体を相手にしたときの目は得物を狩る目だったぞ…姉さんの武器である2本の剣を抜いた時にふっと微笑んだ瞬間がやばかった」

「あの人は戦闘好きだったんですか…」

 礼二はミハエルからアイラが戦闘をする時の姿についての話を聞いていた。


 遊園地のゲートを潜り抜けた先には多数の魔獣。

 それを確認した彼女が微笑みながら2本の剣を抜く。

 不気味な微笑をしながら彼女は魔獣の群れの中へと走っていく。走った先では魔獣の四肢をバッサバッサと斬り落としていく。


 彼女の動きを見た彼はゾッとしたらしく、欲張って魔獣討伐には関わらなかったらしい。

 礼二はこの話を聞いてアイラに対するイメージが大きく変わった。

 あの人怖すぎる……

 頭の中でイメージしてみると、弱者を虐殺する支配者のような彼女の姿が浮かんだ。

 現実で敵にしているのは人間よりも身体能力や殺傷能力の高い魔獣であることを忘れないでいただきたい。


「さて、怪しそうなところを一通り探してみますか」

「そうですね」

 2人はアイラの話を切り上げ、調査についての話をし始める。

 ミハエルから聞いた話では、ジェットコースター乗り場の近く、トイレ、観覧車近くが怪しいとのことなので、まずは3箇所から確認することにした。


 ジェットコースター乗り場。

 周辺には魔獣が唐突に現れて戸惑ったと思われる人達の死体があちこちに散らばっていた。

 死体は四肢がバラバラに切断されて犠牲者が何人いるかも分からない状態になっている。

「うお! 中々酷いな…」

「日中の暑さもあってか、臭いがとてもキツイですね……」

 秋の季節とはいえど、日中は太陽によって暑さが生まれる。周囲には暑さによって死体から溢れる腐敗臭に満ちていた。

「この臭い、どうにか出来ませんかね……」

 礼二はズボンのポケットに入れていたハンカチを使って鼻を押さえながら歩く。

 ミハエルはどのようにして耐えているのだろうと思い隣を見てみると、彼は鼻に何も押さえていない様子だった。

 「どうやって耐えてるの?」と感じた礼二は、彼に尋ねる。

「って、ミハエルさん! 何もしなくて大丈夫なんですか!?」

 礼二は彼が異臭に対して何も対策を取っていないことに驚き、彼に尋ねる。ミハエルは頭の上にはてなマークを浮かべるように首を傾げた。

「どうした神原、何驚いてんだ?」

「そりゃ、この臭いの中でよくもまぁ鼻を押さえずに動けるなと……」

 鼻を押さえ、礼二は苦虫を噛んだ様な顔をしながら言った。ミハエルは理解したのか、左手を受け皿として右手をポン叩くような反応を見せる。

「簡単だよ。自分の中にある魔力を鼻辺りに集中。そしてそれを鼻の粘膜あたりをコーティングするようなイメージだ。試してみるといいよ」

「そうですか…」

 礼二はミハエルに言われた通りに、内に秘める魔力を鼻へと集中し始める。鼻の先で魔力が籠るような感覚。鼻先に意識を集中し、鼻の粘膜と異臭が隔離されていく。

「ほんとだ。快適になりました」

「だろ? 魔力ってのは上手く使えば万能なんだよ」

「へぇ……」

 魔力の便利さを改めて理解した礼二はミハエルと引き続き調査を進めていく。

 ジェットコースター乗り口へと繋がる建物の中に入っても外の状況とは対して変わらなかった。屋内に逃げ回った人たちが襲われたのか、あちこちに死体の一部がバラバラに散らばっている。

「ここもかよ……」

「酷いな…」

 2人は外と同じような悲惨な状態をあまり直視したくない感情に浸った。

 とても無惨で、この場所にいるだけで別世界にいるような雰囲気だ。

「これ、どうやって掃除するんですかね……」

「しばらくは閉園かな。トラウマになって来る人も少ないだろうよ」

 この遊園地の行く末について話しながら怪しいところが見つかるかを目視で探す。

 すると、ジェットコースターが発射する入り口に何か大きく引っかかれたような木材の傷跡が見えた。

「ミハエルさん、アレは何だと思います?」

「ん? 爪跡…かな?」

 礼二は見つけた木材に付いていた傷に気付き、ミハエルに報告を行う。

 それを見たミハエルは傷の存在が気になり、爪跡のあるところへと近づいていった。

「うーん…魔獣の爪跡かな……」

「魔獣のですか」

 爪跡は大きく、ジェットコースターの入り口から魔獣が入ってきたのでは無いだろうか。

 礼二はそう考えながら、入り口の外へと歩いていった。


「おい神原、どこ行くんだ?」

「ちょっと気になるところがありまして」

 足場の不安定なレールの上に足を乗せ、近くにあったバリケードを掴みながら外へと移動していく。

 入り口からひょんと身を乗り出し、周囲の状況を探った。

 右手の方向から見える壁には引っかいたような爪の跡があり、礼二の予想が確信に変わった瞬間だった。

「危ねぇぞ、おい」

 後ろからミハエルの声が聞こえてくる。彼は礼二の服を掴んで屋内へと引きずり込んだ。

 引きずられた礼二は、ひょんとした顔で彼を見つめた。

「何するんですか?」

「お前が危ない行動するからだろ」

 持ち前の顔立ちもあってか、何故だかイケメンらしい台詞に感じる。今この瞬間、背景にバラが咲いたような気がする。

「それより、何か見つかったのか?」

「あぁ…そうでした。外に魔獣が出現した手がかりとか無いかな、と思いまして」

 礼二は自身の行動について彼に話す。ミハエルは怪しそうな顔をしながら礼二を見つめた。

「へぇ…それで何か見つかったのか?」

「えぇ、魔獣の爪跡が見つかりました! 読み通りです!」

「爪跡?」

 ミハエルは礼二が身を乗り出していたところへと歩いていった。彼と同様に身を乗り出して状況を確認する。

「なるほど。神原はこれを見て魔獣がここから入ってきたところから、近くに何かの仕掛けがあると見ているわけだな?」

「そうなんです!」

 ミハエルは礼二の考えを予想するかのように話した。礼二自身、自分の考えが分かってもらえてとても嬉しい気分になった。

 喜んでいる礼二を見たミハエルは「あっ、こいつはまだ子供だ」と思いながら溜息をついた。

「じゃあ、ここら辺を中心に見てみるか」

 彼の考えに賛同したミハエルは、礼二と共に周辺を細かに調査することにした。


 数分後、辺りを調査していると、ジェットコースター乗り場の入り口の反対側に何か壊れた部品を見つけた。

「何これ?」

 大きさは寸法3センチメートルほどの部品で、偶然外れたネジと言うには説明し難い形をしていた。

 一応、証拠品として持って行くか……

 礼二はズボンのポケットに入れていた手袋をはめて、ジップ式のビニール袋の中へと入れた。

「ミハエルさん、ジェットコースター乗り場入り口の反対側にこんな物が落ちていました」

「ん、何だこれ?」

 ミハエルは礼二が持っている物に疑問を抱いた。それを彼に渡すと、袋のふちを摘まむように持ち、まじまじと観察し始めた。

「ジェットコースターの部品が外れているだけだとは思うが、一応持っていくか……次の場所に行こう」

 ミハエルはそう言いながら次の場所への移動を促しながらジェットコースター乗り場から離れようとしていた。

 礼二も彼の後ろに付いていくように乗り場から離れていった。

 早く助けに来れなくてごめんなさい。

 現実をあまり見つめられない少年は、周囲に転がる人間だった物を背にしながら黙祷をした。


 残りはトイレと観覧車の周辺。

 2箇所とも細かく探してみたのだが何も怪しい物が無いどころか、人の死体も全く見当たらなかった。

 1箇所ずつ20分近くは辺りを捜索してみたのだが、結局見当たらない。

 礼二とミハエルは何らかの被害も無いと判断し、遊園地内の調査を終了することにした。

2016/08/27 誤字修正

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